さあ マサラへ かえろう▼



「…にしても、お前も出場しているならば前もって言え」
「何で、命令されなきゃいけないんさ。私が参加しようがしまいが勝手だろ」
「あのオニスズメはあの女と戦うためだけに捕まえたのか?」
「あの女という呼び方はやめなよ、ブルーという可愛いらしい名前があんだからさ。オニスズメは博士から借りたんだよ。飛行タイプ未だに持ってないし」


変装する必要も漸く無くなった私は、帽子とコートを脱ぎ捨て元々長袖だったチュニックの袖を捲り上げて団扇をただひたすら仰いで涼しんでいた。やっぱりあの格好は蒸し暑くてバトルの最中に倒れそうだったんだよね。

あ、ちなみにブルーとの準決勝だけれど何とかオニスズメだけで勝てました、はい。
博士の研究所からゼニガメを盗み出したこと、六年前に虹色の鳥ポケモンに連れ拐われたこと、何もかも全部白状したね。理由は博士から図鑑とポケモンを貰ったマサラ出身のトレーナーと同じことがしたかったから。
だから、これから何があってもその綺麗で華奢な手を汚さないと約束するならばと言って、オーキド博士から預かった三つ目のポケモン図鑑を博士に代わってブルーに渡したら思いっきり泣かれました。美人さんって泣いても綺麗なんだね、初めて知ったよ。

試合が終わった後、二人でオーキド博士の下に行きブルーは腰を九十度に曲げて謝った。
ポケモンを盗んだとあれば、本来ならば警察に突き出されても可笑しくなかったのに、それでも突き出さずに許した博士は本当に懐が広い人なんだと再確認させられた。


「ならば、次の準決勝戦。オレかレッドがお前と戦うことになるという事か」
「は?戦わないよ?」

そう言った時のグリーンが振り向いてこちらに見せた間抜け顔のなんと笑えることか。
つか、笑ったわ。

どうも、私が棄権するとは全くこれっぽちも思っていなかったようで。
だが、レッドと決勝戦で戦い決着を着けたいんだろと言えば口籠るグリーンが面白くて、反撃される前にグリーンの出場の案内にきたスタッフに棄権するということを伝えて、次の準決勝を事実上の決勝戦にするよう頼んだ。
あっという間に何の未練もなく棄権した私を見てポカンとしているグリーンの背中を軽く叩いて私は控室から出た。棄権するとは言ってもここまで来たのだから、やはり決勝戦は見ていきたいという純粋な理由から。

今更ロクな席は取れないだろうから一番遠い場所からにはなるがそこからならばイワークは兎も角他のポケモン達も外に出して一緒に観覧することも出来るわけだし。


そう思って離れたところからの観覧だったわけなんだけれどね。
今私が経っている場所から対角線上に逆光で姿顔はあまりよく見えないんだけれど、ある四人組が決勝戦を眺めていた。私と同じようにただ観客席が埋まっているから遠くから立って応援しているとかそんな普通の一般の四人組だったら気にも留めなかった。
先も言った通り、姿顔は逆光で陰ってよく見えない。だが、シルエットくらいは分かるわけでして。元いた世界よりもずっと視力の良い今の目ならば見える。
見間違えとかでなければ、あそこに立っている四人組はおそらくカントー地方の四天王。氷、闘、霊、竜の四属性を司る四天王。その実力はジムリーダーなんかよりも数倍強く、チャンピオンを挑む前の壁となる存在。

もう、次の物語の布石ですかコノヤロー。
本当はもう少し様子見をしたいところだけれど、相手は四天王。変に目を付けられるのも嫌だし、どうせ嫌でも近いうちにエンカウントするんだろうなぁ。

そう諦めてバトルフィールドに目を戻せば、室内に雷雲が発生していて、リザードンがフシギバナの蔓に縛り絡めとられる瞬間だった。


「これは、先に倒れたピカとニョロの力も合わさった合体攻撃だ!!」





『オレの、大切な…、仲間だ』



レッドのその言葉が耳に届いた瞬間、辺りは一気に煙に包み込まれた。
バトルフィールドに立っていたレッド達の姿は煙が立ち込み過ぎて未だ見えない。スタッフ達が急いで会場内の窓を開けたり換気扇を回したりして煙を晴らそうとした為か比較的早くに晴れて薄っすらとだが影が見えてきた。
初めにグリーン側の煙から晴れていき、グリーンとリザードンが立っていた為会場はグリーンの勝利だと思われた。グリーンがヨタリと力無く倒れるまでは。

