昔から姉ちゃんが大好きだった。

俺とサムは双子やからか、好きなもんが被る。バレーもそうや。たぶん大体の好きなもんは一緒やった。そん中でも、バレーと同じくらい好きなもん。それが姉ちゃんやった。

可愛くて、優しくて、キラキラしてて。何をするにも姉ちゃんと一緒がいいと駄々をこねて、どっちが姉ちゃんに一番褒めて貰えるかを競っていた。

そんな姉ちゃんはこの春高校生になる。姉ちゃんは吹部の強い稲荷崎に行くと決めとって、必死で勉強してなんとか合格を掴み取った。むっちゃお祝いした。

俺らもバレーで強い稲荷崎に行きたい思てたから、高校でも一緒になれるなあ、と勝手に妄想する。いや、絶対稲高行くからええねんて。妄想やない。未来予想図や。

そんな姉ちゃんの元にこないだ採寸した制服が届いたらしい。うきうきしながら受け取った姉ちゃんは、それはもう嬉しそうに着てみるね! と言って部屋に入っていった。

あんな可愛いんやから着んでもわかるわ。絶対可愛いに決まっとる。なんせ俺らの姉ちゃんやからな。俺も楽しみや。ちょっとだけ野暮ったい野狐のセーラーやない、私立の制服に、期待が高まった。

そわそわしながらもそんなかっこ悪い姿見せたなくて、部屋でヴァーイをぺらぺらめくる。あかん、頭に入ってこん。パタパタと廊下から足音がして、こんこんと控えめに部屋がノックされた。

「みてみて、侑!新しい制服着てみた!似合う!?」

姉ちゃんが行く稲荷崎の制服に身を包んで、俺の前に出てきた瞬間。頭ん中でカチリ、と何かはまった音がしよった。

は??俺の最推しむっちゃかわいいやん。

あまりの神々しさに思わず覆った顔の下で、悶えながら思った。なんや最推しって。あれ、俺、なんで姉ちゃんのこと。

そのとたんにぶわ、と頭を駆け巡る記憶なのかなんなのか。不思議な感覚に襲われて、侑、と鈴の鳴るような声で呼ばれる頃には全てを理解しとった。

俺の姉ちゃん、俺の最推しやん。

目の前にいる名前、いや、苗字名前は、俺がゲームの中で散々に着せ替えしたり、ガチャしまくって一喜一憂毎日見とった最推しや。

アイドル育成リズムゲー、通称『ドルスタ』は、俺とサムがドハマリしたゲームで、皆でようやった記憶がある。……誰や皆って。そんなことはどうでもええんや、それより名前や。稲高の制服に身を包んだ名前。SSRや。

なんで最推しが俺の前で生きて、え??生きてる??え??動いとる??は??待て待て待て。待て言うとるやろ。待たんかい!!

「侑?どうしたの?……やっぱ、似合わないかな?」
「んなわけあるか!!!!!!すき!!!!!」
「あ、ありがとう…?」

俺が急に声を荒げたせいか、少しびびった姉ちゃん、いや、苗字名前?もうどっちでもええわ。名前が俺を見上げてくる。ただでさえ大きい目をもっと大きくして、ぱちぱち瞬きして、へにゃ、と笑った。

「へへ、嬉しい」

ああああああああかんあかんあかん。
待って待って待って。むっちゃかわいいやんそんなことある??しかも上目遣いって。は???可愛すぎか。キレんぞ??
何度もアプリで見た名前が、おれの最推しが。おれをみあげている。生だ。生の名前や。

なんで、とかどういうことだ、とか、似合うとか色々いうことあんのに、口から出たのは。

「だ、抱き締めてもええ……?」

いやキモすぎやろ自分。
なんやねん抱き締めてええかって。なに許可取っとんの?今まで普通に抱き締めとったやん。え??マジで??俺なんも考えずに名前抱き締めとったん??畏れ多過ぎんか??

ちゃうわ、今はそこやない。いやいやいくら姉弟とはいえ男女やぞ??男と女やろ??そうだろうそうだろう。こんな中3にもなるデカいやつが名前に合法的に抱きつける訳が……。

「? どーぞ?」

辛抱たまらん!!!
本当はガッ!と抱き締めたいけど、そんなことしたら名前が潰れてしまう。なんていう気遣いが出来たら良かった。無理や。どっちかってーと恐れ多い。

俺は触れてもええのか??この天使みたいな最推しに。なんやようわからん感情で胸がいっぱいや。しかもなんなん??そんな手広げて……。笑顔で……。

これあれやん、見たで俺は。期間限定のやつやん。学園祭で制服着るイベントやん…!プロデューサー、似合う?からの、似合わないかな?の流れ。フルコンボや。課金して手に入れたというクラスメートに何度悔し涙を呑んだことか。

そんな!!最推しの!!制服を!!タダで見とんのか俺は!!!

夢にまで見た制服姿の名前や……いや、アイドル衣装の名前も好きやけど。はあ、もう、けしからんな。すき。

恐る恐る名前を抱き締める。やべえ。死んだ。いや、死ねる。思わず真顔になった。途端に、すぐ近くからくすくす可愛く笑う声が聞こえてきた。

「変な侑、いつもならそんな許可とらないのに」

腕の中の名前はめっちゃかわいくてもうマジで部屋から出したくない。ずっと家にいてほしい。こんな可愛い名前外に出してみ??即拉致やん。キモいおっさんの餌食や。そういや姉ちゃん昔から変な奴にむっちゃ声かけられよったな…。

「名前……すき……」
「? 大好きじゃないの?」

なんやと??

「侑いつも、『好きやない、大好きなんや!』って訂正するのに。今日は大好きじゃないの?」

確かに、俺はずっと名前にそう言ってきた。好きじゃ足りん。それは間違いない。大好きなんやって言ってきたけど夢なんにリアリティーやばいな。

夢やったらもう別にええか。
そう思って名前を抱き締める力を強くした。ぎゅうとさらに密着する体に思わず固くなる。

やっっっっわらか!!!!!ごっっっつええ匂いすんねんけどマジで!!!!!

そのまま名前を膝の上に乗っけて存分に触感を楽しむ。擽ったそうに笑う名前マジで天使やん……いやもう女神……。
ろそろ離してくれない?と可愛くお願いする名前に、せやなあ、と返しながらスルーしまくった。ら。

「あ、治、おかえり……!助けて、侑が離してくれな……!」
「何しとんねんこのクソ豚ァ!」
「いっっっってえ!!何すんねんこのクソ豚ァ!」

えらい勢いでサムに頭を殴られた。おいお前殺すぞ!
ていうか、えっ??嘘やん痛い??夢ちゃうんか。パニクる俺を他所に、サムが俺から名前を取り上げよった。くそ、俺の名前が!!

そんな名前は、さっ、とサムの後ろに隠れて俺を睨んできた。えっ……不機嫌そうに睨んでくる姿すら可愛いとかなんなん??何出てきてるん??

思わず膝から崩れ落ちた。心配する姉ちゃんの声が遠くなる。寝かせとけばええねんこんなやつ、と言うたサムは後で殺す。サムに殴られたとこが死ぬほど痛いから、きっと現実なんやろうな。

いやしかし、姉ちゃんがゲームのゲームのキャラで俺の最推しとか、正直どないしたらええねん。


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