情報収集はビジネスマンの嗜み



「なまえ、コーヒー飲む?」
「ああ、うん」

なおざりな返事だなあ、って思ったけどこれは俺が悪い。なにしろ新聞を読んでいるなまえはいつも集中しすぎて他のことに対する思考が飛びがちになるからだ。

寮の共用スペースで新聞を読んでるなまえは紙面から視線を外すことなく、また集中し始めた。俺はそんななまえを見ているのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

紙に刻まれた情報の海をさ迷うなまえの横顔は、真剣ですげー綺麗だしマーカーを引くのを見てるとマジでデキる大人の女の人って感じで、なんつーか、すげーイイ。俺の彼女最高すぎる。

しまった。見惚れてる場合じゃなかった。
はい、と2人でデートの時に買ったマグカップを渡せば、新聞から顔を上げて俺を見た。そういうきちんとしたとこ俺超好きなんですけど。

「ありがと、範太」

うっわ!なんつー顔でお礼言うんだよなまえ!
いつものきびきびした雰囲気の何倍も柔らかい空気を出して、俺に微笑み掛けてきた。不意打ちだ、くそ。俺の彼女滅茶苦茶かわいい。

なまえが新聞を見てふーふー冷ましながらコーヒーを一口含む。すぐに眉間に皺がよって、あち、と言いながら舌を出した。ごくり、何処からか喉を鳴らす音が聞こえてかちん、と頭に来る。

部屋だったらそのままキスのひとつやふたつしてやんのに、共用スペースだからそれもできねーし。いやなまえのキス顔見んの俺だけでいいんだけどな!

他の奴、特に爆豪と轟なんかに見せた日には俺の彼女だって分かってても襲いそうだ。いやマジねーわ。

「休日早朝のみょうじ……いいな」
「なんか、……色気やべえな」

こそこそと上鳴と切島が話してるのが聞こえる。おいお前ら俺の前で堂々と俺の彼女舐め回すように見んな。
でも、ソファに浅く腰掛けながら新聞を熟読してるなまえはそんなあいつらの話なんて聞こえてねーらしい。なあおい、無防備すぎやしないですか?

俺的になまえのそんな姿を見せるのはなんつーか、癪にさわるっつーか。ぶっちゃけ気に食わねえ。そう思ったら、ピン、とアイデアが浮かんだ。爆豪と轟もいるし、ついでに牽制しとくか。そう思ったらにや、と口許が緩んだ。

「なまえ、ここ入れて」
「ん」

ソファに腰掛けるなまえの後ろに座ってその体を膝に抱き抱えた。この時新聞を読むなまえを邪魔しないのがポイントである。

アア!?っつー爆豪のキレる声が聞こえた。あーハイハイ。そのままなまえの薄い腹に腕を回して密着した。ぱき、っつー氷の音も聞こえる。あーハイハイ。

離れた所にいる爆豪、切島、上鳴、轟がギリギリと歯を食い縛りながらこっちを見てる。はー、気分がいい。
わりーけど、お前らがお熱のこの子、もう俺のなんだわ。

「ん、ちょっと、範太」
「わりわり、な?まだおわんねーの?」
「ちょ、っと。そこで喋んないで。あとちょっとだから」

ぐりぐり肩に顎を乗せてそう言えばなまえの肩がぴくり、と震えた。おお、イイ反応だ。なまえは耳が弱い、と。心のメモに記した。
なまえの肩を占領したまま、爆豪たちを見る。残念でした、と思わずこぼれた笑みにあいつらが変な声を出した。

「朝からイチャイチャイチャイチャ……殺す!!!」
「おいやめてやれよ!どうみたって瀬呂がダル絡みしてるだけじゃねーか!くっっっっそ羨ましいけどよ!!」
「轟も氷仕舞えって!!氷での殴打とか一番えげつねーわ!気持ちはすっげーわかっけど!!」
「……そうか、炎熱の方がいいか」
「すいません俺が悪かったんで両方仕舞ってください!!」

後ろでぎゃあぎゃあ騒ぐあいつらを放置して腕の中のなまえにさらに密着する。本当は首に俺のもんだってキスマークのひとつふたつ、いや無数につけてーけど、それをやるとなまえが怒るからしない。
静かに怒ってくる感じがドラマん中の社会人みてーでちょっと興奮するのは内緒だ。

かさ、となまえが新聞を折り畳んだ。どうやら日課となっている週末の新聞チェックは終わったらしい。

「お、もう終わった?今日は早いな」
「あんだけ横からうるさくされたらねえ……。あとの細かいのは部屋でやる」
「…………それ誘ってんの?」
「は?そんな話したっけ?」
「デスヨネー」

ズバァァァンと擬音が付きそうなほどの勢いで返された俺はトホホと涙を呑んだ。くそ、俺は諦めねーよ!?なんか行けそうな流れだったじゃん??まあ阻まれたけど!

つーか可愛い彼女の部屋行ってあわよくばイチャイチャしてえって思うのは男なら当然だろ!!
ちぇ、と肩にぐりぐりと額を押し付けるとなまえから文句が出た。へーへー痛くしてすいません。瀬呂くんはどうせ面倒ですよ。

「なにも、しないならいいよ」
「は」
「できるかな?範太に」

そう言ってくすくすとなまえが笑った。どこか大人みてーな色気を出すなまえに思わず固まった。
試すような言葉も、にやりと歪んだ目も、言った割りにドクドクと早い鼓動も。全部可愛くてこっちの心臓が張り裂けそうだ。

「やります」
「ふふ、それはどっちの意味なの?」

俺もどっちのこと言ってんのかわかんなくなったけど、ひとまず用意された据え膳は食べたいと思います。ハイ。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -