劇薬を孕んだ指先で
突然だが、俺には可愛い彼女がいる。
可憐で、清楚で、慎ましやかで、もはや聖母マリアのような俺の彼女。名前をみょうじなまえという。隣のクラスのなまえは1年のときの球技大会で俺に一目惚れをしたらしい。そして奇しくも同じタイミングで俺もなまえに一目惚れをした。
その後互いに告白をして付き合い始めたのが数か月前。未だ俺の反応ひとつで初々しく照れるなまえが可愛くてしょうがない。
さらに最高なことに、なまえは健気に俺に尽くしてくれる。お弁当を作ってくれたり、自分の部活が終わっても俺のことを待っててくれたり。もちろん、俺も貰った分の愛、いやそれ以上をなまえに返しているつもりだ。
加えて、光栄なことに俺はなまえの初の彼氏だという。何もかも初めて、というなまえのペースに合わせてゆっくりと進んできて、先日ようやく行きつくところまで行きついた。もう最高に幸せだ。
そうやって遅すぎず焦りすぎず、いい具合にバランスを取って進んできた。はずだった。
しかし、最近どうにもそのバランスが崩れまくっている気がする。主に俺のせいだけど。
「あ、あの……京治君……」
「なになまえ?ほら、早く。恥ずかしがるなまえも俺は好きだけど、お昼休み終わっちゃうよ?」
「う……いや、その……じ、自分で食べれるっていうか……」
視線を彷徨わせるなまえの柔らかい頬は真っ赤になっていて、大きな瞳にはうっすらと水の膜が張っている。
恥ずかしくて涙目とかもう本当俺をどうしたいの。心臓が痛んだけどどうしたらわからない。好きすぎてみょうじなまえがわからない。
そんな俺の荒れ狂う内心をなまえが知るわけもなく、いやいやと小さく首を振っている。最高か。
先日そういうところまで行きついたせいか、俺は自分の欲望にストップが掛けられていない。
自覚はある。反省もしている。でも止められない。男とはそういう生き物である。
「はい、あーん」
「あう……」
そもそもどうしてこんなに俺にとって楽しい展開なのか。話は少しだけ戻る。
お昼休み。今日は貴重ななまえとお昼ごはんを食べれる日だ。
屋上でなまえの手作り弁当に舌鼓を打って多幸感に包まれていたら、なまえが意気揚々とキャラメルを取り出した。おすそ分け、と掌に転がされたキャラメルにはミルク味と書かれている。
なんでも最近話題のとろける生キャラメルで、口の中に入れた瞬間に溶ける食感をなまえは大層気に入っているらしい。キャラメルを口に入れたなまえがにこにこしながら、すぐ溶けちゃうんだよ、と教えてくれた。
ほう。そんなに溶けやすいんだ、と無邪気ななまえの表情を見て俺の悪戯心に火が付いた。ミルク味って言われたらもう。
「……ね、なまえ、口開けてどれくらい溶けたか見せて?」
「んえ!?え、え?」
「だめ?」
ちょっと眉を下げれば、なまえは視線を彷徨わせながら俺を見上げた。なまえは俺のこの顔に弱い。予想通り、もう一押しすればなまえは恐る恐る小さな口を開けた。
キャラメルはもう溶け切っていて、口の中に残ったミルクの白がなまえの赤い舌をより際立たせている。これはアレだ、完全にそういう行為後のヤツ。
やましい妄想が脳裏と下半身を駆け巡ったらもう駄目だった。もっと見たい。できれば俺が手ずから食べさせたい。
結果、キャラメルを食べさせたい俺となまえの攻防がいまだ続いている。なまえの可愛いところは、無駄だって分かってるのに抵抗するところだ。嗜虐心が煽られて正直どうにかなりそう。
「ほら、ね?なまえ、あーん」
「ぅぅぅ……!」
赤い顔で葛藤していたなまえが観念して口を開けた。なんて従順で可愛いんだろうか。
なまえの小さな口に指ごとキャラメルを突っ込めば、なまえは驚いたように目を見開いた。目を白黒させるなまえの舌の上にキャラメルを置く。そのまま指で蠢く舌や歯列をなぞったり、上あごを擦ってあげる。なまえの瞳が徐々にとろんと蕩けたはじめた。
その顔は反則すぎる。1週間はお世話になれる。
そのまま舐めてと言えば、なまえの舌が俺の指をなぞった。従順すぎて大丈夫だろうか、この子。ざらついた舌が俺の指を舐めたり、甘く噛んできたりするから、俺から始めたくせになんだかいつの間にか俺の方が夢中になっていた。
「ん、ふ……ぅ」
「そう、指も、ゆっくりなぞって……いい子」
「〜〜〜っ、ぁ、」
「上手だねなまえ。好きだよ」
なまえの拙い舌遣いと小さく漏れる声のせいでどうにかなりそうだった。まずいな、このままだと止まらなくなる自信がある。そう思ってなまえの口から指を抜いて解放してやる。今まで翻弄されていたなまえが、僅かに息を乱して俺を見上げていた。
「け、京治くん……!いきなり……!」
「ごめんなまえ、つい我慢できなくて」
「が、我慢っていうか、あの……ねえ……なんでそんな無表情なの……?」
言えない。なまえのこの舌遣いを夜まで覚えておくのに必死だから、なんて言えるわけがない。
夜になるまで俺は、絶対に、この感触を忘れてはいけないのだ。せっかくなまえの舌遣いを直で感じることができたんだ。これをリトル赤葦の着火剤にしなくて俺は許せるのか?いいや許せない。なにしろなまえが実際に咥えてくれるかどうかも分からないのだ。
ただこれをなまえに言えば、年単位で持ち越される可能性だってある。俺だって最愛の彼女に「ふーん、京治くん最低だね」なんて言われたくない。あっ……でもドSななまえももしかしたらいいかもしれない。いや落ち着け俺。今はそうじゃない。この妄想は今日の夜まで大事にとっておけ。
落ち着くんだ、赤葦京治。誤魔化すしかない。
俺の脳内では今日の夜、なまえがどろっどろのぐっちょんぐっちょんの汁まみれ(R18)にされることは確定しているんだ。ここを乗り切ればいいんだ。
大丈夫、俺ならできる。この場をなんとなく流しつつなまえの舌遣いを夜まで記憶しろ。俺ならできる!できるまでやればできる!
「お、怒った……?」
「怒ってないよ、ごめんね。なまえ」
よかった、と胸を撫で下ろしたなまえが、何事もなかったかのようにいそいそと広げた弁当箱を仕舞い始めた。明らかに挙動不審だし、耳まで真っ赤なので全然何事もなかったようには見えなかった。本当、いちいちツボに来るな、と思いながらなまえを呼ぶと、びくんと肩を震わせたなまえが俺を見た。かわいいな、本当。
「なまえ、今日のコレ、忘れちゃだめだよ」
ちらり、と俺の舌を出せばなまえは顔をさらに真っ赤にした。なまえのその反応に、カウンターを食らったのは俺の方だ。
さては言葉の真意を分かっているな?過剰な反応に、この照れ具合。どう考えても俺がさせたことを理解しているらしい。
「〜〜〜〜っ!な、は、!?!?」
「楽しみにしてるね」
「京治くん!!」
「ふふふ」
揶揄わないで!と怒ったなまえに謝る。ごめんね、の代わりに唇に熱を落とせばなまえが大人しくなる。ほんと、可愛いな、とたまらず抱きしめた。
さて、いつこの頑張ってもらおうかな、と頭の中でスケジュールを組み立てた。