他人目線で夢主を語ってみた(金色の少年の場合)
オレにとって先輩は、命の恩人だった。
出会いの切っ掛けは、オレがドククラゲとメノクラゲ達に文字通り絡まれて溺れていた時、先輩が偶然側を通ったこと。
本当に偶然だった。しかし、その時先輩が近くを通らなかったら最悪、オレは今ここに居なかったかも知れない。
いや、もしかしたら町の他の人達に助けられたかもしれないし、また全く知らない別の人に助けられたかもしれない。そんな“もしも”は言い出したらキリがねぇ。
その後、一緒に溺れていたエイパムも助けてもらった挙げ句に、ついでと言わんばかりにドククラゲ達を簡単に蹴散らした。
当時のオレはまだ、ポケモン連れて一人旅が出来る年齢じゃなかったからな、そんな颯爽と現れてはズバッと決める先輩の姿がカッコよく見えたんだ。
オレと母さんのワガママで一晩家に泊まってもらった一日しか一緒にいなくて、次の日には出ていっちゃったんだけど。
晩御飯とかも一緒にして、あの時ジョウトはまだだったらしいんだがカントーは何度か旅してるって聞いた時は夜遅くまで色んな話を聞いたもんだ。
まさか、先輩後輩の関係になるなんて思ってもみなかったけど。
今のオレにとっての先輩は、ポケモンが大好きで頼れる正義っぽくない先輩。
元々、頼りになる先輩だって認識は大して変わらないけれど、あのポケモンの大好きっぷりを見て大分イメージが変わったのは言うまでもねぇ。
というか、オレが普段拝んでいる“人間に対する顔”と“ポケモンに対する顔”のギャップがあり過ぎて、キャラ崩壊してるんじゃねぇかって思った。
シルバーも、先輩がポケモンに向けている顔を初めて見た時は驚いた顔をしてた。当然だわな。
逆にクリスは、既に先輩がどういった人物なのか先にある程度聞いていたからかそこまで驚いてはいなかった。ただ、本当に人が変わったように差があるんだなといった感じだったな、ありゃ。
見た目に似合わずかなり毒舌で。
敵と認識した相手にはトコトン毒を吐き続ける。売り言葉に買い言葉。
オレ自身、よくチンピラとか言われっけど先輩と比べたらそこら辺のたむろってるチンピラと実力のある不良と言ったところか。
いや、別に手とか出しはしないんだけど。ポケモンを出してるから、先輩は。
暴走族に絡まれた時も、敵が皆仲良く毒タイプばかり出してくるからってハガネールとヤドキングを出してたから。容赦が全く欠片も感じられなかった。ありゃ、全員軽く涙目だったな。
敵になったら末恐ろしいというか、ブルー先輩と揃って敵に回したくない人だなとあの時ばかりは三人揃って思ったもんだ。
でも、確かにその戦闘スタイルは正々堂々したものじゃねぇ。いや、ある意味正々堂々としてんのかもしれねぇが、まるで悪党を相手しているみてぇな戦い方をしてくるけど、本当に悪党かどうかと言われたら違うと言い切れる。
だからと言って、純粋な正義の味方でもねぇ。
多分世間一般で言う正義ってヤツが、先輩にとって狭くて、小さくて、彼女にとってのものとなるからヒーローじやねぇんだと思う。
それは、所謂先輩にとっての“身内”。
パーソナルスペース内にある極々一部のモノだけが、先輩にとってかけがえのない正義なんだと思う。
ただ、そのパーソナルスペースに入っている大半がポケモンってだけで。人間が少ないってだけなんだと思う。二つの割合が極端なんだ。
試しに、先輩は正義のヒーローかと聞いてみれば鼻で笑われた。
「んな、無粋な質問はするもんじゃあないよ。
“正義のヒーロー”なんて、アンタの目には私がそんなもんに見えんの?
見えないだろ?
よくて悪役側のしたっぱさ。
別に悪事を働くつもりなんて毛頭無いけど、でも正義のヒーローとかなるつもりもないんだよね。
元々主人公とか主要人物とかにもなるつもりなんて無かったし関わるつもりも無かった人間なのに。
むしろ、レッドとかゴールドあたりがそれに向いてんじゃね?
世間様のヒーローってのに。
ま、別にそんなのになるくらいなら、自分の守りたいものを守るヒーローとかの方がよっぽど私は好ましいけど」
ヒーローが嫌いなんすか。
正義って言うのに嫌悪してるんすか。
思わず更に聞いちゃえば、別に嫌いでもないという答えが帰ってきた。
先輩いわく、ただ「ソレに自分がなる気は全く無いってだけ」と言われた。
「世界全ての人間を助けたいなーとか、無償の正義を知らない人間に振り撒くという事に疑問を抱いている時点で必死になれない時点で、自分にはそういったのが向いていないと自覚しているだけ」だと。そう言っていたのを何故か未だにオレは覚えている。
そこで、何となくだけど先輩にも子供っぽいところがあるんだなって思ったんだ。
だって、そうだろ?
