「名前さんって、呼び出しで昼休み潰れそうやな」

唐突に銀島がそう言い出したのは、昼休みの直前、治が放課後の部活に行く前の時間に約束を取り付けられたのを見たせいだ。十中八九告白だろうな。まあどうでもいいけど。

双子でこれだ。稲高のアイドルである名前さんならもっと多いのも予想ができる。銀島がけらけら笑いながらそう言うと、双子が凄んで、銀島の肩がびくりと弾んだ。

「ないわそんなん1ミリもないわ」
「俺らおんのに名前に手出させるかい」

頭おめでたいなこいつら、と思いつつドヤる双子を眺めた。スマホで時間を確認して立ち上がる。タイミングと時間的にそろそろか。急に立ち上がった俺に侑が声を掛けてきた。

「角名どこいくん? 便所か? 俺も行くわ」
「いや、名前さんが呼び出されてる気配がするからちょっと行ってくる」
「なんて??」

双子がは?とアホ面を晒した。
現在進行形で俺の名前さんレーダーはさっきから警告音を発しまくっている。よろしくない。つまり推しに危険が迫っているということだ。
悠長になどしてられない。動きそうなやつは既に調査済みなんだけどね。

「名前さんが6組の女子に呼び出されてる気がする」
「詳しすぎやろ」
「体育館……いや、おそらく人気のない駐輪場」
「なんで分かんねん」
「なにしてんの双子さっさと行くよ」
「「なんやねんこいつ」」

うるさいな。名前さんの一大事に俺が呑気にメシ食ってるわけにいかないだろ。はやく、とどやせば渋々と双子が、何故か面白そうだ、という理由で銀島が付いてきた。なんでもいいけど早くしろ。俺の名前さんに何かあったらどうすんだ。





「あ、の!それで、私――」

そんな声が聞こえてきて、さっ、と物陰に身を隠した。間違いない、あの後ろ姿は名前さんだ。やっぱり俺の調査もとい、予感は当たったらしい。

呼び出した相手は案の定女子。面倒だな。男なら横っ面を一発殴れば終わるが、女子は独特のルールがあるから厄介なんだよな。慎重に行かなければ名前さんの平和な学校生活が大変なことになってしまう。ここは少し様子見が必要だ。

「うっわマジで当たっとる」
「怖っ!過激派怖!」
「うるさい、気付かれるだろ」
「角名も双子もなんでこの状況に違和感持たんのや」

キャンキャンうるさい双子を黙らせる。違和感?持つわけないだろ。推しの危機は俺の危機。名前さんの危機は世界滅亡の危機だ。
いいか銀島、これは世界平和のためだ。名前さんの平穏のために俺はどんな話かを逐一確認する必要がある。おい治キモいとか言うな。

「わ、私……!」
「ゆっくりでいいよ、時間もあるから。大丈夫。落ち着いてね、待ってるよ」
「あ、あの私、お、弟さんのことが、その、好きで……その、」
「うんうん」
「それで、あの……っ!えっと、だ、だから、その、姉弟やって分かっとるけど、あの、〜〜〜〜っ!ずっと一緒やと!!隙がないといいますか!!」
「そっかぁ……、私いると誘いづらいよね。ごめんね」

眉を下げて謝る名前さんに双子が、ア?と低い声を出した。視界の端で銀島の肩がびく付いたのが見えた。

「なんで名前が謝んねん。ファンの管理くらいしっかりせえやくそツム」
「なんで俺や決めつけんねん。お前のファンやったら覚えとれよくそサム」
「お前ら……」
「し ず か に し ろ」

名前さんの可愛い声が聞こえないだろうが!少し黙ってろ、と睨み付ければ双子が沈黙した。

「えっと、どっちが好きなの?治?侑?」
「…………侑くんです」
「「「お前か」」」
「俺かい……!」

戦犯確定。
この人でなしめ。やっぱり人でなしのファンは人でなしか。名前さんを呼び出すなど言語道断。まずは俺の許可を取ってからにしろ。
しかし、ここから名前さんは驚きの行動に出た。侑のファンだというヤツの手を優しく握ったのだ。握っ、え??名前さん?どうして?

