せかいの へいわを まもるため▼



「審判に許可を得たぜヒャッホイとまぁ、ハイテンションになったところで…さぁ、姫さん!おねむしちまう前にパチキの一つでも食らわせてやれ!かなしばりさせた後に問答無用のしねんのずつき!」
「ヤン!」

テンションが上がったというのは事実らしく、先程までよりも更に生き生きと輝きだした彼女の声に一声応えたヤドキング。瞬間ヤドキングの目が怪しく光る。
その光を視界に入れてしまったポリゴンは一瞬にして全身が痺れるという一種のバグを起こしてしまう。
電気タイプのポケモンが大体覚えるでんじは等とは違い、金縛りは一時的なもの。ゲームでは、超能力で敵の動きを封じ技の一つを使用できなくさせる等という説明があるが実際は技一つどころではなく。文字通り動きの全てを一時的に、強制的に抵抗出来なくさせる程の麻痺を引き起こす技なのだ。
つまり、土壇場には持って来いの技であった。

ポリゴンを金縛りにした後、直ぐさま両腕で頭部を掴み頭を大きく後ろへと振り被った。
そして、眠気眼をカッと見開いて勢いよく振り被った頭を振り下ろす。このカッと目を見開いた瞬間はあれだ。心の仮面を召喚する時のカットインみたいなのをイメージすればあながち間違いではないだろう。
そして、振り下ろし始めるのとほぼ同時にヤドキングの額の部位が光を放ち始める。そして、対した抵抗も出来ずにポリゴンは真正面からしねんのずつきを食らった。
大抵のポケモンならばこの一発で瀕死か、その一歩手前までの重傷を負うことになるのだがそこは流石はグリーンのポリゴンといったところか。

「んー、寝惚けたパチキ一つじゃあそこまで効果ないか…。派生効果も特に効いてるようでもないし」
「今の技はなんだ、ただの頭突きじゃ無かったぞ」
「確率で怯ませる事も出来る、上手くいったら畳み掛けれる便利な技だよ」

威力も通常のずつきと比べて断然強く申し分の無い。ゲームをプレイしている時は、よくNPCが繰り出すポケモンがよく使用してきて若干ウザかったなと一人ジゼルが懐かしんでいた時だった。
ドサッという音がフィールド場から響いた。
誰もが音のした方へと頭を向ければ、そこには尻餅をついて眠ってしまっていたヤドキングの姿があった。おそらく、元々本能に働きかけるあくびの効果で限界だったところを意地で繰り出した技が先程のしねんのずつきであったのだろう。

そして、それとほぼ同時にポリゴンを襲っていた強力な金縛りが解けたのだ。
漸く自由の身へとなったポリゴンは未だ痺れている箇所がないかと自身の体を見回している。そして、痺れが完全に取れたのが分かった途端ヤドキングと似たその目に改めて力が入り眠りこけたヤドキングの姿を映した。
そこには、張り子の虎の如くこっくりこっくりと首を縦に揺らして夢の世界へと旅立ったヤドキング。
物は試しにと言わんばかりに、ジゼルが一声かけるものの反応を示さない彼女に思わず頭を掻く。

「さぁ、どうする?このままトドメを刺してもいいんだぜ?」
「んー、アイテムの使用がおーけーならば即座にカバンの中からねむけざましを取り出して使うんだけどね」
「使用禁止を言い出したのはお前だ」
「わぁってるよ。でも、だからと言って私達がこういった状況の為の対策を何も練っていない訳じゃないから」

そろそろ、彼女の可愛らしくもエゲツない姿が見れるはずだよ。
と、ジゼルが口角を上げたその時であった。

「ヤァン…」と口元をむにゃむにゃさせながら、ヤドキングがボソボソと何か寝言を言い始めた。
偶然だった。
何を思ったのか、ポリゴンは指示もなく人間の足でいう約一歩分後退した。瞬間ポリゴンが浮遊していた場所に無数の棘がある氷柱が出現した。
それにギョッとした案外間抜けな顔を晒すポリゴンとグリーン。
対して。ヤドキングは相も変わらずに気持ち良さそうな顔で眠っており、ジゼルは「あぁ、これはふぶきが出たのかな?」と呑気に先程ランダムで繰り出された技を冷静に分析していた。

「…ねごと、か」
「ん、当たりだよ」

使い所は中々に難しく、睡眠の状態異常になっている事が前提でしか発動しない技が世の中には二つ存在している。
どちらも、人間がするにはよく見かける行為だったりするのだが、これ等をポケモンがするとなると中々強力だったりする。
一つは、いびき。
もう一つは、先程からヤドキングが無意識に使用しているねごと。どちらも、使用しているポケモンが眠っているからこそ敵への恐怖心を感じることなど無く。そして、手加減もまた起きないが為に強力なのだ。
そして、ねごとは使用しているポケモンが覚えている全ての技の効果がランダムで繰り出される博打技。
何が出るかなんて、そんなものトレーナーにもポケモン自身にも分からない。

ちなみに、先程寝言によって繰り出されたのはジゼルの読み通りふぶきであった。ただし、通常時に繰り出されるのとはまた違って容赦も慈悲も無い。手加減一切無用のふぶきであったが。
しかし、結局のところは戦闘中にヤドキングが目覚めることはなく。意外にもねごとによって奮闘しつつも、ロックオンをされた後にでんじほうという安定で容赦の無い攻撃によって、ヤドキングは倒されたのだった。


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