つまり、先輩にとってのヒーローってのは漫画やテレビでよく見かける一般的な正当ヒーローってことなんだろ。
オレも旅に出る前まではよく漫画を読んだりテレビを見ていたりした。だからこそ、先輩が持っているイメージ像ってやつが浮かんだ。
でも、そんな身内贔屓のヒーローがいてもオレは全く問題無いと思うんだけどな。
だって、先輩の思っているヒーローはそれこそ漫画やテレビだからこそなりたっているヒーローだと思うんだよな。
そんなヒーロー現実にはいないと思うし、逆に本当に現実にいたら違和感と言うか妙な気持ち悪さを持ってしまうんじゃねぇかって思う。
それに、そんなヒーローは自分の家族や大切な人を最初から失っていたり途中で失ってしまったりするのをよく見かける。
世界と個を天秤にかけたら、世界を取っちまうヒーローが多いけど先輩は個を優先する人だってだけの話。
ずっと信頼できるじゃねぇか。
それが普通なんじゃねぇか?
知らない他人よりも大切なモノを優先する。ただその結果、知らない他人が助かったのならそれはそれでいいんじゃねぇか。
それは例えに上げられたオレとレッド先輩も案外一緒なんだ。レッド先輩はどう考えているかはしらないけど、少なくともオレはただ個人的に相手がムカついたから突っ掛かってるだけ。その時に世界の事とか他人の事とかそもそも頭の隅にすらありゃしねぇ。
漫画やテレビの世界は漫画やテレビだから出来る。
万人のヒーローなんて、そいつらに丸投げしちまえばいい。
現実では気に食わなかったからとかその程度のくだらねぇ理由で自己満足に、自己中心的になっちまえばいいんじゃねぇか。
普段から傍若無人的行動が目に余る先輩がそんな事で考え込むのは付き合いが短いオレでも“らしくねぇ”って真っ正面から言える。
むしろ言ったわ。
そしたら、その場に一緒にいたクリスにゃ「失礼でしょ!」とどつかれシルバーには冷ややかな目を向けられた。
言われた本人であるジゼル先輩は最初こそポカンと間抜けな顔をしてたけど、それも一瞬で破顔した。
つか、腹をかかえテーブルをバンバンと叩いて大爆笑してた。そんな様子に今度はオレ等が間抜け面を晒す側となった。
オレはオレなりに先輩の話を真面目に聞いて真面目に返答したつもりだったのに、ああも大爆笑されたらなんか拍子抜けだった。
ひーひー言いながら呼吸を整えるものの、笑い過ぎて涙が少し流れ出してしまっている上に痛めたのかお腹を押さえる左手はその位置から微動だにしなかった。
いや、本当にここまで大笑いされるとなんつーか、これまでのジゼル先輩のイメージから大分差があって、呆けない奴の方が可笑しいだろって思うくらいだった。
やっと落ち着いたかと思えば、どこか吹っ切れたような顔をしている。
そこで、何となくだけどはたと気付いた。
もしかして、先輩は子供のようなヒーローに何処か憧れを持ってたんじゃねぇかって。
オレの勘違いの可能性は十分以上にある。
だけど、先輩の中でのヒーローって奴が本人の口にしている言葉に反して大分偏っているような気がする。
別にヒーローになりたかったら、なればいい。それを目指せばいい。しかし、目指さずに何故か妙に考え込んでる。目指す気が無いのなら本人にヒーロー願望とかは一切無いのだろう。
ただ、憧れを持っていた。
子供らしく純粋に主人公というものに憧れを持っていただけなんじゃかいかと思った。
そう考えてからは、オレ自身先輩と付き合いやすく近寄りやすくなった気がする。ヒーローに憧れを持つのは何も不思議なことなんかじゃない。ポケモンが大好きだっていう先輩も人間付き合いが苦手だという先輩も、どこか特有の雰囲気があって頼れるんだけど近寄りがたかった。
そうと分かってしまったら他の二人を引っ張って構って欲しくてよく訪ねるようになっちまったんだけど。
流石にこれは迷惑かな。
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凍雲様からのリクエストで、
「ゴールドから見たジゼルのお話」でした。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。リクエストの内容から落書き帳に書いている「他人目線シリーズ」のようなものかなと勝手ながら判断したのですが如何でしたでしょうか。
ゲーム機本編は、執筆連載を始めてから一年も経ったのにも関わらず原作本編にほんの片足だけ入った程度までしか進んでいないため、本編のネタバレにならない程度に仕上げるのには苦労しました。
ゴールドは図鑑所有者として、ジゼルの後輩にあたるため先輩呼びなんだろうなと思って書き続けていたのですが、何故かその先輩呼びさせるのに管理人が恥ずかしくなってくる始末。時折、先輩呼びさせるのを忘れてしまう事がありました。
又、後輩だからこそレッド達とは違った視点で見る上に勘も良いので、案外本質を見抜くんじゃないかと思い今回のような話になりました。
凍雲様、このような作品となりましたがお気に召して頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました。