稲高バレー部は強豪やから、週7で練習がある。
稲高吹奏楽部も強豪やから、週7で練習がある。

何が言いたいかって言うと、毎日名前と一緒に学校行けるいうことや。最高か。朝から最推し見れんねんで、いやまあ一緒の家住んどるけど。

「はよ、名前」
「ファ……お、おはよう、治」

リビングに行くと、にこ、と名前が笑って挨拶をしてくれる。ふわわん、と周りに花が見えた。気のせいやない。たぶんほんまに飛んどる。今日も言わせてくれ。

今日も俺の推しがかっっっっわ!!

なんなん朝からその笑顔。どんだけエフェクト掛かけて来とんの。眩しすぎんか?スマホの用意全然出来てへんのやけど??ちょおまってや、今用意するからもっかいええですか??

夏服に身を包んだ名前は爽やかわいいがそのまんま歩いとるようで、眩しくてかなわん。ぎゅううと掴まれたように心臓が苦しなった。俺は死ぬんやろうか。死因、名前が可愛すぎる。アカンな。アカンけど最高やな。

「治、侑まだ起きないし先行こっか」
「せやな、行こか」

朝飯食って、早練のある名前に合わせて支度する。朝練よりも前にいって自主練するという名前。ほんまこういう努力するとこ好きや。めっちゃ好き。

寝汚い片割れは置いていくことにする。名前との2人だけの登校なんて久々や。最高。もう死んでもええ。いや、名前が幸せになるまでは死ねへん。かじりついてでも生きたるわ。




「なんで置いてくんや!!」
「起きんお前が悪いやろ。当たんなや」

部活にギリギリ間に合ったツムが体育館に入るや否や、ギャーギャー騒ぎよる。うるさ。

「せっかくの名前との時間が〜!」
「なんや、お前寝坊したんか。俺がお前やったら絶対に寝坊なんかせんけどな」
「フッフ……銀よ、お前はなんも分かってへんな」

前はそれぞれ推しがおったのに、気づいたらウチのバレー部はほとんどが名前の事を推しとる。やっぱり目の前におるとちゃうよな。わかる。
特に試合に出るようなスタメンはツムが布教したこともあって、全員名前が最推しになっとる。

「分かるか?寝坊すれば名前に何度でも起こしてもらえるんやで」
「ただの迷惑やないか」
「朝から推しに『起きないと遅刻しちゃうよ』って起こされんのやぞ。最高やないか!」
「それは羨ましいわ」

最後まで抵抗しとった銀もいつの間にか推しを替えとった。前は違う子が推しやったんに。俺の布教のお陰や!とうるさいツムに蹴りを入れてやった。名前の魅力はわかるやつだけでええねん。余計なん増やしよって。

なにより、厄介なん目覚めさせたんお前やで。

「なに、今日も名前さんに朝から迷惑かけたの」

ビシッ、とツムが固まった。ぎぎぎ、とゆっくり振り向く。おい、お前それ絶対瞳孔開いとるやろ。

「名前さんが何?侑」
「す、角名……!」

出よったな、名前過激派。

こいつマジで名前の事となると目の色変えよるからほんま怖いねん。
名前に初めて会ってから名前のことを思い出したらしい角名は、いつもダルそうにしとる癖に名前のことになると目の色を変えるようになった。それ以来俺とツムの間では過激派に名前を連ねとる。

俺はお前が遠い世界に行ってしもたみたいで寂しいで、角名。けど、戻れんやろうから戻ってこんでええで。安らかに眠れ。
名前に手は絶対出させんからな、名前の前で猫被んのも大概にせえ。いつものやる気のない顔はどこいってん。
そう思ったら角名がこっちを向いた。しもた逃げ遅れた。

「治、お前なんか失礼なこと考えてない??ていうかお前も双子なんだから起こせよ」

エスパーか!!とんでもない飛び火やないか!




