これより先女子入るべからず



我らが梟谷学園には3人もの女子マネージャーがいる、非常に恵まれた部活だ。
その中でも明るくて優しい性格と一生懸命にマネ業をするみょうじは何かと話題に上りやすい。

頑張ってる姿は健気で可愛いんだけど、まあ、なんつーかそれ以上の理由がある。お年頃の男子なら、一度は凝視してしまう理由が、みょうじにはあった。

「みょうじって胸でかいよなあ」
「木葉……お前ほんと好きだよな……みょうじの胸」

着替えながらそう溢すと隣にいた小見がしみじみ呟いた。なんでだよ、お前だって好きって言ってたろ。
我が梟谷学園のバレー部の部室で始まった、所謂男子高校生の会話。

つまりは下ネタである。どこの高校でも男子が集まればされるだろう、何組の女子が可愛いとか、胸がでけえとか、雑談から何歩も踏み込んだR18の世界。めくるめく脳内おピンクな世界である。

部活一色な俺らもそこはお年頃なわけでして。もっと踏み込んだ動画やら雑誌やらの一方で、やっぱり近くにいる女の子にも目はいく。特に我らが梟谷の2年マネであるみょうじは、その立派なおっぱいのせいで俺らの餌食となっている。

ごめんなみょうじ。でもこの手の話になった男子は止まらないんだ。恨むならお持ちの推定Fカップを恨んでくれ。内心でめちゃくちゃ謝った。でも多分それ以上に拝んだ。

「見たか?今日走ってたときたゆんたゆんしてたぞ」
「あー、俺目のやり場に困るときあるわ」
「じゃあ見てねーの?」
「ガッツリ見ましたありがとうございます」

小見が頭を下げた。何人か話に乗ってきた他の3年がげらげらと笑う。ほんとごめんなみょうじ。そして話はどんどんエスカレートしていってやっぱりというか、案の定ゲスい話になった。

「あんだけあったらプレイの幅広がるよなあ」
「お前……マネで妄想すんなよ」
「じゃあお前はしねーのかよ」
「します。すいません。眼福です」

拝むように何人かが頭を下げた。やはりおっぱいの力はすさまじい。偉大だ。

「だよなあ〜。俺はもう絶対挟んで貰う。してもらえたら人生終わってもいい」
「大袈裟か!まあ、でも俺も挟まれてえな……」
「俺はあれだな、上に乗って貰って揺れるの見たい」
「ああ〜〜、アリ!」
「あの推定Fカップ見ながらとかやべーだろ。爆発するわ」

ナニがとは言わない。ナニである。
テンポ良く出てくる欲望を各々品評していたら、ふと気づいた。いつもなら加わって来る男が加わってこないことに。

「木兎はー?お前、前にマネの胸に押し潰されてえ〜っつってただろ?」
「ああ、騎乗位で密着するやつか、木兎好きそーだな」
「あああああ前はな!!前は!!」

何どもってんだコイツ。
思わず小見と顔を見合わせた。アワアワ慌てた木兎が手をブン回しながらなんとか話しを逸らそうとする。なんだよ突然。つーか部室で暴れんな!

「お、お前ら、そこら辺に……っ!」
「つーか木兎お前だって顔に掛けたいとか散々言ってただろ」
「そ、そぉぉぉだっけ!?き、聞き間違いじゃねえのか!?おおおれはしゅしょーだぞ!?そんな、部員に対してだな!そんなこと!!」

何を今さら主将面してんだこいつ。
去年の夏合宿で黒尾とさんざんマネの揺れるおっぱいについて熱く語ってただろうが。散々妄想してきた癖にいまさら善人ぶるな、と言えばああああ、と叫びながら頭を抱えた。情緒不安定かよ。

あーだのうーだの唸る木兎がちら、と赤葦を見た。木兎おまえ……。恐らく赤葦にいつも俺たちも支えてくれるマネージャーをそういうネタにするの良くないと思います仮にも主将ですし、とか言われたんだろうな。
あのおっぱいを前に、木兎は煩悩を捨て去ったらしい。偉いよおまえ。尊敬する。だがしかし同罪は同罪。揺れるおっぱいを見た時点で同じ穴の狢だ。そうだろ?

