俺のクラスには国宝級の可愛い女子がおる。

入学時から学校中の話題をさらった伝説級の女子だ。名前を宮名前という。
宮さんはとてもかわいい。それこそゲームから出てきたんか、と思うくらいに。しかも、漫画みたいな可愛い子にありがちな実は性格悪いとか見栄っ張りとかそんな悪評も出てこん。

むしろ逆やった。圧倒的肯定感。まるで握手会でキモオタに優しくしてくれるアイドルのごとき聖人。実家のような安心感を与えてくれる存在や。
俺のようなモブがこんなことを言っていいのかわからんが、とにかく宮名前は天使、いや女神。この稲高に君臨されたゴッドや。結論、推せる。

そんな宮さんにはセコムみたいな強キャラの弟がおる。それも2人。宮双子という。この全国常連の強豪校である稲高バレー部において、入学して早々にレギュラーの座を獲得した猛者や。しかも腹立たしいことに顔がいい。宮家のDNAどないなっとんねん。優秀か。
しかし、あんな可愛い姉ちゃんおったらそら俺らが守らねば、みたいな感じになるのはしゃーない。うちの姉ちゃんが可愛ければ俺やって……いやないわ。

話が逸れた、でも俺ら3年は知っとる。真のセコムは宮双子ではないことを。

「あ、北くん、おはよ」
「おはようさん。朝練の音体育館まで聞こえとったで」
「ほんと?今どうしてもうまく吹けないところがあって、自主練中なんだ」

宮名前には非公式の旦那がおる、っつーんは3年の中での共通認識や。しかも旦那はミスター完璧と後輩に恐れられとる北である。
成績もええ、人望も厚い、ミスもせん。マジもんの完璧人間や。ターミネーターかっちゅうねん。まあ宮双子ほど俺らは北のこと怖いなんて思てへんけど。

そんなミスター完璧が相手やから宮さんに告白しようとアホはおらん。宮名前と北信介は野生の公式カップル故に絶対不可侵領域。手を出そうもんなら北よりも先に周りの過激派から焼かれる。宮名前同担拒否勢に北が許されとんのは、たぶんこの2人が夫婦かと思うくらい息が合っとるせいや。
稲高名物夫妻と認識されとるのを本人たちはどう思っとんのか知らんけど、互いにすまん思ってそう。


なんでかって、この2人実際には付き合ってへんからな。



「聞こえてたか〜、音外してたからはずい……」
「そうなん。わからんかったわ」

あちゃあ、とばつの悪そうな顔をした宮さんがくしゃと笑った。はい可愛い。え??今効果音聞こえたやんな??シャララ言うたやん。俺聞いたもん。なんなら輝いとるし。は?すき。

それからも夫婦は朗らかな会話を繰り広げている。なにここ平和すぎん?朝から100本動物の赤ちゃんの動画見た気分や。ええもん見してもらったわー、と思っとったら宮さんが、あ、と言って北のとこに向かった。

「北くん北くん。ネクタイ曲がってるよ」

そう言って宮さんが北のネクタイをそっと直して、よし、と頷いた。は??なに?は??俺は今何を見た??

「ありがとうな、気付かんかったわ」
「いえいえ、朝飯前です」

いやいや、は??はああ〜〜〜???
なんなん今の、絶対夫婦やん??今夫婦だったやんか!!つーかなに北もされるがままに直してもらっとんねん。羨ましすぎるやろ!!俺も可愛い彼女にネクタイ曲がっとるよって言われたいわ!!彼女おらんけど!!

「なあ大耳、ほんまあいつら付き合ってへんの??」
「らしいで」

なんなんこいつら??はよ結婚しろや!!





「夫妻〜、任したぞ〜」
「先生、夫妻って……」
「公式みたいなもんやん、ほなよろしく〜」

公式とか軽々しく言うな!!!!公式を汚すことは万死に値するんですが!!!

そんな憤りを隠しながら全員のプリントが揃っているか確認する。最後、茂部くんのプリントも無事回収したし、後は日誌を書けばおしまいだ。

ただでさえ原作にいるはずのない、いや公式ファンブック出てないから双子以外に兄弟いるか知らないけど!とにかくあやふやな私が血縁者として存在していることすら、一部ファンからは刺されてもおかしくないのに!加えて嫁?どんだけ設定盛ったら気が済むの??解釈違いです。

しかもよりによって??北さんの??私ごときが??嫁??オタクたち、ねえ許せる??私には無理。
いや「嫁になりたい〜」とは思ったけどそれはあくまでコミックスを握りしめているときの妄想であって、今は全然違うの。実物で見たらすごいの。えっ(語彙消失)ってなるの。

実際にこの目で見たときの衝撃がお分かりいただけるだろうか??神の如き神々しさ。滲み出る純真な心。極めつけのお婆ちゃんっ子!!これは北信介を祖とする宗教団体が出来てもおかしくない。

いやいやだからね?逆。ほんと、まじで逆。
一生懸命働くから私のところに嫁に来て??苦しいことなんてなにもないふわふわお布団みたいな環境を作るためなら一生労働してもいい。むしろしたい。どうしたらいい??推しに!!合法的に貢ぐにはどうしたらいいんですか!?
やっぱ宗教法人立ち上げるしかないよね?宗教法人なら非課税だし合法的に貢げるし最高では?私天才なのでは?

「名前、こっち終わったで」
「ありがとう、こっちももう終わるよ」

しまった。宗教法人立ち上げのことを考えていたせいで日誌に変なことばっかりメモしてる。流石に教祖の文字はまずい。見られたら私の人権は消失するので何食わぬ顔で消しゴムで擦る。あああ〜、歌とダンスだけじゃなくて演技もちょっと齧っててよかった〜〜!!

「後は今日の感想かぁ、北君、あともうちょっとだし先行ってもいいよ」
「名前も部活あるやろ。俺だけが放り出すわけにいかんわ」

聞きました??皆さん今の言葉聞きました?これ今週の小テスト出るから覚えておいてください皆さん。この責任感の強さ、尋常じゃなくないですか?北さん半端ないって〜。

というか、流石北さんじゃない??この責任感の強さで部をまとめて来たんですね?は??その陰にどれだけの努力をしてきたんですかねえ、ちょっと6時間くらい聞かせていただけますか?はい、幼少の頃から構いませんので。なんでもいいので推しが知りたいんです……公式……お願いします……。

「合法 献金」という文字を消し終わった瞬間、北さんが前の席に座って体を反転させた。覗き込まれた日誌にそれらしい文字はない。ああああぶなかった……!ナイス私!合法的に推しに貢ぐ方法は帰ってから考えるべき案件……!こんなことをしてる場合じゃない。今はとにかく一刻も早く北さんを部活へ送らなければ!

急いで書いちゃうね、と苦笑すれば北さんはまあな、といつもよりも歯切れの悪い言葉を返してきた。北さんにしては珍しい。今日部活なかったとか?いや、治も侑も今日も部活や!と元気よくお弁当を3つ持って出て行ってたから間違いなく部活だ。
どうしてだろう、と首を傾げればふ、と柔らかく北さんの口元が綻んだ。

あまりの神々しさに全私が焼かれた。後光で人は死ぬ。これ北信介に一生貢ぐ会の入信試験出るから。

「ア゜」
「ちょっとはゆっくりでもええよ」
「e」
「名前と過ごすんは、俺も嫌やないからな」


今すぐ!!5000兆円貢がせて!!お願いだから!!




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