ガヤガヤと人の声と、楽器の音で溢れるアリーナ。
熱気をそのまま閉じ込めたような体育館は冷房完備とはいえやっぱり熱い。首に掛けたタオルで汗を拭った。

夏のインターハイ。
ここ数年どこかの運動部が出場し続けているおかげで、我が稲荷崎高校吹奏楽部はこの舞台で応援をすることがお決まりの流れになっている。

吹部の地方大会も控えている中での応援はスケジュール的にも体力的にも厳しいけど、それを理由に応援の手を緩めるわけにはいかない。なぜなら。

『稲荷崎高校、尾白アランが決めました!これでマッチポイント!』
『いやー今のは宮侑が上手いことセットしましたねー、宮治を使うかと思ったんですが悟らせませんでした』

私の最推しの晴れ舞台だから!!手加減してる暇なんてまっっったくないよね!!




バレー部は危なげない試合運びで3回戦に駒を進めた。よかった〜〜〜、明日も輝く推し達が見れるよ〜〜!今日のために練習頑張ってよかったほんと!

あの侑のピタ、って音止めるやつ見たときは興奮して危うく音出すかと思った……!ぎ、ぎりぎりセーフ!何度見てもよきです……あ、後でバレー部に映像貰おう……。そう思いながらるんるんと会場を歩く。

試合に勝った弟たちが会いたい、とお願いしてくるので部長と顧問にお願いをして少しだけ時間を貰った。ほんとにちょっとだけど!それでも融通してくれた部長、ありがとう!そう感謝しながら治と侑がいるという場所に向かうと、見覚えのある赤が見えた。

「あっ!治、侑!試合おつか……れ……ファ!?」
「あれェ?稲荷崎ってば、いつの間にマネージャー?すんごい可愛い子じゃ……は?」

待ち合わせ場所にいる赤いジャージを見つけて声を掛けると、誰かと話し中だったみたい。しまった、相手に悪いことしちゃったな、と思ったけど次の瞬間それどころじゃなくなった。

目の前にいたのは紫と白のジャージに、赤い髪。ままままさか!!

「……エッ??……ワオ!!」

ウワアアアアア天童ダアアアア!!本物だあ〜〜!きょろっとしたおめめが可愛い〜〜!

ふ、双子に絡んでたんですか??どっちから先に声かけたんです??明日白鳥沢戦なんですけどまさか今まさに!!明日はよろしく、ぼこぼこにしてやんよ、的な展開だったんですか??ねえなにそれ、たまらない〜〜!!

「え、えと……、その」
「名前、あんな妖怪と目合わせたらあかん。こっちや」
「名前チャン!?」
「ヒャイ」

ぐりん、と向かって来た天童くんに思わず変な返事が出てきた。ああ〜〜この感じ!天童覚!って感じがして最高です〜〜!瀬見くんがちょっと引いちゃうくらいの勢いなのがたまらない〜〜!
歌って〜〜〜!心折って〜〜〜!!
そう思ってたら侑からチッと盛大な舌打ちが聞こえてきた。ラ、ライバル〜〜!

「ホントに名前ちゃんなんだ?」
「は、はい……宮名前です……?ほんとに?って?」
「だってアプ」
「天童、何をしている」

うっ、うっ、うわあああ!今度はウシワカダァァァァァァ!!
天童くんの名前が呼ばれて振り返れば、そこにいたのは牛島くんだった。
ああああやばかっっっっこよ!きりりとした姿まさに牛若丸のごとき凛々しさ〜〜!やばいにやけて変な顔になる!どうしようこんな純度120%の推しに変な顔を晒すわけには!か、顔!顔作るんで一瞬、後ろ向かせてください!

「あ!?若利くん!?ね、見て!名前チャンいるよ!?」
「名前?」
「あっ、若利くんは未プレ「「あああああああああ!!!」」双子うるさっ!!」
「ちょ、ちょい!!こっち来て下さい!」
「あ、あの!……あれ?」

どうやら侑と治は天童くんと牛若くんを引っ張ってどこかに行ってしまったみたいだ。そんな……ていうか、なに言いかけたんだろう天童くん……。
あの?それよりいいですか?ねえ既に仲良しなの??常連校ならではの顔見知りみたいな感じなの!?

