推しの生ライブを楽しむ
文化祭当日。
「お前ら、準備はいいな?」
「なんで角名が音頭とっとんのや」
「いつものダルそうな空気どこいったんや」
「なまえさんが歌って踊るのに俺がやる気ださないでどうすんの。ほら、早くいかないとアリーナ取れないだろ」
文化祭当日。俺ら4人は角名に連れられてバレー部のシフトが終わってから、ずっと大して面白くもない舞台を見とる。
それもこれも、角名がなまえのライブでアリーナ取るために早めに場所おさえとくんやと聞かんからや。
朝イチ北さんにシフト入れられんかったらマジで朝からおったやろうな。いやまあ反対はせんけど。むしろ賛成しかせえへんけど。この拷問のようなつまらん漫才が終わったらいよいよなまえの出番や。
『ありがとうございましたー!会場セットに少々お時間をいただきます!会場も混んできたみたいですので、皆さんもう少し前へ〜』
はあ〜〜始まる〜〜!いつの間にか人が多くなっとるし、ハワワワワなんや俺が緊張してきよった。あかん、心臓がばくばくいっとる。やばい。始まる前から死にそうや……!
「「「なまえちゃーーーん!」」」
「なまえ!なまえ!なまえ!」
「なまえコール沸き上がっとる……」
「ここが戦場……」
今だけはサムに同感や。ここは戦場や。気い抜いたらやられんで。あかん、この目になまえの全てを収めないと……!だれかこのライブDVD出してくれや……!言い値で買うわ……!
「俺らの試合みたいやな」
「一緒にすんな銀島。いいかなまえさんの人生2度目のステージだぞなまえさんはここに生ける伝説となるんだよ今日はその記念すべき日で歴史が動くんだから今息が出来てここにいることに感謝し」
「こっっっっっわ!!」
角名の剣幕に銀が叫んだ。わかるわ。角名お前最近宗教染みとんでほんま。怖くてなまえ近寄せられんわ。
まあ角名のおかげでアリーナは取れたけど素直に礼言うんは腹立つな。つーか治も角名もどっから出したんやその団扇!!俺の分ないんか!!寄越せや!
ジャーン、とギターの音が鳴り始めていよいよ始まるようやった。あああなまえの生歌!!なまえの生ライブ!!!生きててほんまよかった!!俺はこの日のために生きとる!!
最後の最後までなまえはセトリも衣装もどんなか教えてくれんかったから、もう全部が楽しみ過ぎてヤバい。物販あったら多分全財産つぎ込んどる。
角名は生活費まで入れるゆうてたから、物販なくて正解かもしれん……。でもなまえとのチェキは欲しい……推しに貢ぎたいわ……。
まさかこの目でなまえの生ライブを拝める日がくるなんて思わんやろ……、アッあかんもう泣きそうや……。始まる前から涙出てきよった。
『それでは、プログラム8番!ダンス部と吹部、夢の共演!2曲続けてどうぞ!』
吹部のドラムが始まると同時に、ステージにダンス部となまえが現れ こ の 衣 装 !!!
ウアアアアア!!この衣装あれやん!!4章の「真夏のセレナーデ」のライブで使っとった衣装やん!!!マジか!!マっっっジか!!最推しが当時の衣装着て動いとる!!おおお踊って歌っとるーー!!アアアアア好き〜〜!!
「キャアアアアアアなまえーーー!!」
流れて来た曲は最近色んなとこで掛かっとるアイドルの曲で、なまえが食い入るように動画を見とった曲や。振りおぼえてたんやな??あれはお仕事モードやったんな??お仕事モードのなまえむっっっっっちゃかっこよき〜〜〜!!
迫力のあるダンス中心で、全員で声揃えて歌うような感じなのにあれ?おかしない?もうなまえの声しか聞こえん。1人だけ異次元の歌声やん??しかもこのダンスで歌声ブレないとかほんまヤバない??しかもこの声量……アカン、なまえの透き通った声がむっちゃ聞こえる……。もうなまえの声だけでええ。
誰か……誰か俺を最推しのマイクにしてくれ!!どないしたら俺はなまえのマイクになれるんや!!
ドルスタの中でも、なまえのダンスと歌のレベルは抜きんでとって、風神雷神とかダンスマシーンとか言われてセンターの脇を固めとった。そんな真性のアイドルの生ステージやぞ!?!?一生忘れん!!!
しかもや!!むっっっっっちゃにこにこやん!!さすがアイドル!!さすがなまえ!!やっぱ真性は他と違うわ!!激しいダンス踊っとってもはじけんばかりの笑顔。もはや芸術。世界に誇るわ。全人類見るべき。いややっぱ見んな。
「宮ー!!!!」
「なまえちゃーん!」
他の客の歓声が聞こえてきて、はっと気づいた。
エッ??もう1曲終わってしまったん??あともう1曲しかなまえの歌聞けんの??なんで時間て過ぎるん??うそやん??もう2曲目入るんか!?
待てや!!もう少しアイドル衣装のなまえ堪能させてくれや!!ああああなんで蛍死んでまう、ちゃうわ、ねえちゃんなんで時間て過ぎてまうの??
俺がそう思っとる間に、なまえがステージの真ん中に立って、すう、と息を吸ったのがマイク越しに聞こえた。あかん、俺やっぱそのマイクになりたいわ。
「―――」
なまえの声が学校響いた。
これも最近話題のバンドの曲や。俺もプレーヤーの中に入れとるけど、カラオケではなかなか歌われんやつ。歌いにくいねん。イントロがアカペラやから。それをひとっっつも音外さずになまえが歌いきった。
音楽が始まった瞬間、歓声がとんでもないことになって、曲調がアップテンポに変わった。きょ、曲に合わせてとび跳ねるなまえ可愛ええ〜〜!!
『文化祭初日、盛り上がっていくぞー!』
『○☆&#§●ー!!』
アアアアアなまえの生煽り!!圧倒的ライブ感〜〜〜!!
マジのライブみたいになまえが会場に向けて叫んだ。なんて返したんかもはやわからん。言葉にならんわこんなん。
更に煽るなまえが無茶苦茶楽しそうで、俺まで楽しくなる。やっぱ推しが楽しそうなんが一番や……!
「「なまえーー!!!!」」
ちょうど横におったサムと声が被った。は?なんやねん被せんなや。
アリーナにおる俺らになまえが気づいて、ぱあっ、と笑顔が弾けた。アッアッ待て、待ってやその笑顔天使!!
ちょこっとだけあった振りと振りの間に、ぱちん、となまえの指バンからのウインクが来た。
エッ。
なにいま??なにがおきたん??え?ウインク??なまえの??生!!!ウインク!!!
絶対今俺に向けてウインクしてくれたやつやん!?!?と目が合ったやん!?推しが!!俺にウインクしてくれよった!!
あああ〜〜めっっっっちゃすき〜〜〜!!推しが、推しが今世紀最大級に輝いとる〜〜〜!!心臓止まりそうや……!あかんもう直視できん……!いや見るけど!!
言わせてくれ、なまえ!
「SUKI〜〜〜〜〜!!!」
「あっ、治、侑……ってなんで泣いてるの!?」
「うっうっ、なまえ〜〜」
「涙で前が見えん……」
「そ、そんな……?一体何が……ねえ、角名くん分かる?角名く……?か、固まっている……」
「やっぱ角名には衝撃が強かったか……途中からスマホ持ったまま動かんかったからな……なまえさん、お疲れさまです、むっちゃ凄かったっす!」
「銀くんありがとー!へへ、頑張っちゃった」
「「フグァ」」