「名前ー?行ってもうたん?靴は……あるな。寝坊か?」
「は?……寝坊?名前が?…………起こしてくるわ!!」
「待てやクソツム!」

名前が朝からどこにもおらんかった。いつもなら俺らより早う起きて支度しとるのに、今日は名前の姿が見えん。おかんは昨日からばあちゃんちに泊まっとって、この家にはおれらと名前しかおらん。

家中探しても名前はやっぱりどこにもおらんし、靴も全部あるから外行ったわけでもない。あとはもう名前の部屋しかない。ツムが名前の部屋に突撃しに行きおった。名前の寝起きひとり占めなんかさすかい!!

名前朝やで!とノックもそこそこにツムが名前の部屋に飛び込んだ。俺も飛び込んだ。ら。
部屋の真ん中に天使がおった。は?

「おにいちゃんたち、だあれ……?」
「「ハウッ」」

でっかいくりくりの目。ちっこい頭と身長。折れてしまいそうな手足。きょとんとしとる表情はまさに天使。
俺は知っとる。間違えるはずない。

この子、名前や。

何べんもアルバムで見た名前が部屋におって、思わずツムと崩れ落ちた。舌足らずなんがさらにかわええ。俺の記憶の中の名前はこんっっっっな可愛かったやろか。いや、可愛かったわ。世界の常識やったわ。

全方位にいつでもかわええ名前が、なんで子供になっとんの??意味わからん!でもかわええから許す!!

「わたし名前っていうんだよ!おにいちゃんたちおなじおかおさんだね!」

ぽてぽてとかわええ音がしそうな足取りで寄ってきた名前は呆然とする俺とツムに笑いかけてきよった。は??しかも記憶ないんか??どないやねん。いやマジで。ーーー最高やん!!!

「ハッ!せやで、双子やからな。俺は治や。こっちのボーッとしとるのが木偶の坊が侑やで」
「で……っ!!」
「おさむおにいちゃんとあつむおにいちゃん?」
「「ン"ン"ッ」」

こてん、と首を倒しながら名前が確かめるように俺らの名前を呼んだ。言わせてくれや。

かっっっっっわ!!!いや、高校生の名前はもう完成された可愛さ的なあれで死ぬほどかわええけど、この名前はまた別の意味でかわええ。かわええ!ただでさえかわええのに、こんな……こんなことあってええんか!!神様一生ついてきます!!

「えへへ、おにいちゃんだ〜〜名前ね、ずっとおにいちゃんほしかったの!」

そう言ってぎゅ、と名前が俺とツムの首もとに抱きついてきよった。アッアッこれはあかん、これはあかんやつや。あかんやん!!やわっこい!!ふあふあ!!最高すぎる!!こんなんにやけるわ。いやしかしそれにしても。

「「どないしよ……」」

とりあえず置いていくんはナシやろ。誘拐でもされたらたまらん。珍しく意見の一致した俺とツムは、名前を部活に連れていくことにした。こういうときはあれや、北さんならどうにかしてくれるやろ。





「こんにちは、名前です!」
「説明しろ双子」

ガッ、と角名が双子の顔を掴んだ。おい、角名、お前いつものダルそうな雰囲気どこいったんや。後ろに阿修羅おるやないか。

「ふわあ、みんなきょじんさんだ……!」
「ごめんなあ、名前。びっくりしたやろ?」
「だいじょーぶだよ!おにいちゃんおなまえなんていうの?」
「信介や。北信介いうんよ」
「しんすけおにいちゃん?」
「…………おん、名前は何かしてほしいことないんか?」

信介が堕ちた。流石宮さんや。マジで可愛いが歩いとるやつやん。どないすんのこんなん、収集つかんわ。今日が自主練日でほんまよかったな……。
そう思っとったら宮さんが恥ずかしそうに上目遣いをして俺らを見よった。は?ギャンかわ!!

「えっと、あ、あのね……かたぐるましてほしいの……だめ?」

そない首傾げて言われたらいくらでもやったるわ宮さん!!俺巨人枠やないけど!なんやの!?めっちゃかわええやん!いや元々かわええか!

「名前!俺がやったる!」
「侑お前とはまだ話が終わってないんだけど」
「角名ァァァァ」
「あのね、しんすけおにいちゃん。かたぐるまおねがいなの」

宮さんがきゅ、と信介のズボンを握った。いじらしくてめっちゃかわええな宮さん!そんで喧嘩する双子を放置する案外放任主義なとこあんま変わらんねんな!

