おわり よければ すべてよし▼



なんやかんやで氷人形レプリカによる拘束を解いた。その後、今放てる最大限の攻撃を各々が思い思いに時間ときの狭間へと一斉に放った。

「オレ達が全員攻撃した後、巨大なエネルギーが弾けるのを感じた」
「祠の中で…時間ときの狭間で一体何が起こったんだ…!?」

中で何が起こっているのか確認する術を持たない私達は、外から眺める以外何も出来なかった。暫く様子見をしていると、奥の方から気絶したシルバーとハネ髪の少女、そして三犬にとこから現れたのか分からないピチューが吐き出されるかの様に流れてきた。
ブルーはシルバーに、イエローは「クリスさん!」と叫びながらハネ髪の少女に駆け寄った。そこで、やっとあぁ彼女が噂の捕獲のスペシャリストだと知ることが出来た。
その後、気が付いたこれまた特徴的な跳ねた前髪を持ったピチューがレッドのピカとイエローのチュチュの二匹の姿をその大きな瞳に映す。途端二匹に駆け飛ぶ。二匹のピカチュウも危なげなくピチューを抱き締める。その様はまるでも何も親子のソレだ。あぁ、あの二匹はとうとう卵を産むレベルでくっついたのか。親であるトレーナー二人もとっととくっつけばいいのにね、もどかしいったらありゃさない。
そして、そんな三匹の様子を見てイエローも察する。そして、ピチューの卵を孵してくれた人物に礼を言いたいとシルバーに尋ねる。瞬間時が止まった。誰かが一時停止ボタンを押したかの如く、目覚めて緩慢に動いていた彼彼女の時は瞬間停止した。始めに動き始めたのは、やはりと言うべきかシルバーだった。
彼は顔をうつむかせたまま、何かを堪え。しかし、慟哭したい感情を無理矢理押し殺した声でイエローの問に答えた。

ピチューの跳ねた前髪を指差し、「孵した人間が誰なのかと問われれば、ゴールドという男だと答える事になる」と一つ前置きをする。その後に紡いだ言葉は、本来十代の子供がするものではない。しかし、一つ一つ気を念入りに選び言葉を紡いでいく。彼の直ぐそばで同じ様に顔を俯かせ表情を伺えない彼女を一瞥して、敢えて“散った”と表現をした。
それは、彼なりの優しさでもあった。そんな彼の言葉に驚かない人間はいないし、意味を履き違えない人間も今この場にはいない。
いないけれど、空気を読めない人間は一人だけいた。彼だけ一切動じていない。表情一つ変えず、ただただシルバーを睨みつけているその姿に私はため息を一つ溢さずにはいられない。
ある程度説明し終えたシルバーがふらつき出したところで、グリーンが手を伸ばす。が、その手がシルバーの腕を掴む前に間に割って入って彼の手首を掴み、代わりに倒れそうになったシルバーを支える。

「…何のつもりだ?」
「まぁまぁ、そう殺気立つなって。眉間に深いシワが出来てるよ?」
「ただ巫山戯たいのであれば離せ、オレはそいつに用がある」
「落ち着けってんだ。別にソレは今じゃなくともいいっしょ?」

ただでさえ、ゴールドが散ったというシルバーによるカミングアウトで空気は沼の底の如くどんよりとしていたところで、私とグリーンが言い合いを始める。それに、戸惑わない訳がない。
そんな周りが見えていないグリーンは続ける。シルバーの罪状を。オーキド研究所からの図鑑窃盗。ウツギ研究所からのワニノコ強奪の罪。つらつらとマニュアルの如く並べ連ねていく彼に対して、シルバーとブルーまでとが顔を俯かせていく。
しかし、それに気づかない。

「そんな犯罪者をお前は庇うと言うのか?」
「誰もシルバーを庇うとか言ってないでしょーが。そもそも、私は彼のことそんな知らないし。それによく漫画とかで言うでしょ?『テメェの汚ねぇケツはテメェで拭け』ってさ」
「らしくなく、行動と言動が一致してねぇんだよ。というか、女だという自覚はあるのか!?もっと、丁寧で綺麗な言葉を使わねぇか!!」
「それこそ今どうでもいいだろ!?余計なお世話だ!アンタはオカンか!私のお母さんか!?残念でした!私のお母さんはヒナタさんだけだよ!!」

「とにかく!そいつはこれまでの数々の犯罪の容疑者だ!連行するからこの手を離せ!!」

「いい加減周り見て発言しろや!空気読めてねぇにも程があんだよ!!あぁ、空気は読むもんじゃありません。呼吸するもんですとかんな真面目な解答はどうでもいいし聞いてねぇから。そんなんだからテメェは影でKY野郎とかディスられてんだよ!!」

