止まってくれ!爆豪くん!



「あれ爆豪……?来てたんだ」
「あ?……みょうじかよ」

寮の共有スペースにいたら、買い物に行かないかと誘われた。
ちょうど買いたいものがあったので、便乗して近くのショッピングモールに来ることになった。それぞれに欲しいものを探しに散って、私もそれに倣って自分の目的を消化しに向かう。

人混みを歩いていると寮に残ったはずの後ろ姿が見えて、思わず声を上げたらクリーム色の頭がこちらを振り返った。どうやら切島たちに引っ張られて来たものの、早々に爆豪が付き合ってられない、と彼らを撒いたらしい。
せっかく一緒に来れたというのに。切島たちに同情した。

「てめーはなにしに来たんだよ」
「私は丁度色々ストックが切れたから補充しに。今から本屋行くけど来る?」
「あ?なんで俺がお前と……」

歩みを止めない私と爆豪は文句を言いながらも同じ方向に向かう。ほんと素直じゃないな、と呆れるが爆豪だからしょうがない。諦めて本屋に向かっていたらふと子供特有の高い声が聞こえてきた。

「おかーさん!」
「こら、走るんじゃ……!」

そんな声がしたと思ったら私と爆豪の目の前で子供が転んだ。べしょ、と音がしそうなくらい見事な転びっぷりだった。
ぐすぐす、と鼻を啜ってめそめそし始めた子供に少しだけぎょっとする。相変わらず子供は苦手だ。
どうしよう、と棒立ちになっていたら、意外なことに爆豪が動いた。

「オイガキ。ちゃんと前見て歩けや」
「うぇえ……いたいぃぃ」
「たりめーだ」

泣く子供をあやす爆豪になんだか意外性を感じた。なぜか爆豪に負けた気分になる。いいんだ……別に……子供に好かれなくても……。本当は少しだけ落ち込んだ。
子供を抱き起こして服に付いた汚れを払う爆豪は、そのまま子供の頭を撫でる。その手に安心したのか、泣き止んだ子供が爆豪に向かって笑うのを見て、ぴり、と心臓がざわついた。

あ、あれ……この子どこかで……!
嫌な予感がする、と何かが背中を駆け抜けたと思ったら脳裏に駆け巡った記憶。さあああ、と引く血の気。しまった、この子供は!!

「ありがと!おにーちゃん!」

ちゅっ、と可愛らしい音がして、幼女がバイバイ、と手を振って人混みに消えた。何から何まであの時と一緒である。普通の人には幼女と高校生の微笑ましいやりとり見えるだろう。
だが私は知っている。この後の展開が全然可愛くなくなるということを!!

この展開なってしまった以上、私がやることはひとつ。爆豪が私を見る前に早急にここを離れることだ!!なぜなら、この子供、以前切島に対しても同じことを行い、とんでもない悲劇を起こした子である。

ここを離れれば幼女の個性に私が巻き込まれることはなくなる。例え爆豪が全く知らない赤の他人にデレデレになるとしてもだ!

――ごめん爆豪、君の尊厳を私は守れなかったよ後で死ぬほど謝る。謝るからこの手を離せ!!こんなに気配を殺したのになんで分かるんだ!相変わらずハイスペックが恐ろしいな!!

「おい、何逃げ、とん、だ……」
「っヒィ!」
「……みょうじ、逃げんな」
「ガッデム!またこの展開!!」

逃げようとする私を本能で感じ取ったのか、ぐい、と爆豪に手を引かれてそのまま指が絡められた。は? と思わず爆豪を見れば直角になりがちな目尻が大人しく下がっている。これはもう手遅れだ、と頭を抱えた。

ご都合主義もいいところすぎやしないか!?一体どうなっている!切島に続いて今度は爆豪だと!?私を殺す気か!!世間的に!
しかもだ!手繋ぐだけであからさまにご機嫌になるなよ!中学生じゃあるまいし!!

くそ、こうなったらまたしても相澤先生に消して貰わなければ……!今いるのはショッピングモール、相澤先生のいる雄英までは電車で約20分。長い……!いや、逆に考えろ。爆豪が勘違いをしてから時間が経っていない今なら早々おかしいことにはなるまい……!
なにはともあれ早急にこの場を離れるべきだ……!

