どくきりはく しのびの かすみばなし▼


時は今から遡ること数週間前。
四天王の将であるワタルがイエローによって破れ、戦いが終わるよりも前。
否、四天王との最終戦が開幕を告げるよりも前へと遡ることとなる。

場所は一般に出回っている地図にも載っていない、一風変わった形をしたスオウ島。
現在進行形で野生のポケモン達を操り街を襲っている事件。クチバのなみのりコンテストの優勝者への賞品として用意されたハクリューを使ってコンテストを台無しにした挙句、クチバの街を消し去ろうとした青年による事件。
他にもカントーには様々な事件が起こった。それら全ての事件の黒幕である四天王の本拠地・スオウ島。
その島に数年前敵対関係にあった両極が集っていた。

その中に漏れずに、紫苑の彼女もまたいた。
そんな彼女と一言二言、初めて言葉を交わした者もいればオレのように邪魔をされる側として互いに一方的に知り合っていた者もいる。
それくらいには、彼女は正義の味方という似つかわしくない場所側の人間というわけだ。
世間様では正義の味方と称する者が大半を占める。
が、彼女は、この嬢ちゃんはそんな甘い存在じゃねぇことを知ってんのは、あのガキ共やオレらくらいのもんだろう。他にもいるかもしれんが、少数の者は味方とも敵とも一概には言い辛い。
理由はそいつが餓鬼の癖して一丁前に胸張って表舞台に立たないから。どうも、影でコソコソとしやがる。だからと言ってやる事なす事どれもこれもデカイのばっかだが…。


したっぱ達の中には大怪我を負った者がいた。
タマムシシティのゲームセンター地下に作ったバイオ研究のためのアジト崩壊。
特に研究所を兼ねたアジトが破壊されたのは本当に痛手だった。
そして、ヤマブキシティに他の三人組と共に乗り込むまでは想像通り。問題はその後の行動だ。
他三人は、裏口からの侵入。街一つ覆っていた障壁を壊したのだから此方にはバレバレではあったものの、まぁ普通に考えれば裏口からの侵入など容易に想像できた。
だからこそ、オレもマチスも待ち伏せが出来たというもの。
そんな様子を後になって、ボスの命令でジムリーダーとしての仕事をこなしつつ同属だったマチスやナツメと話し合えば、マチスは無駄に飾り気もへったくれもないその真っ直ぐなやりとりを妙に気に入っていたり、逆にナツメ本人は特に気にしていなかったりと反応感想と様々。
だが、やはりオレ達三人に共通してのイメージは命知らずの馬鹿野郎といったところか。
そして、敵に回せばいい迷惑な奴だと言ったところか。


それを若干名。
というか、一名が正面玄関からイワークを使って堂々と真正面から襲撃してきた。
侵入ではなく襲撃。
だからこそ、したっぱ達は裏口から侵入してきた三人よりも襲撃してきた一名の方に集中する羽目になった。
それを狙っての行為かどうかは、本人じゃないから知らねぇが。


「その事実に、アンタは気付いていたか?グリーン」

「“ダイナミックお邪魔します”は、アイツの十八番だ」

「ファッファッファッ!!」


らしいな!
後で、今までアイツがやって来た所業を調べ直して気付いたよ。
イワークを使ってのロケットずつきなどによる“ダイナミックお邪魔します”。一体何処のどいつがそんな上手い名前を付けたのか、是非とも見てみたいものだ。

他にもすてみタックルやとっしんなど使用ポケモン自身に反動が返ってくるような技も多用するらしいという噂があったが、そもそもあのイワークの特性ががんじょうらしく問題ないそうな。
特性云々話は、今グリーンの小僧に聞いた。
あの小娘、ポケモンの性格や特性などをフルに使っての行動に出やがるからタチが悪い。
向こうの被害は最小限、しかし此方側の被害は甚大。奴のする事の大半はそれな気がする。

敵側にとっちゃ、いい迷惑だ。
だが、その考えは好ましい。
当時十一歳の新米トレーナーとは思えない。
純粋な正義心を持ち合わしているとは思えない言動の数々。しかし、悪人でもない。
良く言えば、自分の心に忠実。悪く言えば自己中心的。


「そういえば、嬢ちゃん、ピカチュウを連れてたな…」

「それがどうした…」

「クククッ、アイツに感謝するんだな」


あの時、邪魔が入ったから気が逸れてしまい、アーボックが胴体真っ二つに切り裂かれてしまった。
言い訳臭く聞こえるかもしれない、が、嬢ちゃんがちょっかいという名の盛大な邪魔がジャストタイミングで入ったんだよ。
ゴルバットに向かって、弱点である電気技、威力は低めのでんきショックを食らわせてくれた。
確かに威力は低いとされている。が、何分その技を使用したピカチュウ自体のレベルが高かったが故に、ゴルバットが瀕死直前にまで追い込まれた。
そこそこの高低差で飛行していたために瀕死にまで追いやられていれば、最悪俺は落下死していただろう。
それを見越してのチョイスなのかは残念ながら知らないが。

