「名前ー、そこにある洗濯もん、洗濯機いれといてやー」
「はーい」

ソファでだらだらテレビを見ていたらお母さんにそう言われて重い腰を上げた。今日派手に喧嘩した双子は自分達の部屋で揃ってふて寝中で、2階から降りてこない。私はひとり寂しくアイドル観賞中だ。

2階からは音が聞こえないけど、きっとゲームしてるか、寝てるか。双子が喧嘩したあと、一緒にゲームが仲直りのサインなのは昔からなのできっと大丈夫なはず。

あの誰か聞いて、いつも思うんだけどね??
……そんな仲直りある??喧嘩したら?ごめんとかなにもなくゲームやったら勝手に仲直り認定とか!

めっっっっっちゃ男子高生〜〜!!すき〜〜〜!!!

ほんと人類タイムラインパトロールしてる場合じゃないからまず弟という名の私の最推したち見よ??世界平和になるよ??私の弟たち可愛いでしょ?知ってる。

それとも男の子はみんなそうやって仲直りするの??違うよね??誰か私に高校生男子の友情について細かく教えて!!友情なの?身内の信頼なの?どっちがすきなの?はい、どっちもすき!!!!

あっ待って??友情でもなくて身内だけでもなくて、双子ならではっていう可能性もあるのでは??双子故の信頼感??普通じゃない連携とかやっても普通やんな?みたいな顔で言うんでしょ??は〜〜〜〜全国こわ〜〜〜!!

いずれにせよお互いの信頼感すごくないですか……!?もう言葉にならないんですけど……!ねえ、どうしたらいい??どこにお金つぎ込んだらいいの??そろそろ合法的に貢がせて貰えません!?

いつも何か買ってあげようとすると止められるのなんで!?お姉ちゃん悲しい……。私だって宮侑税と宮治税の納税義務負いたいのに!

この間のさりげなくお買い物でプレゼントする作戦は何故かバレたしそもそもそんなにお小遣いもないし……!あ〜〜前世だったらシングルの売上全部つぎ込むし握手会だってめちゃくちゃ頑張るのになあ〜〜。

どうやって貢ごうかな、と作戦を立てながら籠を持って洗面所に向かった。必要なものをネットに入れて、残りをぽいぽいと洗濯機に入れていく。あとちょっと、と雑に放り込んで行ったら見慣れた赤いジャージが視界を掠めた。い、いまのいろって。もうひとつ、籠の中に残っているそれを見て動きが止まった。こ、これって……!

「バレー部のジャージ……」

洗濯籠の中に入っていたジャージを持ち上げて目の前で広げるとその大きさがよく分かった。う、うわあ……!ほんもの、本物の稲高バレー部ジャージだ……!

あああああもうこの色見ただけで心臓がぎゅんぎゅんする〜〜!!!北くんも角名くんも双子もこれ着てバレーしてるんだよね!?北くんはバチってなるから肘通さないけど!!選ばれし者だけが着れる稲高ジャージ!!最推しの、ジャージ。


…………着てみたい。


ごくり、と喉が鳴った。
着てみたい。このジャージ。

汗とか匂いとか。どんなに匂ってもいい。もはやそれも含めて価値がある。

なんで今まで気付かなかったの私??もうあれか、見てるだけでお腹いっぱいになってた疑惑。
いや、過去はいいの、名前。問題は、今、これを着ても誰も見ていないということ。悪魔が私に囁いてくる。今ならいけると。


………………ごくり。右よし、左よし。


ほんっっっっとうにごめんなさい!!
名前は己の欲望に負けました!!ごめんなさいごめんなさい!来世はミジンコからやり直しますから!!

「わ、おっきい……!」

ちょっとだけなら!と赤のジャージに袖を通す。裾も丈も思った以上に長くて思わず感想がこぼれ落ちた。袖から手が出なくてお化けみたいにぷらぷらさせた後、ジャージの袖に顔を埋めた。

あ〜〜〜!もういっそこのジャージになりたい〜〜!!
そう悶えていたら、ふわり、と汗の匂いがして思わずでれでれした間抜けな笑みが溢れた。

「ふふ、汗のにおいする」

お世辞にもいい匂いとは言えない汗臭さも、2人の頑張った証拠だと思ったらなんだか愛しくなった。嬉し涙も悔し涙も、みんなこのジャージが吸い取って来てくれたと思ったらなおさら。
努力は全部このジャージが知ってるんだよねえ、そっか、ボールとシューズと、このジャージが一番近くで見てきたんだよね、あの2人頑張りを。

「よく頑張りました。花丸だ」

どっちのジャージか分からないけど、これからも双子のこと一番近くで見ててね。私の推しを今後もどうぞよろしくお願いします!