「ええよ、しっかり捕まっとき」
「わあ〜〜たかーい!しんすけおにいちゃんすごーい!」

きゃっきゃっとはしゃぐ宮さんとなんやいつもより楽しそうな信介にこっちがほのぼのしてまう。正直双子より北兄妹て言われた方が納得出来るわ。

「何が見えるか俺に教えてくれん?名前」
「いいよー!あのね、ツムにいとサムにいがけんかしてる!」
「……名前、アランと赤木にも遊んでもらい」
「はーい!アランくーん、みちくーん!」

俺かい!子供のあやしかたやんかわからんて!いや宮さんやし、なんとかするわ。推しやしな、一応。角名と双子ほどやないけど。
宮さんが元気よく返事して俺とアランとこ飛んできよって、信介は双子んとこ飛んで行った。信介はあれで宮さんにベタ甘やからな。どうにかするやろ。

案の定、そのまま喧嘩をする双子の襟首掴んでぽい、と体育館から締め出した。信介が実力行使にでるんは珍しいな、とぼんやりしとったら横からあんま聞きたくない声が聞こえてきた。
角名お前いつの間にこっち来たんや。スマホ、カシャカシャえらい音立てとるけど、連写の必要あるんか?

「くっ……!圧倒的美幼女……!この世の幸せという幸せを具現化してこれ以上どうすんですか名前さん……!可愛すぎる……!!俺の名前さんフォルダに新しい写真が……っ!名前さん俺と大人の遊びしませ」
「子供やぞ!!やめや!!」

さっ、とアランが宮さんの耳を塞いだ。ようやったわ!!こんなん5歳児に聞かすような話やないやろ!
そう思っとったら、今度は大耳が角名の襟首掴んでぽい、と体育館から出した。ほんまろくな2年おらんな!良心は銀島しかおらんのかい!

「アランくんきこえないー!あれ?りんくんは?」
「すまんなあ名前。ほら、たかいたかい」
「きゃー!アランくんすごーい!」

すかさずアランが宮さんをあやす。もう角名のことは忘れてくれたらしい。あまりのチョロさと可愛さに心臓が軋みよった。多分俺だけやなくて大耳も銀島も同じように胸押さえとる。まあ、これくらいなら許されるやろ。子供は人類の宝言うしな。

にしても、アランが宮さんあやすと急に父親みでてくんのなんでなん??




「きょーはありがとーございました!」
「ちゃんと歯磨きして寝るんやで。夜更かしはあかんからな」
「はあい!おかあさん!」
「おかんと違うで、名前」
「はあい、しんすけくん!おじゃましました!サムにい、ん!」

うっっっっわ!!両手あげてん!て!!だっこて!!だっこって!!ああああああかわええ〜〜〜!かわいいがずっと続いとる〜〜、俺の最推しが最高すぎてもうにやけんの止まらん〜〜!

抱き上げると名前がきゃっきゃっと笑った。今日は推しの笑顔がよう見れて幸せやったわ……。我が人生に一片の悔いなし……いやあるわ。名前より先にくたばれん。
ばいばーい!と腕の中で名前が元気よく手を振った。じゃんけんで俺に負けたツムがめっちゃ悔しそうな顔をして、抱き上げた名前のほっぺをつついとる。やめろや!

「名前、楽しかったか?」
「うん!ツムにいとサムにいといっしょだったからたのしかったよ!」

満点の回答や。あかん、真性のアイドルは生まれたときからアイドルなんやな??もうアイドルになるべくして生まれたんやな??
名前が楽しそうに今日あったことを教えてくれる。おりこうさんにして部活見とってえらいなあ、と背中を撫でると名前がきゃっきゃっと笑った。はあ〜〜天使。もう食べてまいたいわ。

「あのね、ないしょだよ?」

そう言うて、名前は俺にこっそり耳打ちしてきた。全然こっそりできてへんし、声大きいまんまやけど。あああいちいちかわいすぎる〜〜。いつもと違って詰めが甘いとこめっちゃかわええ。猫動画より癒し効果あんでこんなん。どないすんの?世界平和やん。

「名前ね、あいどるなんだよ!うたっておどるの!」
「うんうん、せやなあ」
「みんなのことたくさんげんきにするおしごとなんだよ!すごいでしょ!」

きらきら笑う名前はほんまにアイドルや。職業とかやなくて、俺とツムにとってはずっと昔から側におるアイドルなんやで、って言っても今はわからんやろうけどな。
首に回されたほそっこい手が大きくなってもしわくちゃんなっても、俺らは名前のこと大好きやから、ずっと笑顔でおってな。

「すごいなあ、名前は」
「えらいなあ、名前は」

ツムとちっこい頭をなでるとご機嫌な名前があとね、とまた耳打ちをしてきた。はあ〜〜もうほんまかわええ。何で出来とるん?砂糖か??砂糖なんか??ちょお同じ腹から出てきた人間と思えへんわ。

よしよしと、頭を撫でとると、名前がえへへと笑った。ああ〜〜部活で疲れた体に効くわ〜〜。飯食うんとと同じくらい幸せや〜〜、守りたいわこの笑顔〜〜。

「サムにい、ツムにい、だいすきだよ!」
「「ンアッッ」」


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -