「ただいま、信介くん……もう、私がやるって言ったのに」
「すまんな、なまえの喜ぶ顔が見たなってな。つい作ってしもたわ」
パンプスを脱いで居間に行くと、信介くんがほかほかのご飯の前に座っていた。もう、せっかくだから、と残業もせずに帰ってきたのに、これじゃあ意味ないよ。そう思って抗議の目で信介くんを見つめる。
信介くんはくすりと笑って、手を洗ってきぃ、と小さい子供に言うみたいに諭してきた。子供じゃないんだから、と頬を膨らまして、子供扱いしないで、と言ってやった。そもそも同じ年なんですけど、信介くん!
そう思ったら、ぽん、と頭の上に手を置かれる。おっきい手だ。
「子供扱いなんてしてへんやろ、なあ、奥さん」
「〜〜〜〜っ!!!」
不意打ちが!!過ぎませんか!!
エッなにそのほわわ〜〜んって笑顔。しかも!?ほわほわした笑みの中にちょっとしたドヤ感含まれてるの一体何事??宇宙の真理乱れてませんか!?どういう配合したらその黄金比が生まれるの??天才なの??ガリレオなの??湯川学なの???と、とにかく!!
とにかく、私の旦那めっっっちゃ推せる〜〜〜〜!!!
くぅぅぅ、と悶えていると信介くんがくすくすと笑った。アッ待ってその顔、その顔めっちゃ好き!!はあああ〜〜尊い〜〜〜!!
高校からお付き合いしていた信介くんと私は、信介くんの農業が軌道に乗ると同時に、夫婦という道を歩き出した。そして今日はその記念すべき日から4年である。
信介くんと結婚すると決めた時には、散々双子にはマジで??ホンマに北さんと一緒になるんか??と何度も聞かれたけど、その話はまた今度することにしよう。
農家さんとして歩む信介くんと違い、私はアイドルのプロデューサー、つまりはサラリーマンだ。ただでさえ忙しい仕事だけどその分やりがいも感じている。本来なら農家を手伝わなきゃいけないんだろうけど、なまえの好きなことしてええで、と言ってくれる信介くんには本当に感謝だ。
だからといってはなんだけど、1年のうち誕生日と結婚記念日だけは私が信介くんに尽くすと決めているのに。なのに、信介くんは毎回私の仕事を取ってしまう。なぜ。いや、ご飯は嬉しいんだけど、あの、私にも尽くさせてください。推しに貢ぎたいんです。
そう伝えると信介くんはなんやようわからんけど、と前置きをした後にするり、と頬を撫でてまっすぐに私の目を覗き込んで来た。アッ待って、待ってこれヤバいやつ!だって信介くんの顔が砂糖菓子みたいにふわふ
「ぎょーさんおる男どもの中からなまえが俺を選んでくれただけで幸せや」
心臓がつぶれるかと思ったしなんならもう潰れた気がしたしあの信介くんいまかおみないでめちゃくちゃにやけてるから!!!
「〜〜〜〜〜っ!!」
思わず顔を隠すために信介くんの胸に飛び込んだら、頭の上からくすくすと笑い声がした。控えめに笑う推し最高です。
「かわええな、なまえ」
もう殺してくれ。