きみのやさしいを咀嚼する

妹であるなまえが広島に遊びに行く、という話を親から聞かされた。そして神戸で途中下車をして俺の顔を見にくることも。
まあその日はオフだし、別にいいか、となまえを受け入れてやることにした。去年、正月は帰れなかったから会うのは久々になる。

部屋の見せたくないものを片していたら、なまえからメッセージが来た。近くのコンビニいる!と事後報告。この行動力、相変わらずだ。
思ったより早かったな、と近くのコンビニに向かう。コンビニの前にいた姿を見て安心した。変なのに絡まれてなくてよかった。

「倫〜!遊びに来たよ!ライブの遠征ついでに!」

手を振って駆け寄ってきたなまえは余所行きのかわいい恰好をしていた。は?中学生の癖に背伸びしすぎじゃない?お前は芋ジャー着てればいいんだけど。
満面の笑みで駆け寄って来るなまえは少し背が伸びたみたいだ。好きなことに全身全霊を掛ける性格は変わんないけど。

「はあ……お前ほんとアイドル好きだよね」
「だってDNAに組み込まれてるし……?」

なんで俺がおかしいこと言ったみたいな顔すんの、むかつく。ぺし、と随分下にある頭を軽く叩けばいったいなあ、と文句を言う小さな口。ちょっと拗ねたときに口をもにょもにょさせる癖直ってないんだな。

なまえの文句を適当に流せば、そうだ!と声を上げて俺を見た。コイツの話の高速展開と行動力がどこから遺伝したのか、いまだ俺にはわからない。

「あ、ねえ、倫くんの高校見たい!めっちゃ綺麗なんでしょ!?」





結局なまえに強請られて稲荷崎に来た。なにが悲しくて休日の学校に来なきゃいけないんだろうか、となまえの後をゆっくり追う。
公立の中学に通うなまえは、私立の校舎と設備にいたく感動したらしく上機嫌に鼻歌を歌って校舎を眺めている。学校の中入れないんだけど何がそんなに楽しいのか、俺にはもはや意味不明だ。

あ!と何かを見つけて駆けだしたなまえを放置してスマホをいじる。落ち着きがないのは相変わらずか、と思っていたら聞き覚えのある声が飛んできた。

「角名やん。なにしとるん今日オフやろ」
「お前こそなにしてんの侑」
「いや、ガッコに治から借りとったノート忘れてな〜、取りにきたんやけど。まあ、閉まっとるな」
「だろうね」

やべえな、と顔を歪めた侑は最初こそ焦ったような顔をしていたけど、どうにもならないことを悟ったらしく晴れやかな顔をしている。諦めたなこいつ。
帰ったら喧嘩だな。つーか月曜まで兄弟喧嘩引き摺るなよ、面倒だから、と念を飛ばしておく。

「つーか角名こそなにしにきてんねん」
「あー、まあ、俺は」
「倫くんー、めっちゃ綺麗な学校じゃ……、あ、えっと、バレー部の宮侑さん!」

あまりよろしくないタイミングでなまえが戻ってきた。できるなら侑、というかバレー部の奴らには会わせたくなかったのに。ばかなまえ。しかも、一度俺が部活仲間の写真を送ってから、なまえは双子がお気に入りらしい。
いつもは写真送っても適当な返事しか返さないくせに、双子の写真送るとテンション上げんのほんとむかつく。それ以来写真を送るときは極力双子をトリミングしているのは秘密だ。

名前を言い当てられた侑が一瞬驚いた顔をして、俺を見た。何を言うか手に取るように分かる。

「は!?角名、お前いつの間に彼女作っとったん!?」
「違うよ、妹」
「ほ〜!角名の妹ちゃんか、ぜんっぜん似てへんな!」
「なまえです。倫と顔も性格も似てない、ってよく言われます!」

お前本当、オブラートって言葉知らないよね。抜け駆けは許さねえ、みたいな顔したくせにもういいのかよ。
つーかなまえも俺と似てないことそんなに明るく言わなくてもよくない?なに、俺嫌われてんの?
そう思う俺を置き去りにして、侑と仲良さげになまえが話始めた。

「なまえちゃん言うん?よろしくな〜」
「はい!宮さん、いつも兄がお世話になってます!」
「めっちゃええ子やん!角名〜、お前の妹かわええな〜。サムと交換せえへん?」
「あ?」

侑がなまえの頭を撫でる。おい、なまえはお前のペットじゃねえ、つーかその手を離せ。
勢いよく侑の肩を掴んでなまえに見えないように気を付けながら侑を睨むと侑の肩が跳ねた。

「ちょっと侑さっさと帰れよ。そして俺の妹を汚らわしい目で見るな」
「こわ!!瞳孔開いとるで!!……あん?治や。しもしも〜?」

電話に出た侑がさっと俺から逃げた。ちっ。
そう思っていたら、なまえが俺の服をくいくいと引っ張ってきた。耳貸して、と言われてしゃがめばこそこそと耳打ちされる。

「ねえ倫くん、侑さんに連絡先聞いても大丈夫かな?」
「は??侑とか無理。ありえないんだけど。マジでやめろ」
「ええ〜〜、いいじゃん、侑さんかっこいいじゃん!」

にやにやするなまえはすでにスマホを用意している。なまえのことだ、1枚くらいツーショが欲しいとか言うんだろ。案の定、3人で写真撮る、と言い始めた。分かってる完全に俺がダシに使われていることぐらい。どうせトリミングするつもりだろお前。

「侑さんって呼んでいいですか!?記念に3人で写真とりませんか!?」

この面食いめ……!だからほんとその行動力……!
おまえがそうやって誰彼構わずほいほい付いていこうとするから、俺が中学でどれだけ大変だったか知らないだろ。
そもそも男を顔だけで選ぶな。目を覚ませなまえ、男は見た目より中身だ。

「なまえ、もう少し男見る目鍛えて?よりによってこんな人でなしなんて……」
「失礼だな倫くん!」
「一万歩譲って治……、いやだめだ、同じDNA……」
「角名オマエさっきから俺のことむちゃディスるやん」

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