ヘルプミー!ポリスメン!

俺が真一郎さんのお店で働き始めて1か月が経った。
最初は全然わかんなかったバイク用品たちは真一郎さんや店に来る真一郎さんのオトモダチから色々聞かされて大分わかるようになってきている。俺優秀すぎん??もっと誉めてくれていいのよ。

ゼロスタートからのバイク屋のバイトは案外上手くいってる。高専にぶちこまれたときよりも全然楽。生死が関わってくるわけじゃないし。ていうか、俺ゼロからぶちこまれること多すぎじゃない?ハードすぎね?気のせい?
まあ、それはそれでいいんだけど、問題は俺がまだ2018年に帰れてないってことだ。

そう、俺は相変わらず佐野家のお世話になっているのである。甲斐性なしとか言わないで欲しい。離れらんない理由があんの。だってマジで蠅頭が謎の進化すんだよ!あの1回じゃなかったの!なんで!?そんな一足飛びにみんな進化してくわけ!?しかも気付くと真一郎さんの肩に蠅頭乗っかってるし!

俺なりに出来る範囲で調べてみたけど、どっちかっていうと俺じゃなくて佐野家がそういう体質っぽいってことくらいしか分かんなった。相乗効果は否めないけど。

問題は2人が興味とか信頼っていうプラスの感情だけじゃなくて、嫉妬とか恨みとかそういうのも集めてるってとこだけど。まあこれに関しては俺は強く言えないのでしょうがない。暴走族やってる時点で人に恨みを買うなというのは多分不可能だし。

そのうちこの蠅頭に釣られて2級くらいの呪霊が来そう。2級と言わず、俺をここに閉じ込めている特級呪霊出て来てくれたら超絶ハッピーなのになあ。全っ然こねーけど。
そんなこんなで、俺は今日も楽しく真一郎さんの店で働いている。

「え、マイキーくんの誕生日プレゼントなの、こいつ?」
「ああ、俺のバブ!カッケエだろー?」
「へー、まあ確かに原チャだと皆と遠出できねーっつってましたしね〜」

だろ、と真一郎さんが笑った。目の前で整備されていくバイクを見て感心する。この間までバラバラだったのに、すげーな、めちゃくちゃ器用。
最近の俺と真一郎さんの話題といえばマイキーくんの誕生日が専らだった。東卍の子たちもマイキーくんがいないとこでは同じように話をしてるから、皆楽しみでしょうがないんだろうな。仲が良いことはよいこと!

「俺どーしよっかな……」
「お、樹もなんかやんのか!」
「うーん……あんま物残すのヤだし……よし、『なんでも言うこと聞いてあげる券』にしよ」
「ガキかよ」

ぶふ、と真一郎さんが吹き出した。失礼な!これでも俺のなんでも言うこと聞く券はとっても人気だったんだぞ!禪院直哉が金と権力という汚い手を使ってまで手に入れようとしてたプラチナチケットなんですけど!
まあ、みんなお金に釣られるような人たちじゃないから悪魔の手に渡ることはなかったけど。

そんな話をしていたらもう見慣れてしまった2人が店に顔を覗かせた。ワカさんとオミさんという真一郎さんの推定悪いオトモダチだ。不良の関係性よくわかんねえのよな……。

「よー、シンくん、樹」
「いらっしゃいませ〜、ワカさん、オミさん、昨日ぶりです〜」

仕事は?と思うけどまあこの髪と貫禄じゃただのサラリーマンじゃないだろうな。
普通の兄ちゃんぽい真一郎さんですらあんな目つきの悪い不良たちが大人しくなるのだ。真一郎さん以上にインパクトのある2人がただのサラリーマンバイク乗りなわけがない。
うーん、あんま深入りせんとこ!怖いことは嫌なので俺はお口にチャックします!

