ボーナスステージ〈文化祭〉


「じゃあ今年の吹部の出し物は例年通りのアンサンブルと、ダンス部とのコラボ企画に決まりましたー。えーと、それぞれ担当も書いてありますので、出し物ごとによくミーティングしておいてください。役割決めに意義ある人いま」
「はい!」

しゅっ!と勢いよく手をあげる。ぽかん、と皆が私を見た気配がした後にくすくす笑い声が聞こえてきた。それも無視して手を挙げると部長が目をそらした。
お願いだから流さないで部長〜〜!と叫べば、音楽室は笑いの波に包み込まれた。そ、そんな笑わないでよ皆!

「なまえ……あかんて、ボーカルがいやや言うたら」
「いや、だって……私より上手い人いるじゃん……」
「なまえ本気で言うとる?いややで皆、なまえと代われー言われんの」

同じ低音パートのきーちゃんに言われる。あの、なにを今さら、みたいな顔するの辞めてもらっていいです?絶対やりたい子いるはずだよ……!ていうか誰得のステージなの??

「わ、私だって……そ、それにそういうダンス&ボーカルみたいなのはダンス部にお願いしたほうが……」
「なまえダンス部ばりにダンスできるやん。しかも一回やったことあるから勝手分かるやろ?」

もにょもにょと抗議をすれば、あっという間に論破されてしまった。う、反論材料がない……!

「ぐぬぬ……」
「まあ、そういう訳で。なまえちゃんは大人しくアイドルポジションよろしく!」

バチーン、と部長にウインクをされた上に周りから拍手で黙らされてしまえばもうどうにもならない。あああ〜、と頭を抱えれば周りから叩かれる肩。なら代わってよ!といっても皆どこ吹く風だ。




「聞いたで、宮さん。ダンス部とステージやんのやろ?」
「北くん……お早い耳で」
「なにを嫌がっとるん?一昨年大成功やったやんか」
「そ、う、だけど……」

私だって元アイドルの端くれである。歌って踊るのはプロだ。元だけど。

幸いにも吹部ってこともあって、複式呼吸はしっかりしてるし、重いチューバを持ってるから筋肉もゼロっていう訳じゃない。
体幹もアイドル時代に習慣化してしまったトレーニングを続けているせいでばっちり。
後はボイトレだけど、多分これも文化祭で2曲歌うくらいならすぐにリカバリーできてしまう。

そう、今のところ断る理由がないのである。
是非とダンス部からもお願いされてしまうと私もちょっと断りにくい。最悪歌なくてもいいと思うんだけど、やっぱ盛り上がり方違うもんね……。

「そない嫌なら嫌って言ったんか?」
「まあ、押しが足りなかったとは思うけど、一応……」

机にほっぺを押し付けてもにょもにょしてると、北くんが私を見ながら不思議そうな顔をした。

ああああ待って待ってそのきょとん顔かわ、かわいい〜〜!!!北さんの可愛いお顔とくりくりおめめが私を見ている!!はあ〜〜〜そんなかっこかわいくて人類をどうする気なんですか北さん!!やばにやける〜〜〜〜!!

「一度受けたんなら最後までちゃんとせなあかんで。皆にも迷惑かかるの分かっとるやろ。それに、そんな後から言うなら最初にもっとちゃんと断りや」
「はい、ごめんなさい」

にやける余裕が一瞬にして消え失せた。
これが噂の正論パンチ……。確かにこれは背筋が伸びる。思わずだらりとしていた上半身をさっ、と正してしまった。でも、あの、言わせてもらっていいですか??

これが!!あの!!正論パンチ!!双子がヒヤッとする正論パンチ!!ああ〜〜パンチ食らってるはずなのに顔がにやけてしまう〜〜!!ありがとう北さん〜〜!!

「まあ、宮さんは責任感強いから、ちゃんとやるやろ。あんま心配はしてないわ」
「あう……買い被りだよ北くん〜〜」

これぞ飴と鞭!!!使い分け死ぬほどうまいですね??
腕もげそうなくらい正論なのにその後優しいとかほんと殺される〜!!推しに!!殺される!!いや春高まではまって!!

