出所の分からない情報は大体間違い

「弔、君には理解者が必要だね。僕以外のもっと君に近い場所で君の苦しみを、怒りを理解してくれる子が」

先生にそう言われてはあ?と聞き返した。

ぺら、と見せられた紙には女のこれまでの人生と顔が写っていた。どこかの制服を着て歩く姿。どこにでもある普通を形にしたような女だ。こんな経歴してるくせに。虫酸が走る。なんだ、こいつをブチ殺せばいいのか?

「この子はね、」
「いーよ、先生。そういうのどうでもいい。殺せばいいんだろ?その普通の象徴みたいな人生を送ってるやつをさあ」

そう言って施設を飛び出した。ムカつく。ムカつく。ムカつく。なんなんだよ。普通の顔しやがって。そう思いながら歩を進めて行く。かろうじて被ったパーカーのフードすら鬱陶しい。いつもの癖でガリガリと皮膚を掻く。僅かに痛みが走ったが、それ以上にこの衝動を何かにぶつけたかった。

「……みょうじ、なまえ……」

USJの本来の目的はオールマイト。でも、ついでにコイツも殺すのもありかもしれない。






うざい。うるさい。話が違う。先生が言うから1体しか持ってこなかった。

もっと子供みたいに怯えて、震えると思ったのに。雄英の奴らは抵抗ばかりしてきて嫌になる。しかも連れてきたチンピラは大して役にも立たなかったらしい。もう死ね。黒霧も黒霧だ。便利な個性じゃなかったら俺が殺してる。

「切島の言う通り行くよ!ここで立ち回ればただの邪魔になるだけだ、っ緑谷!」

そんな中で聞こえてきた退却を呼びかける女の声。そうだよ、そうやって怯えて、逃げまどえよ。そんな声を無視して、立ち向かってくるヒーロー志望のゴミ共。さっさとそいつの言うように逃げたらいいのに、特にこの緑色のコスチュームのヤツ。腹が立ってしょうがない。

弱いくせに立ち向かってくるなんて、バカのすることだろ。どうせ脳無には敵わないんだから、せいぜい泣きわめいてろよ。そこで平和の象徴が死ぬのを大人しく見とけ。

「〜〜〜っ!ああ、もう!くそ、あのバカ!」

緑頭を掴もうとした途端、小規模の爆発が起こる。おいおい、大して痛くもねえけど、なんなんだよ。結局緑頭に触れようとした掌は空ぶった。チッ、と舌打ちして睨んでも、女の方は表情ひとつ変えない。またひとつ苛立ちが募る。

「馬鹿!自分の力を過信すんな!ただの足手まといになるってことが、なんで分からない!!」
「……でも!」

内輪揉めかよ、余裕だな。いいよなあ、ヒーローってのは、弱い者イジメも正当化されるもんなあ。もういい、面倒なんだよ、お前ら全員。もっと簡単に攻略できると思ったのに。所詮レベル1の雑魚キャラだろ、だったら大人しく死ねよ。

「中途半端にプロの領域に手を出すな!」
「―――っ、みょうじさん!後ろ!」

そこらへんで指くわえてみてるゴミ共の中じゃ一番まともな判断をしていると思う。けど、今話してるこの女が死んだら、この緑頭の奴はどんな反応すんだろうな。そんな興味本位でその頭を掴んで壊してやろうとしたのに、振り向きざま、手首に蹴りが入れられた。くそ、無駄に鋭いやつだな……!

「話の途中に入って来るな……!マナー違反だろうが!」
「お前がみょうじかよ、よし、殺そ、う……」

至近距離で視線が交錯して、途中から言葉が消えていく。
歪めた目の奥に、一際強い感情を見つけて思わず息が止まった。これ、は、この目は。
一蹴り入れてその場から瞬時に離れたせいで、その目は遠くに退いていく。もっと見たかった、と内心で舌打ちをしたと同時に、急に先生の言葉が脳裏によみがえった。

『弔、みょうじなまえは―――君と同類かもしれないよ』

愉悦を押し殺して、楽しそうにそう告げた先生の声が浮かぶ。そうだ、こいつ。俺と同じ目をしてる。
ただの平和ボケした女じゃない。こいつは知っている。ヒーローの本質を。世間の持つ冷酷と狡猾を。この有象無象の中で、ただひとり。この社会を知っている。

こいつは、俺と同類だ。

思わず口元が上がった。先生がなんでこの女を教えたのかが分かった。同じだ、俺と。初めてだ。俺と、同じ目をしているヤツ。なあ、お前は何を見た?何を聞いた?何をしてきた?教えてくれよ、普通染みた羊の皮を被って、群れの中にいる気分はどうだ。吐きそうになるだろ。

ああ、こいつ、こっちに堕ちてこないかな。




結局、その日はマイナス。脳無を失った代わりに得たのはイレイザーヘッドの後遺症くらいか。後は消したいガキが何人か出てきただけ。ただ、みょうじなまえは別だ。欲しい、アレは欲しい。どうしたら手に入る?どうしたら―――。

『随分と機嫌がよさそうじゃないか、弔。なにか収穫はあったかい?』
「収穫も収穫だよ、先生。なんで事前に教えなかった?」
『与えられるままでは成長できないだろう。……気に入ったようで安心したよ。さあ、弔。次はどうすべきかな』

回りくどくて腹立たしい。でも、今の俺は気分がいいから、許してやるよ。何からすべきか、なんて決まってる。まずはなんであいつが俺と同じ目をしてるのか。それが知りたい。

「話に乗ってやるよ、先生。まずは、みょうじなまえを洗う」
『良い判断だね。弔』

プツン、とテレビが切れた。楽しそうですね、と黒霧がグラスを拭きながらそう言う。くつくつ、と喉を震わせる音が漏れる。良い、最高の気分だ。

「おい、黒霧。義爛に連絡を入れろ。あの女の情報を集めさせろ」

シン、と静まり返ったバーにカラン、と氷の崩れる音がした。





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