たまには してんも かわる▼



つい昨日のことだ。
女子ならば普通、悲鳴を上げて嫌がる虫ポケモンを連れた変な女の子に出会ったのは。
出会ったきっかけはおじいちゃんが昔若い頃に世話をした弟子のもとに久々に会いに行こうと言って付いて行ったことだ。おじいちゃんいわく、その弟子さんにはオレと同じ年の子供もいるのだとか、それで仲良くなるかもしれないということで出会わせたっかったのだとか。

女の子と聞いてオレはすぐに嫌な顔をした。
オレの知る限り、というか今のところ悲鳴じみた黄色い声を上げる五月蠅い奴以外会ったことがなかったからだ。だからこそ、これから会う奴も同じだと会う瞬間までそう思っていた。


その予想は見事に裏切られた。
見た目は色素の薄い茶色の短髪。パッと見は大人しそうな印象を持った。
名はジゼル。母親らしき人からはジルちゃんと呼ばれていた。
コクーンを両腕で大切そうに抱き上げていて、おじいちゃんとオレに軽く会釈しながら挨拶を済ますと直ぐに外へと出て行ってしまった。

「あらあら、ごめんなさいね。あの子、同年代の友達を作りたがらない子で」
「おや、そうでしたか」
「でも、悪い子じゃないのよ。ごめんね、グリーンくん」
「…オレ、アイツを追いかけてくる」
「む、そうか。気を付けてな」

たとえ、同じ年とはいえ女の子だ。家から出てすぐにアイツを早歩きで探しているとすぐに後ろ姿を見つけた。
暫くは、黙って後をついていった。
向こうはオレの存在に気付いていないのか、
それとも気付いていながらもなのかただ黙々と目的地であろう場所へと足を動かしていた。

五分と少し、あたりだろうか未だに目的地に着かずオレは痺れを切らし、ちょっと駆け出して話しかけた。
後からその事をナナミ姉さんに言えばもうちょっと優しい言い方はないの?と呆れられてしまった。普通の女子ならばビビっても可笑しくないのだとか。アイツは普通にしていたが。

「はいはい、何ですかぁ?さっきから後ろをついてきて、ストーカーかなんかですか?」
「すと…?」

聞いたことのない単語があり聞き返そうとすると、オレが意味を理解していないの理解したのかもういいよ、と言った。
どこへ行く気だと聞いても、どこでもいいだろと言って取り合わない。むしろオレがずっと付いてきていた理由を聞かれた。
何故付いてきたと言われて、オレはその事に思わず詰まった。
何故と言われたら、理由がない。ただ、何となく、としか言えない。

無言で問いかけにも答えないオレに痺れを切らしたのか、子供らしかぬ溜め息を吐き、子供が嫌いだと言えば、オレについてくるなどころか関わるなとも取れる言葉を見た目に似合わず吐いた。
そう言い捨てて、オレに背を向けてまた歩き出そうとした瞬間だった。
すぐ近くの足元の草むらから複数の野生のポケモンが現れたのだ。


その後、オレはヒトカゲで、ジゼルは両腕で抱えていたコクーンで応戦した。

ただのコクーンの筈なのに強かった。いや、ジゼル本人もトレーナーとして強かった。
視野が広く、場の理解も早い。機転も利く上ポケモンをきちんと理解している。
蛹ポケモンと呼ばれるコクーンは蛹と言っている時点で固い。だが、中身が柔らかく弱いと聞く。だからこそ、その外側の殻は固いのだが、それを理解しているからこそ先にかたくなるを指示し、そしておそらく進化前のビードル時代に覚えていたのであろうどくばりでいとも簡単にコラッタを倒した。
しかも、そろそろ進化するというのを分かっていたのかもしれない。コクーンが光りだした瞬間「やっとか」と呟いたのを小さな呟きだったが聞こえたからだ。

スピアーに進化して、使える技も増え変わりまともにバトル出来るのかと頭の片隅で思ったが、全く問題無くスピアーに命令して残りのポケモン達を簡単に戦闘不能にしたのだった。


その後、ジゼルは家へと進化したスピアーを連れて歩いていくもんだから、声を掛けながら追いかけたが相も変わらずオレを無視して家へと帰っていった。

ここまで、オレを無視し続けて何故その時は怒鳴ったりしなかったのか今でも分かんねえし、多分これから先も分かんねえと思う。
ただ、兎に角今言いててのは…。

「次はぜってぇに名前を呼ばせてやる…!!」

一度もオレの名を呼ばなかったアイツにそう誓ったのだった。

だが、次の日には既にジゼルはマサラを出ていて軽く出鼻を挫かれたのはここだけの話。


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