それにしても赤葦の言いそうなことだなオイ。だがしかし俺は止まらない。マネージャーだろうが先生だろうがあれば愛でるべき存在。それがおっぱい。それが男とに生まれた責任であり義務だ。

つーか赤葦こそ澄ました顔してるがお前むっつり(確定)だろ。ぜってーみょうじでよからぬこと考えたことあるだろ!
ということで俺は矛先を変えて赤葦に絡むことにした。そういやこいつの下ネタってあんま聞いたことねーな。

「つか、赤葦はどうなんだよ、お前むっつりだからすげーこと考えてんじゃねーの?あれ、おっぱいで体洗って貰うとか」
「おい木葉天才か」
「ああああこのはああああ」

木兎の絶叫を余所に赤葦に話題を振る。つーか着替えんのはえーなこいつ。俺らまだジャージなのにお前もう完全に終わってスマホ弄ってるとか。相変わらずソツの無い後輩だ。

男子高生ならほぼ間違いなく盛り上がる下ネタでも赤葦の表情は変わらない。
あの僕はそんなこと考えてないです、みたいな顔の下には一体どれほどの欲望が渦巻いてんのか。
なんかスゲーマニアックなプレイを楽しんでそうだと思うのは俺だけだろうか。こいつぜってー恥ずかしい思いとかさせて反応を楽しむタイプだろ。

スマホをしまった赤葦がエナメルを担いだ。今日は先に帰ります、と宣言されていた俺らは大人しく赤葦を見送る。
話を振った後輩に話をスルーされるのはなんというか地味にダメージをくらう。この後輩の慌てる姿のひとつやふたつ拝めると思ったのに、と残念に思っていたら赤葦がじっ、と俺を見てきた。
え、なんですか赤葦くん。俺は男と見つめ合う趣味はありません。

「まあ、俺も男なんで、パイズリも騎乗位もソープごっこもどれも好きですけど」
「予想以上だったわ」
「お前も赤葦もマネで不埒なこと考えすぎだろ」

せっかく俺がぼやかして言ってやったのにお前……。やっぱお前むっつりだな。というかこいつのすました顔から出てくる下ネタの破壊力よ。女子が見たら泣くんじゃなかろうか。
そう思っていたら。

「俺、全部実際に出来るんで、すいません」
「は?」

赤葦がそう言った瞬間、コンコン、と部室の扉がノックされた。誰かが返事をして、入ってきたのは渦中の人物、みょうじだった。やめろ、今来られるとさっきの話の流れで視線の行く先が一か所になっちまう。おい、尾長おまえ見すぎだバカ!

「明日、ちょっと遅くなるかもなんで鍵お任せしていいですか?」
「おー、いいぜ」
「ありがとうございます!じゃあお先です!」

みょうじから3年が鍵を受け取った。お先です、とみょうじが言いかけた瞬間、赤葦が扉の方へ進んだ。一緒に帰んの?あれ、お前らそんな仲よかったっけ?

「お待たせなまえ、帰ろっか。今日は2人で」
「え?え??」
「ちゃんと、泊まる準備してきた?」
「あ、赤葦!?」
「お疲れさまです、お先に失礼します」

話しかけたと思ったら、赤葦がまくし立てた。そして目を白黒させるみょうじと一緒に流れるように出て行った。とんでもない爆弾を落として。

オイ待て、実際にできるてどういうことだお前彼女いたのかよつーか、え??待て待て待て。なまえ??呼び捨て??2人で?帰っちゃうの??……はあ!?泊まり!?

赤葦とみょうじがお互いの家が隣同士だとか親戚だとか、そんな話は聞いたことがない。つまり赤葦ん家に泊まるっつーってことはつまり。木兎の焦りようはそういうことか。言えよお前そういうことは!知ってたなら!!

なにより、颯爽とみょうじを攫って行った赤葦が振り向き様見せた能面みたいな表情に、俺は全てを察した。


俺、明日が命日だわ。


「「「う、そだろぉぉぉぉ!!」」」
「だから言っただろって!あかーし怒ると怖いんだぞ!俺は良く知ってる!」





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