今日は部活がお休みだった。さくっと帰ろうとしたけれど、どうしても一緒に帰りたい、と弟たちがかわいいワガママを言うので放課後まで待つことにした。

双子の部活が終わっていざ帰ろうとしたら、治と侑はそれぞれ女の子から声を掛けられた。間違いなく告白だろうな、と思って侑と治を促す。だめだよ、ちゃんと思いを伝えようとしてくれてるんだから、ちゃんと応えなさい。

そう言うと、女の子と弟たちはどこかへ消えて行った。校門で待っててや! と言われたので門番がわりにされた可哀想な角名くんと一緒に待つことになった。

校門までとぼとぼ歩いてると角名くんが名前さん、と私を呼んだ。ウッ推しに名前呼ばれた……!

「角名くん、どうしたの?」
「名前さんはどうして標準語なんです?」
「え〜、なんでだろ」

前世はバリバリの関東人だったからです、とは言えない。
テキトーに誤魔化そう。角名くん鋭そうだし。

「おばあちゃんが関東出身だからかな?私おばあちゃんっ子だったから。角名くんは関東出身?」
「そうです。高校からこっちです」
「え、もしかして越境進学?」
「そんなとこです」
「凄いねえ……!」
「好きなもん目指して来ただけなんで、凄くないですよ」

そう誉めると、角名くんは少しだけ照れ臭そうにして視線を外した。照れる仕草もいちいちかわいくないですか??表情乏しいタイプですけど推しの些細な変化は見逃さない所存。

好きなものかあ、と角名くんの言葉を口の中で転がす。
正直なところ。今の私にはまだ前世の私や、弟たちみたいなハマれるものがない。あの頃と違って普通の学生生活を送れることに満足してしまっているのかもしれない。

レッスンやツアーで学校はなかなか行けなくて、あの頃の私にとって一番遠くて憧れる場所が学校だった。皆で同じ制服着て、放課後駄弁りながら、恋バナをしたりする。そんなありきたりな毎日を送れて、今はとても嬉しい。

「好きなことかぁ……いいね、楽しいよね!」

でも、好きなことを突き詰めるのはそれ以上に楽しかったな、と思う。苦しくもあったし、ぶつかったことも泣いた夜も沢山あったけど、みんなでひとつの目標に向かっていくのは、やりがいがあった。

少しずつ消えていく前世の記憶が怖くて、時々ノートを見返しては思い出す。忘れちゃいけない記憶。忘れたくない記憶。

最初に記憶を取り戻したとき、アイドルはもういいかな、って思った。けれど誰かを応援したり、助けることはこれからもずっとしていきたいな、って改めて思った。

「名前さんは何かハマってるんですか?」
「うーん、そうだなあ」

ハマってるもの。
前世でアイドルだった頃ほどの情熱はないけど、私にも好きなものはある。ハイキュー!!。弟たち。駅前のカフェのプリン。この間一目惚れしたミュール。誕生日に勝手もらったかわいいお財布。世界はきらきらした好きなもので溢れている。

でも、一番できらきらしていて、好きなのは。

「うちのバレー部かな」

全国制覇に向かうきらきらした眼差しも、真剣さも、だからこそぶつかり合う激しさも。全部が眩しくて、真剣だから、ずっと見ていたい。もしかしたら、前世に重ねているのかもしれない。

「それは、その、双子かいるからですか?」
「ん?  や、双子もだけど……双子以外にもいるでしょ?」

バレーはみんなでやるものじゃない?  というと角名くんはびっくりしたように私を見ていた。や、流石に弟しか見えないほど視野狭くないよ。

「北くんも、アランくんも、もちろん角名くんも、みんなきらきらしてて、かっこいいって思ってるよ」

だって推し、かっこよくないですか??
スパイクとかブロック決まったときの推しの弾ける笑顔やばくないですか?守りたい、この笑顔ってなりません??
なる人は私と握手しよう。

そういう人たちを応援したいなあ、うん、それがいい。

ずっと空いていた進路希望票が埋まりそうだな、と思った。

「名前さん、俺も見ててくれるんすね」
「?  うん、当たり前だよ。全員でチームだもん」

そう言うと角名くんは急にしゃがんでしまった。靴ひもでもほどけたかな。角名くんの顔は見えないけど、なんだか大きな男の子が自分より小さくなっているのは少しだけ可愛らしく感じた。

「今度、応援に来てくれないですか。同郷のよしみで」
「ふふ、同郷ね。いいね、侑と治には内緒でいくね」

私だって治の侑の試合見たいのに、特に練習試合は絶対に来るなと言われる。なんで推しに推しを見る楽しみを奪われなきゃいけないの!

行くと怒るから、と言うとじゃあ怒られないように特別席を用意してくれると言う。特別席?と首を傾げても笑うだけで詳細はを教えてくれないらしい。諦めて角名くんにお任せをすることにした。なかなかに頑固である。

「俺も心配なので、一番安心なところ用意しておきますね」

双子の姉というだけでこの特権階級の扱い。なんか他の弟たちが好きな子とか、ファンに申し訳ないな。なんて思っていたら。

「だから、いい子で見てて下さいね」

そう言って立ち上がって頭を撫でてくる角名くん。優しく頭を撫でられて思わずビシリ、と固まった。

あっあっそういうのだめです。だめです!軽率に!触れないでください!私爆発するよ、ねえ爆発するよ!?
うわ〜〜〜私いま推しに頭撫でられてるよお母さ〜〜〜ん!!

あまりに推しが尊くて、今度は私がしゃがんだ。
やばい、にやける。こんなでれでれな顔見られる訳には。
ていうか何ですかいい子って。なんでそんな気だるげで色気溢れるんですか!

ああああもう、もうなんか、私のこと殺す気だ。角名くんに殺されるなら本望です。いや、烏野戦見るまで死なないけど!!

告白イベントを終えた双子が角名君に噛みつくまであとわずか。



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