撃ち落とされたい心だった

些細なことで喧嘩をした。

夫婦になってどころか、付き合ってる頃から喧嘩なんてほとんどしなかった私と一の、初めての喧嘩である。
ありがちな話。洗濯物を放置するとかしないとか、そんなしょうもないけど個人的にはストレスが溜まっていたこと。

トレーナーとして選手のために全力でサポートする一は好きだけど。でももう少し家の事にも関心を持ってほしい。
晩御飯だって勝手に出てくるわけじゃないんだからね、と全然関係ないことまで文句を言いたくなって、ソファでごろごろしている一を叩き起こした。

最初こそ何か文句を言いたげだった一だったけど、私の機嫌が悪いのを察したのか何も言わずに私の前に座った。
あのね、と話を切り出すと一がごくり、と喉を鳴らしておそるおそる私を見つめてきた。そこから先はもう止まらなかった。

「だから、靴下脱ぎっぱなしにしないで。なんで洗濯機に入れられないの?」
「あー、悪い、なまえ」
「前も言ったじゃん、あと洗い物も―――」

煮え切らない答えに益々イライラしてしまって、自分でも目尻が上がるのが分かる。何も言い返さないってことは分かっててやってたってことなの?とひとしきり言いたいことを言う。
その間も一はじっと私を見ているだけでなにも言わない。ねえ、聞いてるの、と思って一に問いかける。

「何か言いたいことは?」

イライラを隠さずに一に詰め寄ると、一が少し視線を彷徨わせた後、頬を掻きながら私を見た。
は、なにその表情。なんでそんな顔して。

「……怒った顔も可愛いのはずりぃだろ」
「〜〜〜〜〜っ!!」

その言葉に、思わず顔を覆った。
言うことに欠いてそれかとか、全然話聞いてないじゃんとか、言いたいことはいっぱいあったのに。
ばか。私だってそんな格好いいこと言われるなんて思ってなかったってば。ずるいのは一じゃん。

たった一言で私の機嫌を直してしまう方が、どう考えたってずるいに決まっている。

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