結果、勝者は最後まで立っていたレッドだった。
完全に煙は晴れ、フィールドで立っているのはレッドとそのポケモン達のみ。
その姿を見た瞬間の観客達の歓声は本当に言葉に出来ない程凄まじいもので、空気が会場全体が一気に震え上がった程であった。
二人の実力、力量全てが完全に互角状態。それは、ほんの少しのミスで戦況が変わってしまうという事。それは、レッドとグリーンのどちらが勝っても負けても可笑しくのない今回の勝負。

正直な感想を言えば見ているだけだったけれどとても楽しかった。


バトルを最後まで見れて、想像以上に満足したため帰ろうかと思いピカチュウ達をボールに戻していた時だった。表彰式までは見なくてもいいだろうと思っていたのに、まだボールに戻していなかったスピアーがレッド達の方へと飛んで行ってしまったのだ。
何でそんなところへ行ったのか、分からないがとりあえずは追いかけなければならない。
スピアーだけ置いていって帰る。そんな選択肢は端から存在していない。そもそもスピアーが今出てしまえば表彰式が行われないのではないのかと思って、中からだが急いでスピアーの後を追いかけた。

何十段という階段を駆け足で下りていき、とりあえずスピアーが飛んでいったフィールドの方へと向かう。こっそりとしてスピアーを迎えに行けばとりあえずは問題ないだろうか。
問題であれば何と言い訳をしよう。いや、言い訳などせずそのまま普通に謝ろうかと色々ごちゃごちゃと考えながら少し息を切らしながらやっとフィールドの所へと辿り着いた。
今すぐにでもスピアーを探したいところだが、らしくなく急いで走ってきた為に膝に手をついて息をする。

スピアーはどこへ行った。

それだけが頭に占めている中、一人の手が差し伸べられているのが視界に入ってきた。



「流石はジゼルと一番付き合いの長いポケモンだな。ジゼルの考えが筒抜けだったて事だ」
「……どういう、意味さ…」
「大方このまま帰るつもりだったんだろ」
「それの何が、悪い。リーグは棄権したし、もう関係ないじゃん?」
「関係大有りでしょうが」
「…はぁあ?」


走って漸く追いついたと思えば、何故かスピアーはレッドの腕の中。
やっと呼吸が整ってきたと思えば背後にブルーが立っているし。ちなみに差し伸べてるのはグリーンの手でした。

…何となく三人が考えている事が分かった気がする。
が、それと同時にもう抵抗するのも疲れたから、こいつらに好きにされてしまおうか。どうせ、もう最後なのだから。
だけど、これとそれは関係ないので、右手で握り拳を作る。


「勝手にしなよ、だけどレッド。私のスピアー返せ、三秒以内に」
「え!?ちょっ、何で握り拳作ってんの!!?オレ何かしたか!?」
「私のスピアーを抱きかかえてる。以上」
「思っていた以上に理不尽!!」
作り上げた拳を振り上げればレッドは慌ててスピアーを離そうとするものの、スピアー自身がレッドのそんな反応を面白がって離れようとしないもんだから更に慌て始める。本気だと思っているのかな。

「あ、そういえば三位入賞金の事だけど」
「私は棄権したし、事実上三位のブルーが貰えばいいでしょ」
「アタシとジルの山分けにしてもらうことになったから!」
「いや、何でさ!?」
棄権した私は元々リーグに出場していなかったという扱いになり、結果事実上ブルーが三位でそのまま賞金を貰えばいいのに山分けとか…どこか強く打ったのだろうか。てか、いつの間にかジル呼びだし。

「おい、早くしろ」
「したいのは山々だけどね」
「お前がモタモタしているから、始まらないだろうが」
「いや、アンタ等が明らか原因でしょーが。私棄権してるから!」
未だに馬鹿やっている私等を見兼ねて話しかけてきたグリーンは中身は変われど、見た目は初めて会った時とそこまで変わっていないなとふと思った。身長は伸びたけどね、羨ましい。


最初の覚悟は何処へやら。
すっかり主要人物と関わり切ってしまった自分を昔の私が見ればどんな反応をするのか見物だね。でも、多分関わりを持たないようにする方がどんな困難よりも一番難しい気がする。
もっと早くに諦めて開き直っていた方がずっと楽だったのではないかと思う。きっと、三人にとって私は何だと聞けば友人だ仲間だと即答するんだろうというのは分かりきったことだから聞かない。

今回は色んなことに三人の手によって巻き込まれたんだ。いつかは私がこいつらを面倒事に巻き込んでやる。


「ほら、表彰式が始まるよ!」
「早くしろ」
「あんたも強制だからね!」

「安心しなよ、今更アンタ等から逃げないから」

三人が先に表彰台に上がり、上から呼びかけてくる。
呼ばれて、私は最初の相棒であり家族第一号でもあるスピアーに笑いかけてから表彰台への階段に足をかけた。







さあ、マサラへ帰ろう。






RED,GREEN,BLUE&GISELLE

Fin.


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