推しを見て欲しいような欲しくないような


パーパーパパパー!
けたたましいトランペットの音が会場に響く。えげつない音量と迫力。サーブの時は邪魔やけど、ノッてるときは気持ちええ。

インハイの出場校を決める県予選。俺ら稲荷崎は危なげなく決勝進出を決めた。明日の対戦相手がどっちになるかわからんけど、まあ、どっちでもええわ。潰すだけや。そう思って整列する。

観客席に一礼すると一際目立つ大きな楽器が見えた。そんでその横で笑いながら俺らに手ぇ振ってくるなまえも。ヒュッ、と喉から変な音しよった。アッ!待って待って待って!!

最推しが!!!キラキラしとる!!!
なん、そんな汗だくになるまで俺らのこと応援してくれてホンマ……!アアア〜〜〜もう言葉にならへん〜〜〜!!推しから応援されるとかもう人生終わってもええ〜〜〜!!

「なまえ〜〜〜〜!勝ったで〜〜〜!!」
「なまえさんカワ……え、待って明日も最推しが全力で応援してくれるの見れるの俺??人生のログインボーナスじゃん」
「最高すぎるわ……。はあ〜〜〜〜〜、アカン、最高しか言葉出てこん」

俺の横で角名とサムが顔を覆った。せやろせやろ〜〜!!やっぱ俺の最推しサイッコーにかわええんやって!!
もうホンマ人類刮目せえよ、ってなるやん??このスーパーエキセントリックKAWAIIなまえが俺の姉ちゃんやぞ??全人類マジでうらやましがれや〜〜〜。

圧倒的勝利に浸りながらコートを離れようとしたら、すれ違いざまオッサンたちの声が聞こえてきよった。関西の有名なテレビ番組や。そういやインハイ密着するみたいな話あったなあ、と思っとったら、なんや観客席の方見上げとった。

「おい、さっきのあの可愛い子どうする?」
「勿論あとでインタビューも行きますよ、稲荷崎の吹部なら間違いないでしょうし。あんだけ可愛いなら数字稼げそうっすよね」
「だな」

ア??おい誰に許可得てなまえのこと映そ思とんねん。

うちの吹部のかわええ子なんてひとりしかおらんやろ。もちろんウチのなまえですけどなにか??そう思いながらカメラを睨む。
オッサンどもには華麗に無視された。クッッッッッッソ!大人め!仕事やからって容赦せえへんぞ!!





「すいませーん、稲高の吹部の部員さんです?ちょーっとインタビューええですか?」
「うちらですか!?え、やば!どないしよ〜、顔作ってへんのに!」
「あ、1人ずつお願いします〜」

柱の陰からさっきのカメラマンを睨みつける。やっぱりアイツらなまえのとこ行きよった。くそ、ロリコンやろ。

確かに俺の姉ちゃんやし??なまえが可愛いのは??そらもう宇宙の摂理やけどな??

でも世間がなまえの魅力に気付いてまうのはあかん……!それは!!アカンのや!!
最推しの可愛さを知るのは俺だけでええねん!!せやろ!?俺の姉ちゃんやぞ!?オイそこのオッサン!勝手に俺のなまえを嘗め回すように見んなや!視界に入れるならせめて5千兆円課金してから出直して来いや!!

ちゅーか、吹部のやつらもさっさと帰ってくれマジで。インタビュー受けてなにはしゃいどんねん。顔作っても大して変わらんやろがさっさと帰れや!!ああああオッサンどものインタビューが始まってしもた!!

どうしたらええんや!!俺はどうしたええ!!ああああ!

「アカ――――ン!!」

思わず叫んだ。しまった、こんなんただの不審者やん。周りからも怪しい目で見られとるのが分かる。アカン、ヤバい、めっちゃ恥ずかしい。思わずしゃがみ込んだら遠くから軽い足音がしてきた。もうなんでもええ、俺を殺してくれ……。あ、でもなまえを春高連れてくまでは死なん……。

「ああああ侑……!?ど、どうしたの?大丈夫?」
「なまえ……!」
「け、怪我とかしてない?大丈夫?」

よっっっっしゃ〜〜〜〜!!!なまえが!!来た!!やっぱインタビューのオッサンより俺の方が大事よな!?ああ〜〜〜〜心配顔の最推しめっちゃかわええやんか〜〜〜〜!!めっちゃ心のシャッター押す〜〜〜!!

―――まてまて?これは行けるのでは??
このまま俺がなんやかんやなまえを誘導したらインタビューからなまえをTVから逃がすことできるんちゃうか!?これや、もうこれしかいけんのと違うか!?

