そわそわ。ちらちら。

「…………ねえ及川」
「! なーになまえちゃん!」
「流石にウザいんだけど……」
「ハッキリ言うね!?」
「つーかアピールが過ぎるわ」

ぱあっ、と及川の笑顔が炸裂したと同時にそう言うとゲーン、と及川がショックを受けたようにのけぞった。いやいやオーバーリアクションでしょ。その及川の横をお風呂上がりの花巻が頭を拭きながら通り過ぎた。

「祝ってくれってこれみよがしだもんなあ」
「存在がうるせえよクソ及川」
「ひっ、ひどくない!?」

続くように松川と岩泉がそう言えば、さらにショックを受けたみたいで意義あり、と抗議してきた。
ソファに座りながらぐしぐしと岩泉の髪をタオルで拭いていると、どかりと隣に及川が座る。そのまま腰に抱き着かれた。ねえ、ちょっと暑いんだけど。

「で? 及川は何してほしいの?」
「え〜〜悩んじゃうな〜」

ぐりぐりとお腹に頭を押し付けられる。ちょっと、今岩泉の髪乾かしてるんだけど、と言えば分かりやすく及川が拗ねる。まあ言うだけ言ってみなさいよ、と松川が話に乗ってあげた。優しいね松川。

「え〜、まず美味しいご飯とー、牛乳パンとー、おしゃれな眼鏡とー、リボン巻きつけたなまえちゃんとー」

そう指折り数え始めた及川に皆の顔がどんどん白けていく。全然気づかない及川は欲しいものをどんどん羅列していく。対照的だ。ホントこういう時の及川は強欲だなと呆れる。
花巻もお風呂上がりのビールを飲む松川も呆れ顔だ。岩泉は怖くて見れない。

「まーた始まった」
「リボン巻きつけて私がプレゼント?はあ?なに言ってんの?」
「まあ言うだけで叶えるなんて言ってないしね」
「えっ!?祝ってくんないの!?岩ちゃんの誕生日からずっと楽しみにしてたのに!?」
「そんな願い聞くわけねーだろクソ及川!度が過ぎるわ!」

ぎゃん、と岩泉が吠えた。案の定及川が騒ぎ始める。もういつもの光景だ。めんどくさそうな花巻と松川はスマホをいじり始めた。もはやまともに聞く姿勢すらない。私のスマホもぴこん、と鳴った。

「去年と同じ顔面パイでいーんじゃね?」
「今年もそうすっか」
「ちょっとマッキー、まっつん!それ絶対ヤメテ!」




7月20日。俺の誕生日が来た。
それだというのに俺はなまえちゃんにちょっとめんどくさいお使いを頼まれてしまった。途中大学の友達からチャリを借りて予定よりも早く済ませられたとはいえ、なんでよりによって今日なの。俺誕生日なんだからちょっとぐらいちやほやしてもばち当たんなくない?

「ただいま〜、あれもう皆帰ってきてんの」

玄関のドアを開けると見慣れた靴が人数分。珍しく俺以外の全員が揃ってるみたいだ。これはもしや。
なまえちゃんからの有無を言わせないお願いと揃った靴にピンと来て静かにリビングを覗き込む。わくわく。

「花巻、横着すんな。ちゃんと椅子使えよ」
「へいへい、ここら辺でいいかァ?」
「岩泉の方ちょい斜めってる、あー、そう、それくらい」
「ねえ、誰かピン刺すの手伝ってー、間に合わない」
「つまみ食いありか?」
「無しにきまってるでしょ岩泉、及川帰ってくるまで待ってて、って言ったそばから花巻!」
「ん、うま! 流石なまえ」
「もー、まあいいや。味どう?薄くない?」
「大丈夫だろ、ちゃんと美味いよ」

わいわい4人で何かを準備している。何かなんて分かりきってる。俺の誕生日パーティーだ。
おまえら……!と思いながら準備する4人を見ていたら、まっつんがちら、とこっちを見た。相変わらず鋭い。バレた気がする。

「そろそろ帰ってくる頃だろ? MINEしてみんね」

そう言いながらまっつんがリビングの扉を開けた。ちょ、まっつん急に動かないでよ隠れらんないじゃん!慌ててリビングの扉から離れようと思ったけど、まっつんの方が早かった。

「覗きはよくないんじゃないですか〜?及川くん」
「痛いよまっつん……」

結局逃げられなくて、ガッ、とまっつんに肩を組まれた。うぅ、なにも知らずにみんなから祝福される及川さんの計画がこんなにもあっさり阻止されるなんて。まあなまえちゃんに見つかるよりは全然いいんだけど。