は??俺だって数える程しか握って貰ったことないのに?なぜ??同性だからか?同性だから許されるのか?それなら俺だって同性に生まれて名前さんとキャッキャ放課後デートとか食べあいっこしたかった!俺の手も握ってください名前さん!!おい離せ双子!!

「そっかそっか!侑格好いいもんね。そっか、だから髪もセット気合い入ってるんだね、すごく似合ってるよ」
「え、なん、わかるん……です?」
「分かるよ〜〜!髪も艶々だし、このセットも実は凄く大変だよね。爪もちゃんと手入れされてるし、リップも似合ってるし、毎日ちゃんとお洒落してて偉いよ!すごく!」
「エッ」
「いつどんな時も好きな人の前だと可愛くいたいもんね!ちゃんと可愛く見てもらう準備しててすごいね。正直侑は今バレーが一番大事なんだと思うけど、でも自信持って、すっごい可愛いから!」
「アッ」
「どんな結果でも、可愛くいるために努力できる素敵な人ってことは変わらないよ。応援してるから、頑張ってね!」
「ファイ……!」


神。


圧倒的太陽神。


名前さんは神だった。知ってた。名前さんは神。
後ろ姿でもわかる名前さんのキラキラ輝く笑顔。もはやメシア、いや、むしろ万物の創世主。神のごとき懐の広さ。もう推す。いやもうこれ以上ないくらい推してるけど。

普通自分呼び出した子にあんなこと言えるか??俺はどうでもいい奴に時間割いてるくらいなら、バレーやるか名前さんを拝むかなんだけど。ていうか普通初対面のやつに時間割いてる暇なんかない。

そんな中で名前さんのこの神対応。わかるか双子??
しかも許しがたいことに女で同性でガードが低いからって!!手を!!握ってもらえるとか!!

ちょっと待って、その笑顔を至近距離で見れるのか?いくら??いくら積んだら名前さんのその笑顔が見れる??ていうか俺と!!場所を変わってくれ!!

「アッ、えっと、あの……っ!」
「うんうん」
「……名前さん、って呼んでいいですか……?」

はい堕ちた。
こいつも同じ名前さんの沼にはまりました。ようこそ名前沼へ。くれぐれも名前さんの迷惑にならないよう身のほどを弁えておけよ。なんなら双子のどっちかとくっついて双子が名前さんにベッタリな時間を少しでも減らしてくれ。

そう念じるているとひょこ、と名前さんが顔を出した。しまった、もう終わってたか……!俺としたことが!

「あれ、角名くんたち。何してるの?……もしかしてみてた?」
「ずっと見てます名前さん……!」
「エッ、う、うん?……ありがと?(どうした角名くん)」

少し恥ずかしそうな名前さんが、はにかみながら俺を見て首を傾げた。うっっっっっわ!!かっっっっっわ!!困ったみたいに笑う推し最高!!!えっ??最高じゃね??

ギュウウウと心臓が絞られて痛いのに何故か口元は緩んでしまう。俺は知っている。これが尊いという感情だということを。尊い。めちゃくちゃ推せる。最推しが最高だ。

ていうか、なんですか、可愛すぎませんかその笑顔。どこに、俺どこにお布施すればいいですか??そもそもなんで名前さんの公式グッズないんですか??

そしたら合法的に貢げるのに、運営は何をやっているんだ。プロデュース力が足りなさすぎるだろ。やらないなら頼む俺にプロデュースさせてくれ!!

「ど、どうしたの角名くん」
「いえ、なんでもないです。ちょっと運営の力不足を恨んでいただけです」
「運営……?(芸能事務所みたい)」

ぽかん、とする名前さん。エッ、ちっちゃい口が半開きなのやばいかわいい。しかも首傾げる仕草とかもう可愛すぎて地球弾けそうだ。

「名前、こいつに近づいたらあかんで」
「せや、学校一危険なやつや。触れたらあかん」
「角名るな危険」
「触るなやろ。雑すぎや」
「覚悟はいいか双子」
「やめろや!!」
「え、ちょ、一体……??」
「名前さん、帰りましょか」

双子と言い合ってるうちになぜか銀島が名前さんと一緒に教室に帰っていた。おい、銀島お前もか、今日お前のスパイク全部止めるからな。


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