「あ、いたいた、治〜」
「名前やん。どないしてん」
「今日の英語の授業もう終わったよね?ちょっと辞書貸してほしくて……だめ?」

は???可愛すぎか???
いやいやいや首傾げてお願いとか、もうマジでなんなん。そんな可愛く聞かれたらええって言うしかないやろ。

つーか、名前との辞書貸し借りとかどんなイベントやねん。いくら払ったらできるんやそのイベント。そうか、タダか。姉弟やもんな。名前、生まれてきてくれてありがとう。破産せずに済むわ。

ちょお待ってな、とエナメルを漁る。ない。机ん中。ない。ロッカー。あらへん。どこに行ったんや俺の辞書!!!!!

こんなイベント逃したくないのに、名前が「なさそうだねー、別の人に借りよっかな」といいよる。待ってくれ、俺に、俺にチャンスを……!
しっかりしとる名前が忘れモンなんてほぼないんやぞ……!これが最初で最後かもしれんのに……!

「名前さん、良ければ俺の使いませんか?」
「黙っとれ過激派」
「え、いいの?角名くん、大丈夫?(推しが優しい……!!)」
「もちろんです。次体育ですし、机の上に置いといてもらえれば大丈夫ですよ。もう昼休み終わりそうですし、ね?」
「ウア……ほんとごめん、ありがとう!後で返しに来るね!」

たったっ、と軽やかに去っていく名前。見てみい、周り皆名前に釘付けや。やめろ見んな。
ぽん、と肩を叩かれて振り返ったら、勝ち誇ったような顔をした角名がおった。
は?殴ったろかこいつ。大丈夫、治頑張ってるよやないわ。

「ああ、治の辞書だけど侑が持ってったよ」

アイツマジでシバく。



先生になんや押し付けられた角名を置いて教室に戻ると、角名の机の上に辞書が置いてあった。ええなあ、本当やったら俺が名前に貸してやったのに、あのアホツムめ……!

角名の机の近くに行くと辞書の他にもなんやメモとお菓子が置いてあった。まさか。ぴら、とメモを開く。

『角名くんへ

辞書貸してくれてありがとう!とても助かりました。
お礼にお気に入りのビズコあげます。部活頑張ってね。

宮名前』

なんや!!この!!可愛らしいメモは!!!
あかん、思わず握りしめそうになったわ。落ち着け、俺、世界に唯一やぞ、このメモは……。そう思ってもう一度開く。眩しすぎて直視できん。目を覆ってしまうわこんなん。

まずな、字が、もう字が可愛すぎるわ。なんやのこのトメハネきっちりされとるのに流れるように書かれとる文字は。名前はいつから学校のセンセなったんや??部活で疲れてるのもわかるけどちゃんとしなさい。治くん、後で職員室来なさい。はいもういつでも行けます。

それから、この後輩にもきちんと敬語使いよ(中略)

最後や。部活頑張ってね???部活頑張ってね!?!?!?!?
そんなこと言われたら頑張るに決まっとるやん!?!?!?
え、最推しが応援してくれてる???待てや、ちょ、待てや!夢……夢と違うか……?

いやいやいや良く見ろや宮治……。もう10回くらい開いとるけどもっかい開くんや。

は〜〜〜〜〜〜最高や。

これは家宝モンやな。
角名帰ってこんうちにこれは俺がきちんとしかるべき処理をせんとな。しれっとポッケにメモを入れた。角名にはもったいないわ。

「おい、今何仕舞った、治」
「!?!?す、角名か……なんもないわ。なんもしてへん」
「目の泳ぎ方が侑と一緒だけど。マジでDNA仕事しろ。ねえ、な に 隠 し た の」
「ナンモアラヘン」
「メモ」

みとったんかい!!!!!言えや最初から!!!

「名前さんからのメモだよな?」
「…………」
「沈黙は肯定と見なす」

パン、掌に打ち付けられた拳。めっちゃええ音するやん。
怖すぎて夢出てきそうや。


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