「俺は世辞は言わんで。まあ、ほどほどにがんばり。楽しみにしとんで」

エッッッッッ!?あの聞き間違いですか!?北くん見に来てくれるってことですか!?エッ無理!!ダサダサなステージにできないじゃん!?あああ〜〜複雑〜〜お目汚しになっちゃうよ〜〜!!
ていうか、こういうやるときはやるだろお前なら、みたいな信頼感がバレー部の中には蔓延してるんですね!?ああ〜〜もう最高ですごちそうさまです〜〜!!





「な、なまえステージでるってほんま?」
「う……侑も耳が早い……」
「なまえのことやで?そら早いやろ」
「治まで……」

家に帰れば早速治と侑が絡んできた。2人とも耳が早い。北くんもだけど、やっぱ人気者には色んな話が集まって来るんだなあ、としみじみ思った。

ステージは、やりたいわけじゃないけど、やりたくない訳でもない。
どうしても宮なまえじゃなくてみょうじなまえになっちゃうからなあ、となんとも言えない気持ちになる。似たようなものなんだけど。私の中では違うっていうか……違うんだよね〜〜。思わずため息。

「やりたないん?俺、なまえのステージむっっっっっちゃ見たい!ダンス上手いんやろ?北さん言っとったで」
「俺もや。俺らが入る前やろ、前にやったんは。俺らみてへんし。それになまえ歌上手いやん」
「そーなん、だけどさあ……」

まさか前世アイドルだったからね、なんて言えないから曖昧な返事を返した。私のその答えを聞いた双子が何かを察したらしく、頭を抱えた。どうしたの、2人とも。
首を傾げたら、あんな、と唇を噛み締めた侑と治がズーン、と音が付きそうなくらい思い詰めた顔をして私を見てきた。エッなにその顔!!急にどうしたの!?

「なまえが、ほんま、どーしても、どーーーーーしても嫌やって言うなら俺も治も聞きいかへんよ」
「なまえが嫌なら…………行かん。むっっっっっちゃ見たいしむっっっっっちゃ楽しみやけど」

しゅん、とあからさまに落ち込む双子に心臓がヒュッ、と音を立てた。
エッ、待って待ってねえ待って!?!?しゅんってなってる最推しかっっっっっわ!!!可愛すぎないですか!?

ほんと?と恐る恐る聞けば2人揃ってこくん、と縦に首が振られてしょげた空気がさらに強くなった。シッ、シンクロ攻撃!!!これが双子のシンクロってやつですか!!ていうかそんなに落ち込まないで……最推しが悲しいと私も悲しい……。

はっ!待って……。今最推しにこの顔をさせているの、もしや私では……?行きたい双子と嫌がる私のこの構図……。えっ、なに、つまり私が最推しから楽しみを奪っているというのか!?!?それは許せない!!!

最推しの楽しみを奪うなんて!!ダメ、絶対!!

「ややややっぱり私頑張る!!全力でパフォーマンスするから!!!だから侑も治も元気だして!?!?」
「ほんま!?ステージ見に行ってええんか!?」
「ぜっっっっったい行くわ!!」

なんて可愛い弟たちなんだ!推しの、弟のためならなんでもします!!

「任せて!!さいっっっこうのステージにしてみせる!!」
「「なまえー!!!」」
「あんたらうっさいわ!!!」

結局、私は双子や北くんの楽しみを奪ってはならない、という一心で滅茶苦茶、それはもう真面目に練習した。久しぶりに全力で練習するのは楽しくて、毎日テンション高めだ。

ノリノリのダンス部が衣装作ろうと言い出して急遽家庭部に手伝って貰ったり、何故か物販をするしないの話になっていたけど、なんだかんだ上手くいってる。(物販は先生たちに却下された)

前世の衣装まんま使っちゃったけど、まあ、知ってる人いないし、いいよね。



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