「名前!見たって、稲荷崎の制服やで!」
「名前と同じやで、どうや」
「ヴァツ」
はい心臓止まりました。
稲荷崎の制服に身を包んだ治と侑が吹部の練習でくたくたになった私を迎えてくれた。
あまりの光景にいつも通り変な声が出て、崩れ落ちそうになる。落ち着け……落ち着くのよ宮名前……。
そうは言ってもね??稲荷崎の制服着てどやる双子とか最高に可愛すぎません??
あのね、しかも制服ちょっと大きいのね??まあ、男の子だし高校生でまた成長期くるしね??双子だから一度に掛かる学費とか倍だし、シャツとかズボンとかなるべく買い足ししたくないしね??しょうがないよね。お母さんの気持ちわかるよ。
でもね、ちょっとぶかぶかの服着る双子やばくないですか!!!
肩とか袖とかちょっと余ってるの!!ぴったりじゃないの!!しかも本人たちがそれを分かってて、なんとなくカッコ悪く見えるんじゃね?って隠したそうなのが分かるの!!
あのさあ!!お母様!!最高ですか!!
これが成長期で伸びるんでしょ??高2になってめっちゃ体しっかりして、こうさあ…だめだ言葉にならない〜〜!
「シュ……スッゴい似合ってる……!!治も侑もかっこいいよ……!」
「せやろ〜? 名前と同じ制服着んのむっちゃ楽しみにしとってん〜」
「あ、侑ほんと?私も楽しみにしてたよ!」
せやろ〜、とドヤる侑。すごく。すごく楽しみにしてました。
野狐の制服もよかったけど……やっぱり稲荷崎……っ!!圧倒的稲荷崎……っ!
ブレザーもネクタイもたまらない……っ!もうまばたきが惜しい。私がこの1年どれだけ望んだことか……っ!
「名前、おかえり」
「おかーさん、ただいまあ」
リビングで2人とわちゃわちゃしていると、お母さんが晩御飯食べちゃいなさい、と言ってくれる。いつも美味しいごはんありがとうございます。治と侑をかっこよく産んでくれてありがとうございます。
お母さんに感謝していると、お母さんが呆れたように双子を見た。
「なんや、あんたらファッションショー終わったんか」
「オカン言うなや!!」
「オカンなんで言うねん!!」
ファッションショー?? は? なにそれ?? まってそんなことやってたの?私がいない間に?
少しバツが悪そうにお母さんを見る2人。まさか恥ずかしがってるの。
いつのまにそんなことが。どどどどうしよ、この世界には同志たち居ないしそもそも家族だけのイベントだし誰も画像恵んでくれないし!そんなことある!?
やーーーーだーーーーあーーーー!!!2人があーでもないこーでもないしてるファッションショー見たかった〜〜〜!!!
歯を食いしばって顔を覆って下を向くと、治が覗き込んできた気配がした。い、いま!!みないで!!かおやばいから!!!
「名前、どしたん?」
「な、なんでもない……!」
い、いえない。まさかファッションショー見逃してベッドの上で大人げなくやだやだじたばたしたいなんて。
きょとん、とした顔で見てくる治がそうだ、と何かを思い出した顔をした。
「名前、ネクタイ結んでや。俺結び方わからんねん」
「ハア!?お前さっきまで結んどったやないか!!」
「知らん。俺はこれまでネクタイなんぞ結んだことあらへんわ。ツムと違って」
そう言って侑を睨んだ治がネクタイを渡してくる。はわわわわ……い、稲荷崎のネクタイ……!治のネクタイ……!!
「わ、私が結んでいいの……?」
治に聞くと、治がこくん、と頷いた。いいらしい。どんなボーナスイベントですか?
そう思っていたらふっ、と治が笑った。
「名前がええねん。俺に教えてや」
アアアア聞きましたか〜〜〜!!最推しが!最推しが笑ってくれたアアアア〜〜!
やばい手が震えそう。いやもう震えている。少しだけ屈んだ治にネクタイの巻き方を教えていく。衣装とはいえネクタイ結べることをこれ程感謝したことはない……!
「で、できたよ」
「ありがとさん、名前」
「(イチャイチャすなボケ!)」
「(蹴んなや!)」
お互いにげしげし蹴り合っている2人。バレないと思ってるあたりが可愛い。うんうん、本当にこの2人は幼稚園の頃から変わらないなあ。そんなにお姉ちゃん取られてくやしいか〜。
「〜〜〜名前!俺にもやってや!」
「え、でも侑結んでた」
「知らん!分からんくなったわ!」
「ボケたか。さっき首のネクタイなんやねん」
「分かった、分かったから…!」
侑がむしり取るようにネクタイをほどいた。
アアアアアアさ、最推しがネクタイホドイタァァアァ!!シュルって!シュルッテ!!!
心臓がぎゅううううとなって死にそうだったけど、死んでいる場合じゃない。死んでいる場合では!ない!
同じように侑のネクタイを手に取る。よっしゃああああ!!図らずも侑のネクタイ結ぶイベントが発生!ありがとうございます〜〜〜!!震えながらネクタイを結ぶ。か、顔がいい〜〜〜〜!そんな至近距離でふにゃって笑わないで〜〜〜!
「あんたらいつまでやっとんの!汚す前に服脱ぎ!名前もはよご飯食べ!」
「ヒャイ」
ちょっと怒られてしまった。やばやば、と慌てて私は座って、双子は文句を言いながらも渋々着替えに行こうとする。そうだ、と振り向いた双子が今日一番の輝いた笑顔を見せた。
「名前、一緒の学校楽しみやな」
「一緒に学校いこーな」
パタパタと2階に上がっていった2人がいないのを良いことにじたばたする。
ファンサが過ぎる〜〜〜!あの笑顔は反則〜〜〜!
お母さんが呆れたように私を見ていたことは黙殺しておいた。