カレンダーが 3ねんまえの きょうと おなじだった▼



デリバリーでライライピザというお店のピザを食べてお昼を済ませてから早二時間。ちなみに、ライライピザのライライはポケモンのライチュウから来ていてね。看板マークもライチュウが美味しそうに一切れのピザを頬張っているイラストで凄く可愛いんだわ。勿論ウチの子であるピカチュウの方がずっと可愛くて天使なんだけれど。
そんな普段と一味違ったお昼を食べた事によって、私もグリーンも共に空きっ腹が満たされた訳でして。
何が言いたいのかと言うと腹が減っては戦は出来ぬ状態だったんだよね。
つまり、満腹になったグリーンの書類処理速度がぐぐんと上がって腹抱えて大爆笑しましたっていう話。

「アレだけあった、書類をよくもまぁここまで減らしたもんだわ…」
「こういう嫌な事はさっさと終わらせるに限るからな」
「提出期限はまだまだあるってのに、ホント真面目だよね」
「期限、締め切りが近づいてきてから慌てて取り組んでも必ず何かしらのミスをする」
「…ソーデスネ」

あれ?可笑しいな。グリーンの台詞の一部一部に前世の記憶が疼く…。いや、私は一度としてあの聖地コミケに行った事は無いんだけど…。うん。
某SNSで凄く見覚え聞き覚えのあるモノが…。

しかし、腹を満たしたとはいえゴールはあれどしても何も報酬の無いモノ程詰まらないものは無い。だからといって、正直に言って私は彼の好きなものとか知らないし。精々レッドと大差無いバトル好きのトレーナーという認識しか無いし。顔は整っている方だよなぁとかその程度だし…。
後は、見た目の割に世話焼きというか心配性だし…そういや何かプレゼントとか貰ったりしてるけど私は特に何かをプレゼントとかした事無いんだよなぁ。やはり、何かを貰っておきながら何も返さないってのは問題あるよね。

チラリとグリーンの様子を伺えば後もう少しでゴールだという所まで来ているものの、当然っちゃ当然だけど元気がない。
疲労は溜まる一方。
その仕事のゴールした暁となるトロフィーみたいなもの。
グリーンがトキワジムのジムリーダーとなった記念品にもなりそうなもの。
何となくで今いる部屋をぐるりと見渡してみる。特に何の変哲も無い。よく漫画やアニメなどで見かける事務室だ。強いて言うならば一人用という程度か。
そこで、壁に掛けられているカレンダーが目にとまる。そして、何気無しに今日が何月何日なのかを見て思考が一瞬止まった。

◇◇◇◇◇

「なぁなぁ」
「なんだ」
「その書類が全部終わったらさ、バトルしよっか」
「…は?」

話しかけられて尚変わらず机の上の書類と睨めっこしていたグリーンが、ボールペンを走らせていた手を止めて反射的に振り返った。
しかし、変わらずジゼルはカレンダーの方を見ている。態々見ずともグリーンの反応が分かっているのかそのままジゼルは話し続けた。

「それもただのバトルじゃあつまんない。折角、ジムリーダーになったんだし。丁度私も持っていないってのもあるからジムバトルをしよう」
「おい、待て。突然なんだ」
「掛けるのはこれから先アンタが守っていくグリーンバッジ。形式は三対三のシングルバトル」
「だから突然どうした!」
「グリーンの初めてのチャレンジャーになってあげる」

そこまで口にして漸くジゼルはグリーンの方を見た。
そこには何ともまぁ整った顔が少々台無しだなという感想を抱く程度の間抜け面。
何秒かその間抜け面を晒していたものの、グリーンも何気無く彼女が先程まで見ていたカレンダーを見る。が、何故彼女が先の発言をしたのか分からない。
何故、今“バトルをしよう”などという話になったのか先程までの彼女の行動がそう繋がったのか一切理解出来ない。
そもそも、ジゼルは如何してかグリーンを始めとする一部のトレーナーとバトルをしたがらない節がある。それは、彼女と初めて出会った頃から今に至るまで不動のものだった。
誘っても大半はバッサリと切って捨てる。それでも、しつこく付きまとって誘って彼女が折れて初めてバトルが出来るのだ。
それも、折れる理由が“彼女の手持ちポケモンがやる気になっているから”だ。特にやる気も何も無かったらとれだけ粘ってもその首を縦に振らない。

そのジゼルが、初めてグリーンをバトルに誘ったのだ。

「…本当に、突然どうした?あれ程誘っても首を縦に振らないお前が」
「んー、別に大した理由じゃあ無いんだけど。一応二つの理由があんのよ」

そう言って、ジゼルは指を一本一本立てていった。
一つ目は、グリーンのジムリーダー就任を祝いたいという純粋な気持ちから。しかし、ただ祝うのであればレッド達も誘ってもう少し大掛かりにしたいという気持ちの方が強かった為、仲間を集められないという点で却下。
ならば、如何しようかと考えた所今持っている三個のジムバッジが頭を掠めた。
そこで、グリーンの初めてのチャレンジャーと称してバトルをけしかけた方が純粋に楽しんでもらえるのではないかと考えに至ったのだとか。

二つ目は、カレンダーを見た今日の日付らしい。

「私ってさ、一応毎日レポートという名の日記を書いてるじゃん。文字数はその時々でお察しレベルだけど」
「あぁ、書いてたな。前に読んだし」
「アレ、マジで殺意湧いたから今後やめろよ。でさ、今から三年前の今日を覚えてる?」
「…いや」
「三年前の今日はね、丁度ハナダシティのポケモンセンターの庭にあるバトルフィールドで初めて、私とグリーンがバトルした日なんだよね」

そう言ったジゼルは珍しくとても懐かしそうに嬉しそうな顔をした。
そこまで言われて漸くグリーンは、先程彼女が言ったバトル形式を今一度思い出す。

あの時はゴールデンボールブリッジにて偶然彼女と出会した。
その時にグリーンはジゼルにバトルを挑んだ。その時、ジゼルが当時まだ三体しか手持ちがいなかったというのもあって三対三で入れ替え有りの二戦勝ち抜きシングルバトルをしたのだ。
今思えば、それがグリーンとジゼルの初めてのポケモンバトルで以降はこの三年間一度もした事が無かった。

「三年越しの二回目のバトルってのも、案外乙なもんよ?」
「ふっ、お前があの時を事細かく覚えてるとはな。後悔するなよ」
「三年も時が流れてんだ。あの頃と同じ様にフルコンボフルボッコだドンにしてやんよ」


前頁/目次/次頁


- ナノ -