まぁ、あの時オレはグリーンとレッドを本気で殺す気でもいたし、今度こそ殺し死体とした後にはゾンビとしてあの塔で恐怖を振りまいてもらおうと考えていた。
そんな中で、あの嬢ちゃんにオレはある意味殺されかけたわけだ。
因果応報。
悪因因果。
微量ながらもゴルバットの体力が残り、生き残れたオレは運が良かったのだろう。
人殺しは人を殺す覚悟と人に殺される覚悟をしなければならない。そんな言葉が頭を過ればまさにそうだと笑わずにはいられない。


そんな思いを込めて、グリーンに対して笑いながら嬢ちゃんへの感謝をすべき意味を答えず事実のみを言う。
すれば当然、本人は訝しんだ顔をしながら首を傾げる。


あぁ、思い出した。
スオウ島で、改めてレッドとは違った噂の人物である嬢ちゃんと出くわした時、何故か初めての感じを覚えなかった。
その事に対して、少々の疑問を抱いていたがそれがようやく分かった。
オツキミ山で、レッドとあのハナダのジムリーダーの嬢ちゃんと出会う前に、オレは嬢ちゃんと出会ってた。

お互いにじっくりと顔を合わせたというわけではない。
もし、そうなっていればバトルへと発展していたであろう。
その時の結末は、残念ながらその展開を迎えていない故分からんが、そう簡単には着かなかっただろう。
ただ、洞窟特有の薄暗い空間の奥で、オレは嬢ちゃんのあの深い紫苑の瞳を見た。あん時の嬢ちゃんの目は末恐ろしかったね。
まるで、戦闘に入れば手加減一切無用で相手にすると言わんばかりの眼光鋭いものだった。
もしかしたら、生き埋めとかそういったのも考えられたかもな。
嬢ちゃんと出会って、命の危機に瀕さない時の方が無い。

そんな嬢ちゃんにも、友人と呼べる存在がいた事にもまた驚いたもんだ。
ガキという存在(もん)は、無意識の内に感じる恐怖対象に畏怖を覚え、そしてイジメに発展したりするというのに。
かなりの限定が入ってはいるものの、図鑑所有者という友人が存在した。
意外も意外。
狂気が秘められたその存在を友人とこのガキ共は呼び、呼ばせているのだから。人間、分からんものよ。

ポケモンへのその純粋にして狂気孕んだ愛情と戦いに飢えた静かで貪欲な衝動。

前者は全面に押し出されていて自覚もあるようだが、後者は未だ自覚無しときた。
嘲笑ものだよ。
でなければ、前回同様今回もまた間を全て飛び越えてオレ達ロケット団のボスと四天王の将となんて戦わないだろう。
無ければ、臆病風に吹かれて押されるのがオチというもの。

それは、このグリーンを始めとするガキ共も一緒か。

純粋な敵意と圧倒的殺意を向けられて尚挑もうとするその意気や良し。
挑むに至る強さもガキ共は持っていた。
そこまで歩み進む理由もあった。が、あの嬢ちゃんにもそれがあったのかどうかには不明だが。
言っちゃ悪いが、嬢ちゃんには“純粋”って言葉が似合わんわ。


ファッファッファッ!
真、最近の新米トレーナーは末恐ろしくて叶わん。



「オレも、嘗められる訳にはいかんな」



いつかは分からんが、そのいつの日か。
オツキミ山のことで語りかけてみるのも悪くはないやもしれん。
そして、その時に帳尻あわせをするのも、な。

そのためにも、今カントーで好き勝手する四天王を倒す。
ロケット団のため、そして、オレの楽しみのためにな。




ーーーーー
SS様からのリクエストで
「ゲーム機主人公をR団3幹部はどう思っているか」
でした!
ロケット団3幹部達の中で特にジゼルとエンカウント数が多かった、キョウですが。そのキョウがジゼルに対してどう思っているのかというコメントも頂いていましたのでキョウ視点で書いてみるのも面白いのではないかと思って今回のような作品となりました。
他所様のサイトでお見かけするキョウさんがおとん臭がして、あ、なんだかんだで許容範囲広そうだなという個人的イメージが強かった故の今回のキョウさんです。
SS様、このような作品となりましたがお気に召していただければ幸いです。
リクエストありがとうございました。




- ナノ -