聖地巡礼に感情が追い付かない




「ということで、次の全国大会に向けて引き続き準備を進めていきます。それと、全国大会は宮城県仙台市コンサートホールで行われるのでーー」

宮城県仙台市で行われます。

仙台市で行われます。

仙台。

「ハウッ!!!」
「なまえ!?どないしたん?大丈夫か!?怪我したんか!?」
「ア、ウン……ソダネ……」
「なまえ??こっち見よな??なまえの侑はそっちやないで??」

時間差で認識した!!仙台!仙台!!仙台!?!?私仙台に行けるの!?

これは!!合法的に推しに会える滅多にないチャンス!!アッアッやばい!!やばい以外の言葉が出てこない〜〜!!宮城、宮城だよね!?
ばさ、と貰ったプリントを見る。何度見ても、書かれているのは宮城県仙台市から始まる住所。

やっっっったああああ〜〜〜〜!!推し、推しに会えるよ〜〜〜〜!待ってて宮城勢〜〜〜〜!!




「まあ……会えないよね。知ってた」

全国大会当日。私は宮城の青い空の下にいた。

そもそも大会だし、部活だからそんなに自由行動が許される訳もなくほとんどをホールで過ごす。いや、そこはいいんだけど。部活生はもちろん部活をしてるわけで、会場にはいなくて。……正直部活帰りの推しとかに会うことも叶わなさそう。

せっかく仙台まで来たのに……!いいもん、いいもんんんん!!!悔しくないもんんんんん!!

同じ土地を踏んでいるだけで満足だもん。だって同じ県内で今、まさに推したちが汗水たらして部活してるんでしょ??烏野でも伊達工でも白鳥沢でも今まさに同時多発的に推し達が輝いている!!

はい、繋がった大地にいて同じ空気を吸えているだけで満足です。多くは望みません。できれば会いたいだなんて恐れ多いことを言ってすいませんでした……!そもそもついでに会いに行くということ自体が烏滸がましい。

やはり推しには自分のお金を貢いでこそ……!今度は絶対に自分で稼いだお金かお年玉で遠征するからね……!待ってて推したち!!

「お土産なにがいいかな〜〜」

泣く泣く諦めて弟たちや北くんたちに買っていくお土産を物色していたら、あの、と声を掛けられた。誰だろ、と思って振り返ると見たことのない男の子がいた。ど、どちらさまですか……?

「お土産だったらこれがオススメっすよ!」

エッ!!めっちゃいい人じゃん!?
こんな東北初心者にオススメとか色々教えてくれるとかどんないい人なの!?わーいありがとうございます!!と思ってその人のおすすめを購入する。ありがとうございました、とお礼を言えば徐々に怪しくなっていく雲行き。

ええ……お茶って……そんな恩着せがましく教えてやったって言われても……。困ったな、どうしよう、なんて上手に恩を着せてくるナンパなんだろうか……新手すぎる。ポテンシャル半端ないですね仙台。

さりげなく辺りにSOSの視線を送っていると、急に視界が青くなった。え、と顔を上げたけど、うちの部員じゃなさそう。広い背中とつんつんした髪形。

だれだろ、後ろ姿で見えない。侑や治ほどじゃないけど、高い身長。チェックのズボンと白と淡い緑のエナメルバックに、……ん???待って、あの??おおおおおちつこ??わたし??見間違いじゃなければAOBAJOSAIって書いてあります???ねえ、これって青葉城西であってます??そしてVBCって!!ねえ!!待って心の準備できてない待って待って死んじゃ

「他校の女子にからんでんじゃねえ。お前、さっさと帰れ」
「す、すいません、岩泉さん!」

ワアアアアアアアア!!いわ、い、岩ちゃん!!!いわちゃあああん!!エッ待ってあの、凄いやっぱり男前が凄い!!格好いい〜〜!きゅんきゅんする〜〜!!タコウノジョシニカランデンジャネエ!?待ってねえどこまで男前なの!?

白鳥沢にも烏野にも伊達工にもまっっっったく会えなかったから諦めてたけど、最後の最後に推しに会えるなんて!!ありがとう神様!!ありがとう東北!!大人になったら納税します!!

「あ……?あんた……ん?いや、人違いか。悪いな、うちの部員がビビったろ」
「ヒエ……だ、ダイジョブデシュ……」

かっ、カタコト〜〜!!恥ずかしすぎる!!でもしょうがないよね!?だって突然すぎるもんね!?唐突に登場する推しに感情が追い付かなくて言葉にならない!!今私の語彙力はゼロです!!

し、しか、しかもねえ聞いて!青城ジャージじゃなくて制服!!岩ちゃんの!!制服!!どこまでかっこ良ければ気がすむの!?シャツから覗く逞しい二の腕が!!無理〜〜〜!あ〜〜〜〜!好き!!!

「あ、岩ちゃーん、なに、し、て……」
「ファッ」

お、お、オイカワサンダァァァァァァ!!
さ、流石元祖イケメン枠〜〜!!きらきらオーラがすごい!!髪さらさら!おめめぱっちり!こ、これが公式イケメン枠の暴力……!圧倒的バレーの王子様!双子もやばいけどこっちもやばい!!!も〜〜〜好き〜〜〜!!

こんなタイプの違うイケメンが同じ学校に存在してるとか青葉城西のポテンシャルたるや……もう、辛いよ〜〜〜!お互いが一緒にいると5割増で輝いてますよね!?やっぱ流石幼馴染!