「なまえ……ああ、なんや立ち眩みしてな……」
「!?!?!? そ、そんな!侑、大丈夫?ここ座ってて!」

そう言ってなまえが慌てて俺の手を握って近くの椅子に誘導してくれた。
ハウッ……推しの苦しそうな表情……すまん、なまえ……!しゃーないねん!これは必要な犠牲なんや!
いやそれにしても俺の推し苦しそうな顔も可愛いてなんやねんほんま〜〜は〜〜顔がええ〜〜フルハイビジョン4K画質の大画面でみたいわ〜〜。
なんて余裕ぶっこいてたんや、俺は、この時。

「待ってて!今、北くんとか治か、角名くんとか誰か呼んでくる!!」
「オアーーー!なまえ!?!?ああああ待って待って待ってちょ、待ってください!」
「な、なんで敬語……?」

せやな!!普通誰か呼ぶよな!?でもその3人だけはあかん!!バレたらめんっっっどくさいねん!特に北さんはあかん!!ごめんホンマやめてマジであかん!!

「き、気のせいかもしれんなあ〜、ああ〜〜眩暈完っ全に気のせいやったわあ〜〜!」
「で、でも、さっき角名くんのサーブ頭にぶつかってたし、もし脳震盪とかしてたら……!」
「お、大袈裟やな……!大丈夫やであんなヘボサーブ痛くなん」
「誰がヘボサーブだって?」
「オワーーー!すすす角名!!」

俺の後ろから声を掛けてきたのはまさかの角名やった。突然の登場に俺の心臓がバックバクいいよる。
ていうかご本人様登場〜とかなんのギャグやねん!やばい、あかん、角名めっちゃ言いたそうにこっち見るやんか。お前わかっとんのやろ、なんも言うなや!

楽しそうにきゅ、と目を細めた角名がなまえの肩にそっと手を乗せてなんや話し始めた。おい、俺を無視すんなや。ついでになまえに触んなや。

「なまえさん、大丈夫ですよ。さっきも普通に試合してましたし、こんなの日常茶飯事です。ねえ、侑」
「お、おおん……せやな、せやねん……」
「そ、そうなの……?」

本当?と首を傾げて俺を見てくるなまえにまた心臓がぎゅんっと唸った。ウア……心配そうに俺を見上げてくる最推し……控えめに言って最高やんな??ていうか角名、お前なまえの前で猫被りすぎやろ。別人になんのやめろや。

「たんこぶできたくらいじゃないですか。心配なら病院行かせますし。それよりなまえさん、帰りうちのバス乗って行きませんか?俺の隣空けるんで」
「俺の席やろが!!何勝手に空ける言うてんねん!!」
「あ、すいません、7番と10番の人ですよね?インタビューさせてもろてええですか?あ、あとそこの吹部の子も―――」

騒いどったせいで、カメラとマイクとカメラを持ったオッサン共がどやどやこっちに来よった。
角名のせいであいつら来てもうたやんか!どないしてくれんねん!なまえが、なまえの存在が全世界に発信されてまう!!俺の推しが!!世界に!

それだけはアカン!!こうなったらなんでもええ、角名!お前はなまえを連れて先に行け!ここは俺が食い止めたる!世代NO1セッターの意地見せたるわ!!後は任したでサム!!

「宮さん」
「あ、北くん、どうしたの?」

ピャ。

「顧問と部長が探しとったで」
「え、ほんと?ありがとう、ちょっと行ってくるね。そうだ、北くん、角名くんバレー部決勝進出おめでとう」

きききたきたさん。父兄に挨拶行っとったやないですか。早すぎやないですか?だらだらと背中を流れる汗が止まらん。おかしいな、俺クールダウン終わったはずやろ……。
俺の後ろにおったなまえは、突如現れた北さんにありがとう、なんて優しい言葉を返していた。アア〜〜推しからの祝いの言葉キく〜〜。思わず顔を覆って天を仰いだ。

「侑、体調悪いならちゃんと病院行ってね?角名くんも教えてくれてありがとう。また学校でね!あ、すいません、お疲れさまですー」

そう言って軽い足音と共に去って行ったなまえを見送る。オッサンどもの残念そうな顔が見えたけど、俺はそれどころやない。仮病を使ったのがバレたらどんな正論パンチが飛んでくるかわからん。角名、お前は余計なこと……って角名おらんやんけ!!

「……体調悪いんか、侑」
「イイエ!!!」
「さよか」
「あ、稲荷崎のキャプテンですね?インタビューええですか!?」
「勿論です」

結局、俺は北さんと並んでインタビューを受けることになった。正直なに聞かれて答えたかよう覚えとらん。
後日顔をひきつらせて受け答えをする俺を見て、アホみたいに笑うサムを一発殴ったんはしゃあないことや。




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