「はなまるだ」

くすくす、と名前が笑っとる。ぶかぶかの裾と丈。余りまくった肩を包む見慣れた色に思わず固まった。

とろけるようなふわっふわの笑み。オムレツ、いやちゃうな、ケーキや。ふわふわのケーキみたいなやっさしい笑顔。

いやいや!かわいすぎやろなんなん??

つーか、なんで名前がバレー部のジャージ着とるん!?!?え?かっっっっわ!まってかっっっっわ!!

待って。なあ、待って?追い付かん。え、なにがおきとるん??これは夢やろうか。

ツムとのウイイレが終わって、負けてやった偉い俺は名前に褒めて貰おうと居間に向かう。名前は今好きなアイドルが出とるバラエティーに夢中やから少しベタベタしてもなんも言わんはず。ツムには便所と言うたけど嘘ついて抜け出した。

階段を降りればちょうど洗面所からキョロキョロ辺りを見渡す名前がおった。なにしとんのやろ、としばらくこっそり名前を観察しとったらツムがやってきよった。ひとまず騒がないよう黙らせて、2人で名前を見とったらこれや。

名前がジャージに袖通して、目ぇきらっきらさせただけでも心臓痛くてしゃあないのに、止めの笑顔と幸せそうな声。俺とツムは崩れ落ちた。
絶対汗臭いやん。それなのになんであんな幸せそうに笑うん??女神かい。いや、天使?え、俺の姉ちゃんいつから天使になったん?ずっとです。

あかん、心臓痛すぎてやばい。これが噂の尊死か……っ!威力えげつないわこんなん……!

はあはあと息を乱す俺らに気付かず、名前は満足したのかそそくさとジャージを洗濯機に入れて足早に消えた。名前を見送ってツムと同時に洗面所に転がり込む。
どうしても確認せなあかん!!これだけは絶対に負けられん戦いや!!2人で勢いよく洗濯機を覗いた。

「「俺のジャージやろ!!」」

洗濯もんの一番上にあるジャージを2人で取った名前が書いてあるとこはよう見えんけど自信ある。名前が羽織ってたジャージは俺のジャージや!!ツムのやない!!せやから離せやクソツム!!

「俺のやボケ!!手え離せや!!」
「誰が離すかい……!俺のにきまっとるやろ!!」

ギチギチ音を立てそうな勢いで引っ張られとるジャージ。破れるやろが!と言ってもツムは手ぇ離さん。知っとるかツム真に愛しとる方が手ぇ離すんやぞ??まあ俺はお前に持ってかれるくらいなら離さんけどな!!

「なにしとんねん!洗濯機回すんやからさっさと入れてなさい!」

洗面所でそんな攻防を繰り広げとったら、おかんがやって来て俺らに怒鳴った。今邪魔せんといてや……!男には絶対に引いたらあかん戦いがあんねん!!

「いやおかん!!このジャージは洗濯せんでええやつやねん!」
「何言うてんの!そない汗臭いジャージそのまま着るんか!名前に嫌われるで!!」

オカンは何かと名前を引き合いに出して俺らの喧嘩を収めようとしよる。まあ俺らも名前を出されると弱くなるんはしゃあない。
最推しやぞ??嫌われんのは勘弁や。まあ??名前が俺らのこと嫌いになるなんてありえへんけどな??あ、ありえへん、けど?……なあ?

「〜〜〜っそれはあかん!!」
「おかんなんてこと言うん!?サムと違って俺はいつでもフローラルピンクの香りやろ!」
「お前みたいなムサイやつがフローラルとか言うなや!ねえわ!!」
「はあ!?じゃあ治クンはなんの香りなんですか〜〜?どうせソースの香りやろ」
「ソースの香りの何が悪いんですか〜〜?胡散臭いよりマシやろがい」

やんのかコラと互いの胸ぐらを掴んどったら、おかんがピッピッと洗濯機をいじり始めよった。もうおかん無視の方向入ったんやな。
まあええわコイツと話つけな、と思ったら俺らが握っとったジャージをおかんがむしりとって、そのまま洗濯機に突っ込んだ。

「「オアーーーー!?!?!?」」

なん、なんて、なんちゅうことをおかん!!なんで!?!?こんなん鬼畜の所業やぞ!
ツムと2人でおかんに抗議しとったら、ギロ、とおかんに睨まれた。胃がキュッてなって思わず口を閉じて視線をうろうろさせてもうた。おかん俺らよりちっこいのに迫力半端ないねん。

「喧しいわ……!これ以上騒いだら晩御飯抜くで」
「ツムもっかいウイイレすんで」
「俺モンハンがええわ」




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