「あ、あの!えっと、宮なまえって言います!ちょっと大会でこっち来てて、困ってたところを助けて貰いました。ありがとうございます」

このご恩は来世まで忘れません!!ありがとう神様!!ありがとうナンパくん!!





「あの、宮なまえ、って言います」

突然岩ちゃんが消えたと思ったら、どこかの女の子を助けてた。どうやらうちの部員がナンパ目的で絡んでたらしい。外聞悪すぎる。目ざとく見つけた岩ちゃんをナイス、と内心で褒めた。

え?いやいや及川さんのはナンパじゃなくてただの応援だから。全然別。違うから。そう思いながら岩ちゃんに声を掛ける。くるりと振り向いたその子を見て体中に雷が走った。

…………エッ!?!?は!?!?

みょうじなまえ!?なんで!?えっなまえちゃん??そっくりさん??ちがうよね??本物だよね!?本物!!
うっそだろ俺の推しが!!息してる!動いてる!エッ、顔ちっっっっさ!!かっっっっわいい〜〜!!やばい直視できない〜〜!!

「ハワワワ……!」
「あの、えっとお名前……教えて貰えますか……?」

おずおずと俺を見上げてくるなまえちゃんに心臓がぎゅん!と音を立てた。身長差あるからしょうがないけどそれでも言わせてほしい。上目遣いの破壊力!!!
感動に打ち震える俺を無視して岩ちゃんが自己紹介をした。ねえなんで岩ちゃんそんな平常運転なの?もしかしてそっくりさんだと思ってるよね??違うから!!この子マジもんのなまえちゃんだから!!

「俺は岩泉、2年だ。こいつは覚えなくていいぞ」
「ヒドイな!!おおおおお及川徹です!」
「同い年だね、岩泉くん助けてくれてありがと。及川くんもよろしくね」

アアアアア……!!
にこって、推しが笑った……、アッ……もう、……だめ……言葉にならない……、なんでそんな普通に話せるの岩ちゃん……。おれむり……やばい……推しがいきててなきそう……。

「……あの、2人ってバレー部、だよね?」
「なんで知ってんだ?」
「VBCって書いてあったし。それと、弟がバレーやってて、それで」
「それってもしかして宮ツインズか?稲荷崎の」
「そう!その双子、私の弟なの!」


やばい。


むり。


とける。


宮ツインズの話出た瞬間、なまえちゃんの顔がふにゃんて……俺がとける……エ……、俺たちは今何を見せられているんだ……??

満面の笑みだ。圧倒的天使。いや女神。いやもはや癒しという概念そのもの。心洗われる。もう空気清浄機じゃん??はいもう浄化されました。俺今世界で一番心綺麗な自信ある。

つーかね!?稲荷崎はこんな天使が学校にいるの??制服姿のなまえちゃんを毎日拝めるわけ!?おのれ稲荷崎ィイ〜〜〜!!

どうしてなまえちゃんは青城じゃないの!?なんで!?少なくとも性格悪そうな稲荷崎のセッターより俺の方がどう考えてもなまえちゃんの横に相応しいでしょ!?ていうか身内!?はあ!?なにそれ情報過多で付いて行けないんですけど!?

「つーか悪かったな、怖い思いしたろ」
「あ、全然大丈夫だよ。控えめだったし、」
「控えめ……あれでか」
「ほら。関西だともっとグイグイくるから」

嫌な思い出があるのか、あはは、と乾いた笑いをこぼした。守ってあげたい、この笑顔……!おい身内だろ、ちゃんと守れよ宮ツインズ!!
俺が兵庫に呪いを飛ばしていたら、岩ちゃんがそうだ、とスマホを出した。まさか岩ちゃん連絡先聞くとか!ナイスすぎる!!岩ちゃんいつも俺のこと文句言うけど今回だけは聞かなかったことにすんね!

「なんか後からあってもあれだからよ、連絡先教えてくんねーか?今度ちゃんと謝らせっから」
「え、そんな、本当大丈夫だよ」
「ごめんね。1年に示しつかないからさ。教えてくれると嬉しい。嫌ならブロックしてくれていいから……!」
「及川くんまで……(欲しい欲しい欲しいでも私ごときが烏滸がましい!!)」

お願いしますお願いします!次いつ会えるか分かんないし断られたら一瞬、聞かなかったら一生後悔する!!推しは推せるときに推すのが使命!!サービス終了の悪夢を俺は忘れない!!

心の中で祈っていたら少し悩んだなまえちゃんが、ポケットからスマホを取り出した。これはもしや!!!

運動部って大変なんだねって苦笑したなまえちゃんは、うーんと唸った末、ほどほどにしてあげてね、とはにかんで俺らを見上げた。かっっっっっわ!!なにそれもう俺耐えられないんですけどーーーーーーー!!!

「……じゃあ、えーと、2人だけでいいのかな?」

よっっっっっしゃ合法的に推しの連絡先貰ったあああ!絶対飛雄も牛若も倒して全国行くからね!!!待っててなまえちゃん!!!

ん??2人だけでいいって、俺らしかいなくない?なまえちゃんどこ見て……

「「俺らもいい?」」
「アッハイ(あああああ〜〜阿吽に続いて松川と花巻まで〜〜!!ほんとに仲良し!!)」
「ゲッ!まっつん、マッキーちょっとあっち行って!」





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