空が青い。あれ、なんで私こんなとこに寝てるんだろう。事務所行って、マネージャーにぐちぐち言われて、ファンから元気貰って。ボイトレとレッスンから解放されて、しんど、って思ってベッドに倒れ込んだのは覚えてる。そう、ベッドに。

「ねえちゃん、だいじょうぶ……?」
「いややぁ……! ねえちゃん、しなんでぇ……!」

空が青い。白い雲がふよふよ流れている。おかしいな、ベッドに寝てたのに、私いつの間に外に出たんだ?
ずきずきと痛む後頭部。なんか濡れてる気がする。もしかして頭ぱっくり割れたとか?はは、めっちゃうける。ジャングルジムで遊ぶとか懐かしい。子供か。

なんてのんきに考えている私の視界に、見慣れない同じ顔。誰だろうか。ねえちゃんって言ってるけど、この子たちどこのお宅の子ですかね。知ってるような、知らないような。

ぼろぼろ泣くこの子たちにひとまず大丈夫、と伝えよう。ていうか、社会人にもなってこんな子供に心配されるとか。うける。とうとうおかしくなったか私。なったよね。夢でしょこんなの。
この子供が宮双子に見えるとか。

ああ、夢だな。そう思った直後、視界はブラックアウトした。

それにしても、人生最期に最推しの幼少期拝めるなんて最後の徳使い果たしたな、これ。きっと来世はカメムシからやり直しだろう。さようなら我が人生。悔いは……いっぱいあるなあ。せめて宮ツインズの烏野戦を見届、けた、か、った……。





なんて。思っていたころもありました。
前世、アイドル苗字名前改め、今世なんと宮名前です。はいそこの岩ちゃん語呂悪いとかいわなーい。岩ちゃんいないけど。

説明しよう。前世ハイキュー拗らせオタクの私は気づいたら、宮ツインズの姉としてハイキュー界に爆誕していたのである。意味わかんないよね。私にもわからない。

きっかけは、ちょっとした事故だった。
やんちゃな宮姉はジャングルジムで1つ下の宮双子と遊んでいたところ、双子のちょっかいによってバランスを崩され頭から落下。

頭を強く打った俺は、気が付いたら体が小さくなってしまっていた……!?はい違うアニメです。
まあ、とにかく痛みの代償として私は前世の記憶を取り戻したというのが一連の流れである。記憶は無事融合した。3日間高熱で意識朦朧としたけど。

しかも、転生先はまさかの宮姉ポジションである。もはや出がらしのような設定だ。なんのとはあえて言うまでもない。なんでよりによって最推しの身内。私は恐れ多くて遠くから見てるタイプだと言うのに……!

得てしまった記憶はしょうがないので、これからの話をしようと思う。良くも悪くも切り替えは早い方だと自覚している。
よくある転生モノとして、原作に全く描かれない存在として存在してしまった私のポイントはひとつしかない。
前世のことを言うか言わないか、である。秒で決めた。言わないに決まっている。この年齢で精神病院送りは嫌だ。議論終了。

モブポジならまだしも、身内ポジについた時点で原作と関わりを避けることは不可能。そもそも私に陰鬱とした、言おっかなー、やめよっかなー、ホントの家族とはなんぞや、原作介入で未来が〜、みたいなドシリアスの展開など到底無理である。図太くなければアイドルなどやっていられない。

嫌われるという選択肢もあるが……推しに、視界に入んなクソ豚と言われたら立ち直れる気がしないので、程よい距離で合法的に推しを応援しようと思う。付かず離れず、普通の姉弟の距離がベストだ。邪魔なんだけど、と言い合えるくらいでいい。嫌われるのは……ちょっと……。難儀なオタクである。知っとる知っとる。

というわけで。私は積極的に原作に関わらずいち姉ポジとしてこの宮双子の将来を温かく見守ろうではないか。
なにより、合法的に推しを愛でられるのだ。この最高の人生特典で私はこの先のどんな人生だって生きていける!
ありがとうかみさま。ありがとう。

神に祈りを捧げていると、ねえねえ、と腕を引かれる。なに、と隣に座る治を見る。このころからなんとなく左右が決まってるんですね??やっぱり双子は双子ですね!?

「ねーちゃん、ねーちゃん、おれとプリンたべよう?」
「おさむ! じゃますんなや! ねえちゃんはおれとたべあいっこすんねん!」

たべあいっこ……タベアイッコ……(リフレイン)
…………うん、するぅ。

「あつむ、ひとくちちょーだい?」
「ん! どうや、うまいやろ?」

にか、と笑う侑にうんと頷くと嬉しそうに抱き着いてきた。エッなにこのいきもの。かわいすぎる。余りに眩しくて顔を押さえると、反対側からぶすくれたオーラが漂ってきた。

「おさむもくれるの?」
「! おれもねえちゃんにあーんする!」

そう言ってプリンを与えてくるスプーンにかぶりつく。おいしい? と聞いてくる治。はいとてもおいしいです。なんか英構文みたいになった。頼む仕事してくれ表情筋。

表情筋が仕事放棄している間に、私を挟んで睨みあう治と侑。このまま何もしないと2人はいつもの喧嘩コースである。ただでさえよくしゃべる2人は喧嘩になるとより喋る。はっきり言う。うるさい。けど和む。推しがかわいい。
でも私は推しには笑ってもらっていたいタイプのオタクなので、ここはお姉ちゃんが一肌脱ごうではありませんか。

「あつむも、おさむもあーんして? おいしい?」
「「あー、ん! めっちゃうまい!」」

でれでれ崩れる2人の表情を見て私の表情も崩れた。うへへ、と幼女らしからぬ笑い声をあげてしまった。うまいうまい言いながらくっつく2人と仲良くプリンを食べる。

少し離れたところで父と母が「うちの子めっちゃ天使」「分かりみが深い」といってすごい勢いで写真撮って来るんですけど。あの、あとで3枚印刷してくれませんか?もちろん保存用、観賞用、布教用で。これ基本なんで。

斯くして、宮名前の数奇な運命が幕を開けたのである。


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