インハイの会場は相変わらず人でごった返しとった。
サムと歩いとったらこそこそ、宮ツインズや、っちゅー声が聞こえてきよる。まあ俺らも昔はアランくんのことじろじろ見たことあるからなんも言えんわ。
そう思いながら歩いとったらドン、と誰かとぶつかった。

前見ろ、と思たけどぶつかってきよったそれが女子の軽さやったから、しもた、と思った。サムにあーあ、っちゅう顔されたから思わずにらんだ。

べしょ、と尻もちをついていたた、と声を出しとるその子に手ェ差し出してやる。ん??この声、なんや聞いた、こ、と……あ!?!?!?

「ご、ごめんなさい、ちゃんと前見とらんで、あ、ヒェ……」
「え、あ?お、おあ?……は?」
「うそやろ……なんで……??は??カワ」

オアアアアアア!?!?上から下まで苗字名前!?なんでおる!?アイエェェナン、ナンデェエエ!?
隣でサムが溶けた音がしよった。いや溶けるわこんなん。は?なんで俺の最推しがおんねん!?なんでや!?マジか!?顔ちっっっっさ!!!可愛すぎん!?!?なんかここだけきらきらしとらん!?しとるやろ!

つーか???俺は最推しにぶつかった挙句こけさせたんか!?!?そのちっこくてかわいいお尻を床に打ち付けさせたんは誰や!!俺や!!!はい!責任は喜んで取ります!!取らせてください!

頭ん中ぐちゃぐちゃになっとった俺は唐突に握られた手の感触に、ヒョ、と変な声出してしもた。やわっっっっっこい!!!なんなん!?女子ってこんな可愛かええん??
ぐい、と引っ張ってあげたらありがと、と笑いかけてくれた。ああ……もうあかん……まぶ、まぶし……。

「け、怪我とかしてへん……!?ご、ごめんな、あの、」
「ミ、宮くん、だよね?ありがと、あの、その、宮、侑くんこそ、そのおおお怪我は……!」
「俺は全然平気です!!」
「選手なのに、ぶつかっちゃってごめんね。ほんとに怪我してない?大丈夫?」
「俺は全然平気です!!」

やばい全然会話出来てへん。俺いつのまにコミュ障になったんや。さっきから同じことしか言うてへんやん。軍隊か。

それよか俺はいつの間に名前のおる世界線紛れ込んでしもたん??いやええねんけど。全然ええねんけど!!
だって最推し生きとんのやぞ?最推しがおってバレー出来たら俺はもう他に何もいらんわ。ありがとうかみさまありがとう。

「あ、えと、侑くん、と治くんだよね。ごめんね、急いでたよね?」
「グヌア……」
「全然急いでません!!むしろゆっくりしよか言うてたとこです!!」

最推しに名前呼ばれたアアアア〜〜〜!!俺今ほど有名でよかったことあらへんわ!!変な声でてもうた俺の頭をサムが偉い勢いではたきよった。いったいわなにすんねん!!

キレる俺を余所にサムが偉いはきはき喋り出しよった。おい、お前がそんなハッキリしよるの、俺はキレたおかんと北さんの前でしか見たことあらへんぞ。急にイイコ面すんなや。ギロ、と睨むと同じように睨み返してきよった。考えとることは一緒かい!!

「ほんと?よかったぁ」

ファ……なん……?めちゃくちゃかわええやん……え……いっぱいしゅき……。

ほ、と胸をなでおろした名前が安心したように笑った。それを見た俺とサムは同じように胸を押さえて崩れおちた。しゃあない。ギリ顔には出てへんはずや。奥歯噛みしめたわ。くそ、なんでこんなかわええん??こんな人類おる??同じ生き物と思えへんぞ!!

「大丈夫?具合悪い?医務室行く?スタッフ呼んでこよか?」
「ヒエ……だいじょうぶやで、うん、だいじょうぶや……ん?」

―――あれ??せや、なんで名前ここにおるん??よくよく見れば着とるのはジャージ、首からは関係者パス。答えなんかひとつしかあらへん。

しかも!!このジャージ、俺!!!知っとる!!!いやなんで稲荷崎やないん!?!?
よりによって!!なぜそこなん!?

「あ、名前!」
「臼利!どこいっとーと?もうそろそろ集合っちゃよ」
「悪い悪い!八さん探しとったら俺が迷った!」

は???ちょ、まって、まって。情報が多くてようわからん。え??なん??

「もう、いつもいっとぉ……。あんまり遠く行ったら心配やけん、私だけやなくてみっちゃんも心配しとうよ?」
「悪か!堪忍しとお、名前」

はあ〜〜〜〜〜〜〜???あかん、もうあかんわこんなん。耐えがたい。どうしたらええねんこんなん(しろめ)

「も〜〜、あ、ごめんね。治くんも侑くんもま」

またね、と続くはずの言葉よりも先に、思わず名前の肩を掴んだ。いや、優しくやで?そんな力いっぱい掴んだりせんけどな??
まだ名前を返すわけにはいかんのや。やって……!!

最推しがこんなかわええ方言喋るなんて!!!俺聞いてへん!!!!!

「もっかい!!」
「もっかい喋ってや!!」
「な、なに……?」

びっくりした顔もかわええ〜〜〜〜!!俺とサムで名前の肩を掴んでお願いすれば名前がおずおずと俺らを見上げてきよった。
アアアアまって想定外の上目遣いめっちゃかわええ〜〜〜〜!!喋ってって、どんなお願いやねんマジで。
でも俺は!!最推しの方言が!!!聞きたい!!

名前は不思議そうな顔をして、貉坂のセッターを振り返った。こっち見て〜〜〜〜!!

「私おかしいこといっとーと?」
「あー、まあ(気持ちはわからんでもない)」
「喋ってって……なに喋ったらいいっちゃ?」
「「ヴァ……」」

九州の方言かっっっっっっわ〜〜〜〜〜〜!!!!バリ好いとーとって言われたい〜〜〜〜!!は〜〜〜〜推し過剰摂取すぎてつらいわ〜〜〜。

つーかなんで貉坂なん?稲荷崎におった方が名前は着実にスターダム登れるやろ!!しかも西日本イチお洒落な街のある神戸有する兵庫やぞ!!

え?待って名前がマネージャー……、え、マジでワンチャンあったってことなん??ますます意味わからん。名前がドリンク作ってくれたりお疲れさまて声掛けてくれんのやろ?それどんな天国??

最高やん今すぐ転校してきてくれんかな、そう思っとったら目の前から名前が消えよった。は??

「うちの大事なマネージャーっちゃ。あんまりジロジロ見んな。……名前、行こ」
「え、あ、臼利!」

そう言って名前の手を引いていった狢坂の奴。
手を引かれた名前はちょっとだけ困った顔をして、振り返って小さく手を振ってくれた。アアアアア〜〜〜最推しからのファンサが過ぎる〜〜〜!!

名前が人混みに消えるまでずっと見送ったあと、俺ら2人の間に沈黙が落ちた。言いたいことはわかるな?サム。

「なあ、サム」
「なんやツム」
「「ゼッテー狢坂ボコる」」

貉坂当たったらブチ倒して名前掻っ攫ったるわ!!!


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