ブルータス、お前もか!

俺が女の子になっちゃってから数日。スリーマンセルで任務に行っていた2年の先輩たちが帰ってきた。

俺はこの瞬間を待ちわびていた。とてもだ。なにしろ乙骨先輩を除いた3人はいわゆる俺の箱推し、癒し枠である。大変長らくお待ちしておりました〜〜、よかった〜〜!俺のささくれた心にようやくベホイミが掛けられたよ〜〜!

ルンルン気分でスキップしながら2年の教室に駆け込む。教室には真希さんとパンダ先輩がいて、その勢いのままお疲れ様でーす!と叫んだ。クソデカボイスである。ごめんね、と思いながらもいつものように抱き着いたパンダ先輩のモフモフの生地に顔を埋める。はあ〜〜〜〜、圧倒的癒し!

「うっせーな、名前。つーかマジで女になってんじゃねえか」
「女になっても喧しさは変わんねーんだな、ほいこれお土産」
「わ〜〜い!先輩たち大好き〜〜!」

へへ、とパンダ先輩から渡されたお土産を抱き締めると、2人は呆れながらも俺の頭をわしゃわしゃと雑に撫でてきた。お土産あざーす!俺これ超好き!でも俺的にはお土産よりも先輩たちに会えてやったね!って感じだ。流石俺の癒し、プライレスである。

釘崎ちゃんから事前に俺のことを聞いていたらしい真希さんたちは、俺の姿を見ても大して動揺することもなく、乙骨がいなくてよかったな、としみじみ呟いた。うん、ほんと俺もそう思う。こく、と頷けばパンダ先輩が可哀想になあ、とぼやいた。じゃあ変わってもらっていいです??いやっすか。でしょうね。

「あれ、狗巻先輩は?」
「棘はちょっと別でな。まあ、今日の夜には帰ってくっから」
「え〜〜悲しい」

落ち込むなよ、と真希さんに肩を叩かれる。別に落ち込んでなんかないですぅ〜、と唇を尖らせれば真希さんにはあとため息をつかれた。え?なに?俺なにかした??なんでこんな呆れられてんの??遺憾の意なんすけど!?

「お前……ほんとにクソ教師共になんもされてねえのかよ?」
「だ、大丈夫に決まってるじゃないっすか!!」

鋭すぎてなんも言えない。女の人の勘、ほんとすげえ。





そんなこんなで夜。部屋でテレビを見ていたら、とんとん、と扉が叩かれた。もしや!と思って扉を勢いよく開ければ、そこには俺の最も求めていた癒しの権化である狗巻先輩がいた。しかもさあ来い、と言わんばかりに腕を広げている。先輩分かってらっしゃる〜〜〜!

なんでか先輩の表情はびっくりした感じに固まっているけど、先輩からのお許しが出ているなら俺も遠慮はしない。お帰り〜〜〜!先輩〜〜!と抱き着いた。は〜〜〜、最高〜〜〜!狗巻セラピーマジでありがてえ〜〜〜。

「狗巻先輩ぃいい!会いたかった〜〜!」
「しゃ、しゃけしゃけ……!」
「どーぞ先輩!おはいりなすって!」

相変わらずなんて言ってんのかわかんねえけど、ひとまず廊下じゃ近所迷惑だろうしと狗巻先輩を部屋に入れる。先輩はどうやら俺にお土産を持って来てくれたらしい。ちょ〜う嬉しいんですけど!しびあご!いつも通り一緒に食べましょうね!この間俺は先輩に抱き着いたままである。執着って怖いね。

どうしてかいつも以上に俺を離さない狗巻先輩に首を傾げるけど、まあ、きっと狗巻先輩にも色々あったんだろう。分かるよ、しんどい時はちょっと人肌恋しくなるもんな〜〜。ほんとお疲れさま先輩〜〜。俺でよければいくらでも抱き枕になりますぜ!

