たまには ほのぼのも いかがだろうか▼



「…エンジュの震災で不安になって駆けつけてくれるのにはとても嬉しく思うけど、私がマサラに帰ってきているのを知って尚どうしてそんなに息が切れてんの?」

「いや、だって…」

「…だって、何?」

「あー…、そういや何でだろ」

「おいおい…」

先程から何故か歯切れが悪い最近話題の主たる赤がよく似合う少年。
赤はヒーローの色。よく分かるんだね。
八月十五日を繰り返す赤いヒーロー然り。
ひぐらしが鳴く寒村に現れた赤い運命ブレイカー然り。
目の前の主人公は無条件で主人公なんだなぁと思いましたまる。

レッドが、私の家の下を訪ねたのは言うまでもなくラジオ放送されたエンジュの震災が理由だった。修行の休憩を兼ねてグリーンの下を訪ねていたらしいのだが、その時にジョウトに旅行していた私を知っていたから慌てたのだとか…。
でも、話を聞いている限りグリーンに事前に私がマサラに帰ってきているのを知っていたような気がするんだけど。あ、知ってたんだ。じゃあ、尚更何でそんなに慌てて来たんだこの人。
そこ、不思議そうな顔で首を傾げないでくれ。私が傾げたいわ。

「とりあえず、ジゼルは無事なんだね」

「目の前にいるだろ…」

「あはは!そうだな!」

さっきから、レッドの思考がよく分からん。
視線がウロウロと忙しなく動いている割には、私を視界に入れる度に何処かホッとしたような安堵したような目になる。その度に見返してやれば最初に戻ってエンドレス。
…想像以上に私の周りには心配性がいるようだ。それでも、私がマサラに居ると知っていて尚不安に駆られて家に突撃してくる理由が分からないんだけど。

後になって、ポケギアにグリーンから電話が掛かって来たと思ったら、そっちにレッドが走って行ってしまったとか遅い報告を貰いいの。
何故かイエローまでもが連続ピンポンしてうちにやって来いの…。
割と本当にどうなってんだか…。心配性が過ぎるぞ、コイツら。

結局のところ、グリーンまでもが家を訪ねてきて。つい先程までごろごろとだらしなく怠惰に過ごしていたのが嘘の様に騒がしくなった。
挙げ句の果てには、三人はそのまま晩御飯まで食べていくと言い出す始末。流石の展開に普段はレッド達には出さないような凄味のある声を思わず口にしてしまっては若干の自己嫌悪に陥る。

「…はぁ、でも冷蔵庫には四人分の食材とか無いから荷物持ち位は働いてよね」

飯を食わせろ宣言した三人に溜め息をしつつも許容する位には私は大分絆されているんだなと内心苦笑いする。
しかし、基本的に家を留守にして旅をしている身故に冷蔵庫の中は絶望的だった。中には一人分の食材しか入っていないのだから。丁度、力のある男は二人もいる。
窓の外を見ればまだ日は沈んでいない。商店街もまだ閉めていないだろうと見込んで買い出しに付き合えと言えば、三人揃って当然だと言う。それにまた苦笑いしてしまうのは仕方がない。



商店街へ四人揃って買い物に出かけてからは面白いものだった。
まず料理が出来る出来ないに別れる。姉や祖父といった家族がいるグリーンはコーヒーを入れる程度しか出来ない。そも、自分で作るという機会が無かった。ジゼルもつい最近まで母親が家にいた為、レパートリーは少ない。しかも基本的に外で旅に出ているため基本的に作る料理はどれもずぼら飯となっていた。
逆に幼い頃から独り暮らしをしているレッドとイエローの腕前は食べ物の目利きから始まっていた。更には屈強なお母様方に負けず劣らず、勇猛果敢にタイムセールに挑むその姿は正に歴戦の猛者の言葉が相応しい。
そして、ほくほく顔で二人が帰ってきた時には思わずジゼルも「熟年夫婦かお前ら」とポロッと口に出してしまう始末。そして、流れるように二人が同時に頭に煙を出しながら首まで真っ赤に染めた。そんな初々しい反応にジゼルは大して悪びれた様子も無かったが、取り敢えずの謝罪を口にする。
もし、この場にブルーもいれば展開は大きく変わり、未だに真っ赤な二人が可愛そうな事になっていただろう。

「…値段的にはセールで、まぁ安くなってたからいいけど。こんな量をどうやって消費すればいいの?私」

「その…思わず白熱しちゃって…」

「四人揃って満帆になった袋を両手に一つずつ持つ様はある意味目立つな」

「ははは…、セールと聞くとつい燃えちゃうんだよね」

「…一人で消費しきれる自信ねー。責任とれよ」

今回の勝者であるレッドとイエローに恨みがまし気な声と紫苑の瞳が睨んだ。しかし、二人はジゼルのいう責任を断れる立場に現状はいない。これからパーティーを始めるにしても多いくらいの量なのだ。
暫くは、レッドとイエローはジゼルの家に厄介する事は確定した。それに乗っかって現在研究所では一人のグリーンも厄介になることに。
軽くお泊まり会の様なテンションになっていくに連れてこの場にブルーがいないのが実に惜しい。

ジゼルは楽しい今の時間に少しの残念を覚えながら、三人と一緒に夕焼け色に染まった道を歩いた。



マサラタウンの住宅街から離れたところにポツンと寂しく一軒家が建っている。
マサラタウンの外れに位置していると言われてしまえばそれで終わり。その家の主はまだ十代の子供で旅をするポケモントレーナーである。
その為、普段その家に灯りが灯る事はない。


その日。家に楽しげな笑い声と共に灯りが灯った。


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