「見て〜〜!パンフ手に入れてしもたわ〜〜!」
「むっちゃレアなやつやん!!」
「ええなあ!見してや〜」

朝練が終わって教室で机に突っ伏していたら、きゃいきゃいはしゃぐ女子の高い声が聞こえてきた。うるさいな。そんな高い声ではしゃがないでほしい。こっちは朝から部活と治と侑の喧嘩に巻き込まれて疲れてんだけど。

喧嘩の内容はいつも通り名前さんネタで俺にマウントを取って来ようとした双子が、お互い煽り合って自爆したっていうしょうもないことが原因。本当に馬鹿じゃねえのって思うけど、話題が名前さんならしょうがない。流石俺の最推し。

あ〜〜ほんと可愛いよな、名前さん。一家にひとり名前さん来てくれないかな、マジで。何もしなくていいんだよ、俺の部屋にいてくれれば。癒されてえ〜〜、お帰り倫くんとか言われて〜〜。くそ、双子は毎日それかよ。破滅しろ。

そう、名前さんといえば。そろそろ名前さんの写真もグッズ(手作り)も増えてきたし、まとめてどっかにスペース作んねえといけねえじゃん。俺の最推しをいつでも見れるスペース。最高すぎる。一生棚の前に居たい。

どこにスペース作ろうか、と自分の部屋を思い返していたら、何度目かの高い声が教室に響いた。うるさ、ほんとマジでいい加減に――

「やっば!!名前先輩可愛い!」
「エグイ顔ちっさいやん。隣並びたないわ〜」
「流石やな宮家のDNA。ほんま顔がええわ」
「ねえ」

名前さんがなんだって?




「マジでこれ家に欲しいわ〜、やっぱ手に入らんよな〜」
「写真がのっとる部活だけらしいやん、配られたんは。しかも部に1冊とかやんか、無理やろ」

そんな話がちょうど耳に入ったんは、俺が5個目のおにぎりを食い終わったときやった。隣でメシ食っとったバスケ部の奴らがなんや冊子を覗きながら盛り上がっとった。

ちら、と見れば表紙には稲荷崎高校学校案内の文字。なんや稲高のパンフなんか見てなにがおもろいんやろか。どーでもええわ、と思って6個目のおにぎりに手を伸ばす。次の具はなんやろか。たらこがええな。

「いや、なんかそれ以外でも持っとるやつは持っとるやんか。やっぱどっかにあんねんて、闇のルートが」
「ないわアホ。つーか宮ンズなら持っとるやろ、どーせ」
「せやろな」

銀のホイルをめくる。ああ、これは昆布やろか、見ただけやとわからんな。まあ、食ったらわかるやろ。ほな6個目いただきます。

「名前先輩載っとんのや、持ってない訳ないやろ」
「「なんて?」」

おにぎり、おまえはちょお待っとれ。
ぐりん、とバスケ部の奴らを見ればツムも同じように見とった。なんて??名前が??乗っとんのか?その学校案内に!?そんなん知らんぞ!

「お、お前ら持ってへんの……?こんなみんな騒いどるのに??お前らが??」
「やかましいねん……見せろや……!」
「こっわ!顔こえーわ!!侑サーブんときみたいになっとんで!!」
「治お前もや……侑に弁当のおかず取られたときみたいな顔になっとんで」
「「ええから見せろや!!」」

バスケ部からもぎ取ったパンフを見て、俺とツムは息を呑んだ。開けて1枚目から完璧な名前がおる。稲高の制服を着て、微笑む名前が。ええな、抜群の仕上がりや。

まっっぶし!!あかん、こんなん勝手に網膜焼き付くやんか。なあ、後光差してへんか?頭にわっかすら見えるわ。は?天使。つーか制服似合いすぎてヤバい。まてや、これまだ1ページ目やぞ。この先にどんな楽園が待っとんねん。

震える手で次のページに指を掛ける。隣におるツムはカタカタ震えながらも、ゴクリと喉を鳴らした。ええか、捲るぞ。次のページいくで、ええな?こく、と2人で頷いて次のページをめくった。

は?なんなんこれ?こんなん公式の写真集やないか!あっちもこっちも名前しかおらん!対談?インタビュー??は!?最高か!?知らんぞ俺はなんやねんこれは!!

「はあ!?なんこれ!?いつの間に名前の公式写真集なんか出たんや!!」
「せや!なんやねんこれは!!けしからんな、俺が貰っといたるわ」
「わーーーーやめろ治!俺だって主将からやっと貸してもろたやつやぞ!!手ェはなせや……!」

ギリギリとパンフを離さない俺らからバスケ部の連中が冊子を奪い取った。ダァン!とツムが思い切り机に拳を叩きつける。俺も頭を抱えて天井を仰いだ。

「くそォ!!なんで俺はこんな情報逃しとったんや……!公式イベを見逃すとは、宮侑一生の不覚や!!」
「誰か……!誰か持ってへんのか!!」
「いやむちゃくちゃプレミア付いとるヤツやで。お前らが持ってないなら誰も持ってへんのとちがうか?角名も流石に持ってへんやろ?」

