帰ってきたら名前が稲高の制服を着て、ツムにぎゅうぎゅうに抱き締められとった。やめろや、潰れるやろ。
名前に夢中になっとるツムの頭をどつけば奇声を上げながら転がる。なんやねん。
その後はキモいくらい名前をガン見して目をうろうろさせとる。お前ホンマなんやねん。
アホなツムは名前を再三無視しよって機嫌を損ねたらしい。名前は俺の服を軽く掴んで俺を盾にして隠れた。ちょ、ちょお待ってや。なんそれ、めちゃくちゃかわいいことするやん?? ンン"ッ、って変な声でてしもた。
名前はむすーっとした顔でツムを睨んでいる。本人的には抗議しとると思うんやけど、名前より身長の高い俺らからしたら子猫が毛逆立ててるみたいなモンや。
ぜんっっっぜん怖くないやん??むしろかわいいやん??
上目遣いで睨んでくるとかもう俺の最推しホンマ可愛すぎんか??
「侑シカトするからもう近寄らない」
「ごめん!ごめんて、姉ちゃ……?名前……?名前さん……?」
「どうしたの侑大丈夫??」
様子のおかしい片割れに、なんとなく察した。
むかつくのでもう1回シバいといた。
名前の新しい制服を拝んで、飯食って、電気消して寝るか、と布団に入って。その間中ツムが、ず―――っとブツブツなんか言うとる。良く聞けば、俺の最推し最高、は?可愛すぎん?、オギャリてえ、と欲望垂れこぼしよる。うっっっさいねん!!
シカトブッこいて寝ようと思ったけど、俺も正直語れる相手が欲しかったというか。長年の溜まりにたまった感動を分かち合うんは、大事やろ。
「ドルスタ」
ぽつ、と呟いた言葉に二段ベッドの上からガタガタガタとえらい音がしよった。やっぱり。ようやく思い出しよったかこいつ。愛が足りないんじゃ愛が。名前への。俺を見習え。
「………………サム、おまえ、まさか……!」
「なんやねんその声、キモ」
「殺すぞボケカス!!」
2段ベッドの上から飛び降りてきたツムは寝とる俺の胸ぐらを掴んできよった。やめろやクソ!!
俺が名前を思い出したのは、ツムに後頭部サーブ食らったとき。頭んなかグワーっと音が溢れて、気付いたら名前のことを思い出しとった。
名前がゲームアプリのキャラだったこと、めちゃくちゃはまったこと、課金には手を出せなかったこと(重要)
それ以外のことは大して思い出せん。別にええねん。名前が可愛いのは全部思い出したからええねん。他の思い出なんかいらん。
「おっおまえ!!思い出しとっ……!?いつ……はあ!?」
「うっさいわ!!さっきからブツブツフツブツ!!名前に気付かれたらどうすんねん!!」
「お、おう…せ、せやな……推しに迷惑掛ける訳にいかんしな……」
ホンマ面倒くさいやつやな。こいつ。急に大人しくなったツムにイラッとした。マジで。
まあ、同じ立場のヤツがおって安心した。死んでも言わんけど。名前の可愛さを共有できるんはええな。正直だれかと語りたくてしゃーないわ。
「最推しの身内とか最高やん…俺今までの人生なんやったんやろか」
「愛が足りんねん、お前。最推し公言やめろや」
「ァア!?お前こそ最推し名前やなかったやろが!!あっさり鞍替えしよって!!」
「じゃあかしぃ!!今さら思い出した癖になにデカイ面しとんねん!!」
「侑、治!こんな時間に喧嘩なんかするんやない!ご近所さんに迷惑やろ!!」
喧嘩両成敗、と言わんばかりにオカンに殴られた。しょうがなく寝た。くそ、ツムのせいやぞ。
「おはよ、侑、治。また喧嘩したの?」
「はわわわわ」
こいつキョドりすぎやろ。陰キャか。
朝。起きて居間に行くと、名前がキッチンから顔を出した。今日もきらきら輝いとる。真性のアイドルはやっぱり輝きが違うわ。ホンマ可愛ええ。
部活も引退して、受験も終わった名前は時間があるらしく、早く起きれた日はこうやって弁当を作ってくれる。最高すぎる。
朝からエプロン着けてご飯作ってくれるとかもうやばいやろこんなん。新婚か??新婚なんか?え、無理やんこんなん。しかも昨日の稲高の制服着たからなんか、めっちゃご機嫌やんか。可愛すぎて腹いっぱいや。
「名前、今日の弁当なに?」
「あ、見ちゃだめー。お楽しみなんだから」
フグゥッという声が後ろから聞こえてきた。
可愛すぎん??これは俺もやばい。心臓ギュンギュンしとるけどどうしてくれんねん名前。そんな俺なんか知らん顔で、るんるん鼻歌を歌っとる。ん……?この曲……?
はっ!!!これ、あれやん!!!名前のソロシングルやん!!ソロ!シングルやん!!(2回目)
ご機嫌すぎて自分のデビューシングル歌うとか、もうむっちゃ、名前!(語彙力)
しかも俺は見た。リズム取ってちっちゃく踊っとんの。サビ入る前のそのポーズ好きなんやな??お気に入りなんやな??なんなんそれ、可愛すぎか。
「できたっと、治、楽しみにしててね!」
あ〜〜〜〜〜もう!!!公式が俺を殺しに掛かってきよる!!