セクハラです!先輩!

真希さんと真依さんと話をしていたら急に背後に気配が生まれた。振り返ってみたら、なんと視界が真っ黒になってた。あの、急に帳降ろさないでもらっていいですか?心臓に悪いんで!

「お前か、高専に来ている中学生というのは」

俺の背後を見た二人からうげ、というあからさまに嫌そうな声が聞こえてきた。それと同時に、文字通り上から野太い声が降って来る。これ帳じゃない、人だ。

……え?デカくね??五条先生とか夏油先生くらいあるのでは??つーかまた知らない人に絡まれたんですけど俺そんな有名なの?なんで?あまりにも才能があるからですかね。才能あるならなんであんなボコボコにされんのか誰か教えてくれよ。

「は、はあ……そうですけど……ま、真依さんこの人誰すか……!?」
「バカよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

シンプルに悪口〜〜〜!そして質問に答えてくれない〜〜!
この辛辣を極めた舌鋒と虫を見るような目を2人がするのでもう何も言えなくなる。わー流石双子〜、うぜえって時の歪んだ顔マジでそっくり〜、なんてちょっと現実逃避をかました。

こういう時、なんだかんだお姉ちゃんである真希さんが端的に教えてくれた。京都校2年、東堂。それだけ。もうちょいあるやろがい、ってツッコもうと思ったのにそんな空気になってくれない。バチバチである。
方や俺を値踏みするような視線、方や絶対零度の早くどっか行けやという視線。こういうときどうすればいか俺は知ってる。空気だ。空気になればいい。そう、俺はただのコマの余白を埋めるモブーー。

「お前、どんな女がタイプだ」

はい無理でした。いや分かってましたけどね??高専に出入りする中学生とか俺しかいないし、俺以外にこの場に初対面いないし。

つーかなんで女のタイプ??どうしても今??この視線に晒されてなお今??どう考えたって今じゃないでしょ?林先生もびっくりなんだわ。
そもそもだけどね、同性だからまだ許されるけど、初対面でこの場面でこの質問、下手すりゃセクハラですよ先輩!自由すぎんだよな呪術師〜〜〜!先輩、これで女の人から顰蹙買ったことあるでしょ!?

「げっ、こいつまたこの質問かよ……」
「既にか〜〜ってか、え?なに?タイプ?なんで今??」
「答えなくていいわよ、名前。何を答えても面倒だから」
「答えろ……どんな女がタイプだ」

酷すぎる。答えても答えなくても角がたつんですけど??呪術師の世界エグくない?

それよりもなんだけど、東堂先輩、この真希さん真依さんの氷よりも冷たい視線が目に入らないの??メンタルハイパーつよつよ術師じゃん。呪術師ってみんなこうなの??高専でうまくやれる気配しないんだが……?

とはいえ東堂先輩の視線は既に若干の苛立ちを含み始めていて、多分そろそろ答えないとまずいやつ。真希さん真依さんも気にすんなとは言ってくれてるけど、実力行使されたら厳しそう。ワンチャン俺が先輩たちの満足のいく解答を出せれば……出せれば……!いやマジで〜〜そういうのは男しかいないとこでやろうぜ、せんぱぁい……。

それにしても、タイプ、タイプか〜。
うちは姉貴と母2人で絶対王政の独裁国家なのでこういう問いはマジで地雷だ。プラスこれで「顔が良い女」「ボンキュッボンなエロボディ」「巨乳」などと身体的、容姿的な好みを言おうものなら、シベリア送りにされてしまう。

どっかの芸人がが似たようなことを言って炎上したとき、それを見た姉と母に「女はアクセサリーか?」「てめえの顔鏡で見てから言え?」「内面って知ってる?」ってヤンキーに絡まれる俺の姿想像して?俺別に炎上芸人じゃないのに可哀想が過ぎるくない??

そんなわけで、こういう時の答える俺のタイプは決まってる。まあ、実際偽りなくタイプなので別に後ろめたいことないんだけどさあ!これ別に女子に媚び売ってるわけじゃねーから!

「よく食べて!よく寝て!よく笑う子が好きです!」

あ、あと!





「アイドルみたいな!」
「ほう……?」

名前がむちゃくちゃいい笑顔で言い切った瞬間、東堂の眉がぴくりと跳ね上がった。そして顎に手を当てた東堂がそのまま値踏みをするように名前を眺める。

東堂葵は呪力操作、戦闘共にセンスの塊みてーなやつだが、その一方で手綱が握れないと有名でもあった。
やる気は日によって違う。最短で終わらせる日もあれば、その日は行けないとハナから抗議する日もある。日によってムラが激しい。

その理由は、全部こいつが追っかけてるアイドルだった。
特番があるから行かねえ、リアタイするから嫌だと言い出したら聞かない男。そんな男のド性癖に突き刺さるだろう回答。
それを聞いた私の感想はたったひとつだった。

こいつ!!無意識に最適解を叩き出しやがった!!

「ほぉ……アイドル……確かに、高田ちゃんはよく食べ、休息を取り、故にあの完璧なたかたんビームを出せる……お前、よくわかっているな」
「え?は?あ、アザース!」

ワケわかってねえくせになんで返事してんだよ!?馬鹿!
こっちのイライラなんざお構い無しに犬が尻尾振るみたいに笑ってんじゃねえよ!!
東堂の自分に酔った仕草もいちいち腹立つし、くそ、なんなんだよもう帰っていいか、と思わず頭を抱えたくなった。

「だがしかし、アイドルが笑うだけなど時代遅れの認識甚だしい……おまえはまだ!アイドルの真価を知らないッ!」
「そう?すね!はい!知らないです、すいません!」

なんか心配してたこっちが腹立ってきた。会話が成立してんのもそうだが、 名前がマジで東堂の性癖と地雷の上でタップダンスしてんのに気付いてないとこがまた腹立つ。

「名前と言ったな?この俺が、アイドルのなんたるかを教えてやろう……今日からおまえはこの東堂葵の弟分だ!存分に頼れッ!」
「よくわかんねーけどありがとうございます!」

そう言って二人ががっしりと握手を交わした。
ぜんっぜん理解できねえ。よくわかってねーのになんで礼言ってんだよ!へらへらすんなバカ名前!つうか、こいつマジでノリだけで切り抜けやがった……!

ポンポン交わされていく会話に隠さずに舌打ちをする。つまんねー回答すりゃボコボコにするくらいは平気でやるだろ、東堂だし。まだ術式も呪力操作も大したことねえ名前が、あの一撃を受けたらどうなるかなんて馬鹿でもわかる。

ひとまず死ぬことはなくなったか、と肩を撫で下ろすと真依と目が合った。同じように肩から力を抜いてるから、似たようなことを思ってたんだろ。チッ、と舌打ちが聞こえた。

「名前、京都校に来い。お前が来れば、いつでも高田ちゃん、いやアイドルについてこの俺が伝授してやろう……!」
「いや京都は直哉さんいるんで嫌ッス」

マジでそれな、と思わず真依と頷いたのはしょうがないだろ。