この際繋がれた手は目を瞑ろう。そう、まだダメージは浅い。ぐい、と繋がれた手を引いて歩きだせば爆豪が不思議そうに声を掛けてきた。
いつもの尖り具合など忘れてしまったかのような大人しい声だ。世間一般的には優しそうに聞こえる声でも、私にはとても恐ろしく聞こえる。

「おい、どこいくんだよ」
「相澤先生のとこ。爆豪は切島と上鳴に連絡して先に帰」
「俺といんのに他の男の名前だしとんな」

理不尽!!こんなにも人権とエベレストの如く高い君のプライドに配慮しているというのに!!
ぴたり、と爆豪が足を止めたせいで思わずつんのめりそうになった。こいっつ!と思って振り返れば、まっすぐに私を見つめてくる赤い目が何かを訴えていた。ぎゅ、と繋いだ手に力が込められる。

「いろ」
「いや流石にそれは無」
「ここにいろ」
「君の尊厳のためでもあ」
「いいからいろ」
「……」

ちょ、調子狂う……!!やめてくれ、そんな不安そうな目で見ないでくれ……!
いつもの爆豪はどこに行ったんだよ……!君そういうキャラじゃないじゃん、いつもキレ散らかす系男子じゃん……?どうしてそうなってしまった!?

頭を抱えて唸る私の手を今度は爆豪が引いた。え、と思っている間に壁際に追い詰められる。まずいまずいまずい……!焦っても爆豪はびくともしなくて、とうとう退路も奪われてしまった。今すぐ逃げたい!だれだひゅう若いね!とか言った奴!

「あ、あの……爆豪……」
「なんだ」
「ひっ……!みみみみ耳もとで喋るな……!」
「へェ……弱ェんか、耳」
「や、やめろおおおおお!!」
「うるせえよ、……なまえ」

聞いたことのないような声で爆豪が私の名前を呼んだ。ぞく、と背中が粟立って思わず肩が跳ねた。にやり、と笑いながら見下ろしてくる爆豪が、そっと私の頬に触れた。

「ひっ!人のいないところがいいな!!うん!そう!部屋とか!!」
「あ?なんでだよ」
「あーっと、えーと、恥ずかしいから!そう恥ずかしいから!!」

自棄である。分かっている。場当たり的な対応であることは重々承知だが、公衆の面前であれやこれやされるよりはマシだ。

「部屋ならいいんだな」
「あ、いや、その……」
「あ?俺ァ別にここでも――」
「部屋でお願いします!」

なんで私が頼む側になっているんだ!理解しがたい!!




「相澤先生!いますか!?」

職員室に駆け込めば教師陣に、またみょうじか……みたいな顔をされた。ひどく心外である。私だって好きでこうなってるわけじゃない。というか相澤先生の姿が見えないんですけどまたご都合主義ですか!!

「ああ、みょうじさん。どうしたんですか?」
「13号先生!!相澤先生は!?」
「先輩は今日はエリちゃんと買い物に出掛けてるよ」
「ぐ……っ!き、緊急事態なんですけど……!!請求書の送付先間違えたくらいの激ヤバ案件なんですけど!」
「やけにリアルだね……?まあ、先輩が見たら怒ると思うから職員室でイチャつかない方が……」
「どこがいちゃついてますか!不可抗力の産物です!」

だめだ、13号先生の気遣いが心を抉ってくる……!相澤先生もミッドナイト先生も不在。
職員室をぐるりと見渡す。目当ての人物を見つけて、速足でその机に向かう。現状で状況を打破できる人物はこの人しかいない!

「オールマイト先生!!」
「な、なんだねみょうじ少女……いつの間にか君たちそんな仲に……青春だねえ」
「爆豪殴って気絶させてください!」
「ええ!?みょうじ少女それはよくない!DVじゃないか!爆豪少年と話し合ったのかい?ちゃんと!」
「うるせえオールマイトァ!!俺らはこれから」
「黙れ爆豪ぉぉああ!!相澤先生のアポ取りたいんですけどちらに連絡すればいいですか!?何時ごろ戻られますか!?差支えなければ連絡先伺えませんか!?」
「営業マンみたいだね……?」





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