いや、実際ディスられているのかは知らないけどさ。と珍しく叫び言い合いをするグリーンとジゼルに周りは唖然とする他なかった。普段冷静で声を荒げることが無い二人が言い合いをしているのだ。
しかし、珍しい光景とはいえ長くは続かない。一番に我を取り戻したシルバーが、二人の間に入ってグリーンにその身を明け渡した。ジゼルに一つ礼を言ってから。本人に言われてしまえば二人は黙る他ない。ジゼルはそのまま一歩引いてだんまりを決め込んだ。そのままシルバーがグリーンに連れていかれるその時だった。

二度とその声を聞かないと思っていた少年の叫び声が辺りに響く。その声に誰もが反射的に停止し声の方へと振り向いた。それと同時にヒラリヒラリとグリーンに向かって一枚の紙が舞い降りた。それを訳無くグリーンは掴みその紙の内容を読み始める。私はグリーンのところまで駆け寄り、その紙を覗き込んだ。他の面々は罰当たりにも祠の上で足を組み、そして最大まで伸ばしたキューを肩にかけ悪戯が成功したような顔で笑っていた。

「その指名手配書とそいつの顔はよォ…、笑っちまうくれて全然違うぜ!!」

「ぶはっ!!」

「けど人違いっつーんなら、まあ、よくあるこった。気にすんな!」

その指名手配書のモンタージュはいつの時か見たものだった。長い赤髪に男だという特徴はシルバーと全く同じ。しかし、肝心の顔が別人である。
目はギョロッとした何ともお間抜けで、鼻はぺたんと潰れて上を向いている。眉はゲジ眉というやつで、口はたらこ唇だ。指名手配で世に出回っているモンタージュとシルバーが別人過ぎて私は腹を抱えて大笑い。グリーンは呆れて何も言えずポカンとしていた。

ゴールドが生きていたという事実と現実に、先程までのシリアスは完全に霧散した。流石のグリーンもこの空気でシルバーを連行するなんて口にしない。というか、もう完全にそんな雰囲気では無くなった。ああいうシリアスブレイカーは嫌いじゃないよ。
が、別にシルバー本人はそのままその身を暗ませるなんて事をしないだろう。少ししたら自首をするであろう事はブルーの弟という事実が語っている。

「…おい、いつまで笑ってる」
「…ふっへ、ま、待って、さっきまでせり上がってたものがまた…口から出そ…」
「何やってんだお前は」

呆れた声が頭上から降ってきたと思えば、軽口を叩きつつ背中を摩ってくれるからやはりグリーンは根は善人だよな。ただ時折今回の様に空気が読めなかったり、ジジコンとシスコンを同時併発しちゃうことがあるってだけで。
ま、またKYな行動を取ろうもんなら止めればいいだけの話なんだけど。
ちょっと離れたところで、なんかブルーが高笑いし始めてる。それにいつの間にか片手にポケギアを持っていたレッドとイエローの間になんか微妙な空気がまた流れてるし…。何やってんだあそこらの連中は。
グリーンも顔はレッド達の方を向いて「相変わらず煩い女だ」と零していた。それに対して何か目ざとくシルバーが睨んでいたような気がするけど気の所為だ。

「サンキュー、だいぶラクになったわ」
「そうか。立てるか?」
「おん」

背中を摩ってくれていた手が離れ、代わりに私の目の前に差し出される。何でこうもサラッとイケメン的行動を起こせるんだろうね?こいつは。
私が女だったら惚れてるんじゃなかろうか。あ、私女だった。

「そだ、さっきはキツい暴言吐いてごめんね」
「いや、オレもお前に言われた通り周りが見えてなかった。すまん」
「いやらしくなかったねぇ、お互い」
「…だな。そういや、“KY”ってどういう意味だ?さっきから何度か言ってたが」
「あぁ、アレ?」

いや、普通にグリーンは意味を知らなかったってだけだよね?別にもう死語になったとかそんなことないよね?だって、私がまだ高二の時普通に廊下で男子女子問わず日常的に使ってたし。
アレ、なんかまたいつの間にかレッドとゴールドの姿が消えてる。本当にゴールドって台風か何かかよ。あっという間に現れてあっという間に消えちゃった。

イエローが手を振っているみんなのいる方へと、グリーンと一緒に歩いていく。やっと、この面倒で長かった大団円が終わった。年齢とか問わずで流石に疲れたわ。


K空気Y読めていないって意味」



RED,GREEN,BLUE,GOLD,SILVER,CRYSTAL&GISELLE

Fin.


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