え、やっっっば!!全国でしか会えないライバルとか、とっとっどうしようときめきが止まらない!!さ、最高すぎる〜〜!

ていうかなんでお姉ちゃん仲間外れにするの??良くないよ!私も天童くんと牛島くんと内緒話したい!!そう思っていたら、後ろから声がして思わず振り返った。

「牛島さ……、あんた……!」
「ファッ」

あああ〜〜今度は白布くんだあああああ!えっ嘘でしょ美人〜〜〜!!
しかもせ、瀬見くんもいる!私服、ねえ瀬見くんの残念な私服が見たいんですけど!!
どうしよう心臓が、心臓が追い付かない!感情が物理法則を超えて飽和状態なんですけど?ねえどうしたらいいです?

「あ、し、白鳥沢の……」
「俺、白布賢二郎っていいます」
「ヒャイ」

し、知ってます〜〜!!牛島くんのために白鳥沢入った努力の方ですよね〜〜!!ツッキーとバチバチにやりあってた方ですよね!綺麗なお顔の割には口調はちょっと雑で、牛島さん至上主義で、牛島さんにトス上げたくて白鳥沢入学しちゃう一途な方ですよね!? 私貴方の流す涙が忘れられません!!
あああ前髪が素敵だしちょっと生意気そうな綺麗なお顔も、えっと、その、好き〜〜!!

「名前さん、ですよね?宮双子の、お姉さんの」
「お、おい白布……」
「は、はい……、えっと白布、くん」
「はい、名前さん。その、……お会いしたかったです」
「アッハイ」

えええええ!!そんな照れ顔なんて、こま、困ります〜〜!!どうしよう語彙力なくなる〜〜!しかもやだめっちゃ美人じゃないですか、ねえどうしようほんと美人なんだけどどこに振り込めばいい!?

及川くんといい、菅原くんといい潔子さんといい、宮城美人多くないですか!?はっ、これが東北美人……!あああそんな、そんな美人で努力家で、スペック盛り盛りにされても……心臓破裂〜〜!

「明日、俺ら当たりますよね」
「アッハイ……、明日対戦でシュ……です」
「明日、俺らが勝ったら、その後うちを応援してくれませんか?」

い、稲荷崎に勝ったら??白鳥沢を応援するの??いやもう個人的には滅茶苦茶応援させていただきますが!!大丈夫かな!?白鳥沢の人嫌な気持ちにならないかな!?いやそもそもうちが勝ちますけどね!?

いやでも待って、ほら、青城だって白鳥沢だって視聴覚室とかでみんな集まって烏野の春高見守ってたじゃん??なんならちょっと応援してる空気だったよね??

はい合法。勝った相手へのエールと尊敬を込めて応援するのは普通のこと!!なによりじっと見てくる白布くんのお顔があまりにも綺麗すぎてもうハイ喜んで!としか言えない!これはもう推すしかない!!

「もっ、勿論で――うっひゃあ!」
「名前さん」

ぽん、と肩を叩かれてばっと振り返ると、角名くんがにこにこ笑っていた。エッこの推しに推しが重ねられるの辛すぎるんですけどねえどうしたらいいですか!?
あああにやける、原作でもなかったこのツーショットはにやけてしまいます〜〜!生きててよかった〜〜!

「アッ、あれ、角名くん。どしたの?」
「いえ、名前さん。部長さんが探してましたよ」
「え!?ほんと!?ごめんね、ありがとう!あ、えっと、白布くん。また明日ね!」

角名くんの手前、まさか頑張ってとも言えず、しかも部長が呼んでるとあれば行かなければならない……!くっ、本当はもっと推し達がバチバチに火花飛ばすところ見たかったのに……!なんでこんないい時に呼ぶの部長!うえーん、と内心で叫びながらダッシュで吹部の元に戻る。

うっうっ、侑にも治にも、角名くんにすらおめでとうって言えてないよ……!今日絶対電話する……!アッでも試合に集中したいかな??迷惑じゃないかな?ていうかみんなでミーティングとか私の推し達が一堂に会するの??……あの、邪魔しないので私を襖にしてくれませんか??邪魔しないんで!

「部長〜!なんですか!?私まだなにも言えてないのに!」
「え?どしたん名前ちゃん、まだ呼んでへんで?」
「???」


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