あんな楽しそうに準備してるのにサプライズ失敗させるのごめんねって感じだし。俺の誕生日に俺が気遣うのなんか変だけど。なまえちゃんなら許せる。全然オッケー。

「なまえちゃん、やっぱり手料理振る舞ってくれたんだね……及川さん泣きそう」
「まあなんだかんだなまえ俺らのこと好きだしなあ」

まっつんがそう言ってリビングを見る。俺には絶対向けない優しい目をしている。わかる、なんていうか言葉になんないよね。好きが溢れるってこういうこと言うんだよね、うんうんと頷く。

「まあ、もう準備も出来たし、普通に入れよ」
「うん……、そうするよ。ありがと、まっつん―――みんなただい、ま!?」

及川さん感動の帰宅だよ、と勢いよくリビングに入る。
視界に入って来たのは、「ハンガーおめでとう」と書かれたボードと、スマホを構えたマッキーと、クラッカーを構えたなまえちゃんと、不穏な物を持って仁王立ちする岩ちゃん。

そして、何故か俺はまっつんに羽交い締めにされている。

は!?ちょ、待って待って待って!!嫌な予感しかしないんだけど!まっつん力強くね!?
つーか岩ちゃんの手にあるのあれじゃん!去年と!一緒!

「いけ岩泉!君に決めた!」
「ちょ、まああああへぶあ!」

なまえちゃんの号令と共に岩ちゃんの手によってパイが俺の顔面に叩きつけられた。まっつんに羽交い締めにされてるから逃げることも出来ない。

最悪だ。なんて誕生日だ。
クリームまみれになった俺をまっつんが解放した。くそ、しゃがんでやればよかった……!打ちひしがれて床に四つん這いになる俺の背中をみんなが叩く。痛いよ!

「帰ってきたのバレバレなんだよ」
「今年はねえと思ったろ?今年もなんだなあ〜」
「ま、そんなわけでドンマイ及川」
「祝う気ないよね!?ていうかなにこの仕打ち!」
「ふふ、ねえ及川」

いつの間にか俺の前にしゃがんだなまえちゃんが、俺の顔を覗き込みながらにこにこと笑っている。なんていうか、幸せそうだ。余りにも笑顔で、べたべたする髪も、クリームまみれの顔もどうでもよくなった。

「誕生日、おめでとう!」

なまえちゃんのその声と同時にクラッカーが鳴って、俺はようやくみんなからお祝いをされた。俺があの日言ったお願いはなんだかんだ叶えられていた。
なまえちゃんの手料理、東京では滅多にお目にかかれない牛乳パン、プレゼントの眼鏡。

やっぱりこいつらと一緒にいれて良かったな、と思って感極まって抱き付いたら顔洗えと滅茶苦茶怒られた。酷くない?と思ったけどまあ許そう。及川さん心広いから。

なまえちゃんの作ってくれたご飯とケーキは当然美味くて大満足だったことは言うまでもない。





「ちょ……っ、となんでこんな!」

今日は誕生日だから俺が貰うね、と言った及川に早々に部屋に連れ込まれて、あっという間に服を剥ぎ取られたと思ったらこの格好だ。及川を睨んだけどどこ吹く風で、余裕そうなとこがさらにむかつく。

「言ったでしょ?プレゼントはなまえちゃんがいいって」
「だから、って……!ちょ、ほどいてよこのリボン!」
「えー?いいの?ほどいたら全部見えちゃうよ?なまえちゃんの恥ずかしいと・こ・ろ。裸にリボンだなんてやらしい」

及川がやったんでしょ!と言えば誕生日だし、と返ってくる。こいつ誕生日だからって何やっても許されると思うなよ、と睨んだ。全然効かない。

それどころか、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら及川が覆いかぶさって来た。手首も足も全部縛られて身動き取れなくて、必死に抵抗したけど、それもあっさり封じ込まれる。

「それにパイ投げなんて、ありがたーいプレゼントも貰ったし?ちゃんとお返ししないとなあ、って」
「〜〜〜っあれは!私じゃなくて花巻と松川の……んぅっ……ふ、ぁっ」

くちゅくちゅと舌を絡められるキスが降ってきて、頭の中がぼーっとしてくる。ふにゃ、と力が抜けて完全にベッドに縫い付けられた。
唇が離れた瞬間に、つう、と体に沿うように腰を撫でられて思わず声が出る。見上げれば、及川の楽しそうな顔が見えた。

「いいからさ、大人しく俺のこと祝ってよ。なまえ」

いつもと変わんないじゃん、という抗議は及川の唇に吸い込まれた。

誕生日だからって甘えないでください!

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