銀も知っとったらしい。言えや。
お前らが珍しいなあ、と言いながらパックジュースを吸って軽く笑った銀が、弁当を抱えた角名に話を振った。

待て。いつもやったら真っ先に食いつく角名がなんでこんな大人しいんや。まさか、こいつ……!1人でなんも言わずにもぐもぐ口を動かしとった角名が、当たり前のような口調で言い放った。

「は?持ってるけど」
「持っとんのかい!!!は!?持っとんのか!?」
「俺が名前さんの公式パンフ持ってないわけないじゃん」
「せやけど!ほんなら言えや!!」
「そんで貸せや。ほらジャンプせえ、どうせお前のことや3冊くらい懐に隠しとんのやろ」

ツムと2人で詰め寄る。銀が正統派カツアゲやな……とかしみじみ言っとったけどそんなん無視や。肝心の角名は涼しい顔をして唐揚げにかぶりついた。おい、真剣に聞けや。

「やだよ。俺だって貸せる用はないし」

はん、と角名が勝者の笑みを浮かべた。
くっっっっっそ!腹立つ!!こいつどんな卑怯な手を使って手に入れたんや!!やっぱ闇のルートか!!闇のルートやんな!?

「見損なったで!!角名!!俺らで交わし合ったあの友情はどこ行ってもうたんや!」
「せや、あの夕日に誓い合った約束を忘れたとは言わせへんぞ」
「いや、してへんやろ」

的確な銀のツッコミやった。角名、お前に足らんのはこのツッコミの精神やで。

「つーかお前、「貸す用は」言うたな??どういうことやねん?ア?」
「貸す用意外に何があんねん。はよ言えや」

詰め寄る俺らにあからさまにめんどくせえな、という顔をしながら角名が3本指を立てた。は??俺とツムの声が重なった。なん?なんやその数字は。

「保存用、鑑賞用、推し棚用」
「さん!?はあ!?さっ、さん、さんさつぅ!?つーか推し棚ってなに!?」
「買占めは巨悪やぞ、さては転売ヤーか!見損なったわ角名」
「は?俺が転売なんかするわけないじゃん」

せやろな。お前みたいな名前の強火担当は稲高中探してもそうおらんぞ。そこに関しては俺はお前のことを信頼しとるわ。
にしてもなんで名前はこの角名の激重感情に気付かんの?目覚ましてや、名前。騙されとるんやって、なあ……。

角名は俺らに黙って名前の公式写真集を集めてほくそ笑むムッツリ変態野郎です。気付いて、頼むわ。
余裕ぶっこく角名にツムがぎゃんと噛みつきよった。

「ほんなら1冊くらい貸せや!」
「絶対やだ」
「なんでやねん!」
「侑は折り曲げそうだし、治はポテチ触った手で触るだろ」
「「せんわ!」」

また俺とツムの声が揃った。最推しの公式写真集をそんな扱いするわけないやろ!!大事にカバー掛けて保管するに決まっとるやろが!!
は?もちろんツムには絶対触らせんぞ。アイツは絶対しれっと自分の本棚に仕舞うに決まっとる。

どこからかまた喧嘩かよ双子〜、という声が聞こえて来よった。喧しい。喧嘩ちゃうわ、これは正当な尋問や。
今後買占めという悲劇を起こさないためにはこういうヤツにガツンと言ってやらなアカンねん。物販戦争に勝てんかったオタクの嫉妬を甘くみたらあかんぞ……!

「とにかくあの公式写真集は俺の部屋の推し棚から絶対出さないか」
「あ、侑、治〜、いたいた」
「名前さん!!」
「反応早すぎやろ角名お前……引くわ……」

ひょこ、と廊下から顔を覗かせた名前に角名が叫んだ。ぱっと表情が変わりよった。銀が心底引きました、とでも言いたげな顔をしてツッコんだけど、肝心の角名はガン無視や。お前ほんま名前の前だけでおりこうさんになんのなんなん?

お食事中お邪魔します〜、周りに言いながら名前が俺らの机に向かってくる。は?俺の最推し律儀すぎん??人間として完成されすぎやろ。神やんか。

「あ、そのパンフ……み、見た……?」

俺らの机に来た名前がバスケ部の机で開かれとるパンフを見て照れたように笑った。は〜〜〜??なんなんその表情可愛ええがすぎんか??もはや意味わからん。

「なんで言うてくれんかった!?俺も欲しい!」
「え、うちにあるよ?サンプルでもらったやつ」

3冊あるから持ってくね、と言った名前は控えめにいうても神やった。は??神対応やん??ア〜〜〜ほんまはちゃんと物販戦争乗り越えるべきなんやろうけど、こんな最推しからの親切心裏切るわけにいかんやろ!しゃあないわ。

0.5秒くらいの間を置いてツムと2人でブンブン首を縦に振ると名前がそっと目元を抑えた。どしたん??

「名前さん」
「角名くん?どうし……」
「今度サインください」
「「ええ加減にせえや」」

させへんぞお前。内心でそう叫びながら角名をどついた。



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