そう思いながら狗巻先輩の好きにさせれば、狗巻先輩はごく、と喉を鳴らした。喉でも乾いてんのかな??俺の部屋今炭酸しかねえけど、大丈夫?なんかもっと喉にいい飲み物の方がいい?

「やっぱ高専の癒し枠っすよね〜〜俺先輩めっちゃすき〜〜」
「たらこ!?」

いつもみたいに先輩の肩にぐりぐり額を押し付けていると驚いたような声とともに、先輩の体が硬くなった。なんで??頭の上にある先輩の顔を見ればばっちりと目が合って、その可愛らしい顔が少しだけ赤くなった。なして??どうしてそんな照れるの??俺男だし、先輩と裸の付き合いだってしてる仲じゃない?全て曝け出した仲でしょ!?

あのね!俺は知ってるんだからね!!狗巻先輩が脱いだらすごいってことを!!これこそ俺が目指すべき理想の筋肉だってことを!

夏油先生とか七海さんみたいなれたら理想だけど、そもそも俺とは体質も体の成熟度も違うからしょうがない。い、いや諦めるにはまだ早い。俺だって10年後にはあの2人みたいになってるかもしれないじゃん!とにかく、今の俺が目指すべき肉体は狗巻先輩!これは譲れないね!

どうしたら先輩みたいな筋肉付くんすか〜、と駄々を捏ねるみたいに狗巻先輩の肩にぐりぐりおでこを擦り付ける。前は同じくらいだった身長も今となってはこのサイズになってしまった。悲しい。しかし、悪いことばかりではないと気づいてしまった。

これは大変内緒な話だが、狗巻先輩に抱き着くことだけを考えれば今の俺のこのサイズ感はベストであることに。まさしく俺のおでこが先輩の肩にジャストフィットする感じ。実によろしい。

すう、と深呼吸するとまた先輩の体が固くなった。は〜〜落ち着く〜〜まさに実家のような安心感!なにより同期にさえケダモノのように体を貪られた俺にとっては、この安心感は何にも代え難かった。

「先輩ってば他のやつらと違って先輩はなんか邪な欲望なさそうだし!おかげで俺も安心して猫吸いならぬ狗吸いできまっす!」
「おかか……」

なんだか声がワントーン下がった気がする。いやなんて??いやおにぎりの具言われてもわかんねーんすよ、俺。いつも先輩の言ってることフィーリングだし。つーかみんな何で理解できんの??

まあそれはさておき、狗巻先輩みたいなまともで優しい人が、女になったとはいえ後輩の俺に対してなんかするなんて考えらんねーし?これは超・安パイっすわ〜!
なんていた俺は完全に油断していた。

『動くな』
「は?」


いや、体の身動きが取れないんすけど。


でえええええまじでえええええ!?!?
待って待って先輩どうしてそうなったの!?なんで!?今呪言使う必要あった!?アッ、待って!よくないって、大変よろしくない雰囲気を俺はひしひし感じているよ!!正気に戻って先輩!

つーか呪言使うのずるくね?モロに食らったじゃん!!俺指一本動かせないんですけど!?ねえ聞いて!?持ち上げないで!?しかもオヒメサマ抱っこ!?俺を連れてどこ行くの!!その先ベッドしかねーんですけど!!

キャパオーバーで大混乱に陥る俺を先輩はそのままベッドに横たえた。いやいやいやマジで、待とう??本気か!?ていうかなにその優しい手付き、嘘じゃん!?嘘って言って!?

えっ!?このまま食われるのか俺!?マジで??こんな無抵抗のままに!?
いやいや少しは抵抗してくれた方が燃えるんだろ!?五条先生と夏油先生はそう言ってたけど!?こんな無抵抗のやつ襲っても楽しくないでしょ先輩!こういうやつのこと何て言うか知ってる!?

「しゃけ」

マグロだよ!!!

つーか何の話おちけつ俺!?アッ!?待って、そんなジッパー引き下げないで!?エロ可愛い先輩のお口が!!あああ待ってえええ。せめて、せめて優しく、優しくし……アッ―――!!