「お前ら暇なの?」
「そりゃお前だろ。ここ最近ずっとそのバブじゃねえか」
「客も俺らしかいねえだろ」
「俺もそう思います〜もっと言ってください!」

うるせー、と笑う真一郎さんに先月真一郎さんのワガママで仕入れた車体が売れてないことを言えば真一郎さんは胸を抑えて蹲った。
ふんすと息巻けば2人から店長交代だな、と揶揄われる。いやいやなんだかんだ真一郎さんじゃなきゃ売れない車体もあるし、人望あるがゆえの店だし、といえば真一郎さんは床に這いつくばり、オミさんはゲラゲラ笑った。

「なんだ樹、お前、可愛いやつだな」
「ぐぬぅ……完全なる弟扱い……!」

その言葉にぐぐぐ、と奥歯を噛みしめるけど俺がワカさんに勝てるわけもなく、ぐりぐりと頭を撫でられた。完全なる兄ムーブ。なんでこの人俺のことこんなに弟扱いすんの?解せないんですが。
そんな会話がひと段落したタイミングで3人の間にちょっとした空気が流れた。その変化になんとなく察する。これは本題に入る感じですね??

「あ、真一郎さん、奥入ってていいすよ。俺、表で作業しとくんで」
「まじか、悪いな。助かる」

そう言って真一郎さんは2人を連れてバックに入って行った。最近なんか難しい話をしていることが多いから、今日も3人で話したいんだろうな。じゃなきゃこんな頻繁に来ないだろうし。
発注書だの入荷連絡だの日常的な業務が終わって暇になったので、俺はさっき真一郎さんに馬鹿にされたマイキーくんの誕生日プレゼント作りに取り掛かる。

真一郎さんはああ言ったけど、俺が渡すこの券には呪力を込めている。なのでこれが使われた場合、俺はマジで言うことを聞かないといけない。術師お得意の縛りってやつ。縛りは術師が自身に課すものだから、俺のいるとこで要求してもらわないとダメだけど。

呪術師を自由に使えるのはぶっちゃけ相当だけど、マイキーくんがいなければもっと面倒なことになっていたので、それくらいの感謝の気持ちはある。
ついでに今の内にありったけの呪力込めとこ。万が一の時ために破ったと同時に呪力が解放されるようになれば、まあ悪いようにはならないだろ。ま、この世界で命のやり取りするほど物騒なことも起きないっしょ〜、余裕余裕。よし、できたっと。

「すいません、真一郎くんいますか?」
「あ、お疲れ様です〜、真一郎さんはバックでーす」

時々来る年上のお兄さん方や、今みたいな俺と同じ年くらいのヤツをバックヤードに通す。ていうか、今のヤツとかほぼ俺と同じ年くらいじゃね?
名前は知らないけど、顔の傷とどっかで聞いたことある声が特徴的でなんとなく覚えている。いや来るのはいいんだけど、なんか買ってってくれ。今月売上やべーのよ。





「ん?真一郎さん、今なんか変な音……」
「ちょっと見てくるワ」
「真一郎さんはやくその帳簿整理終わらせてくださいよ、俺見てくるんで」
「見たくねえんだ……」
「自業自得じゃん……」

マイキーくんのバイクを優先して月初やんなきゃいけない経理関係を後回しにしたツケが、今になって襲って来たらしい。どう考えても自業自得。
もうマイキーくんの誕生日目前、というか日付が変わったから当日か。ぎりぎりまでバタバタしたと思ったら最後にとんでもないのが来た。強盗とかどんだけツイてないの、真一郎さん。

暗い店内を歩くとなにやらごそごそと動く影。これは完全に物取りだろうな、と思ってそっと工具台の上のレンチを握る。こういう道具って粗末に扱うべきじゃないとは思うけど緊急事態なんで許してほしい。万が一ってことも考えて一応声を掛けた。

「おい、何モン……あれ、場地?」
「――っ、樹、くん!?って、ことは、ここ……!」
「鍵閉まってたよな?なんでここに――っはあ!?」

店先にいたのはなんと場地だった。場地もなんで俺がここにいんの、という顔をしてるんだけど、流石に顔色悪すぎない?大丈夫?ていうか?鍵閉めたよな?それともかけ忘れたっけ、なんて思った瞬間、ぬるっとどこからか呪霊の気配が這いて出て得体のしれない笑い声が響く。
うっそだろ!?なんで!?呪霊!?待て、待って呪霊の気配こんな近くに!?たぶんそんなに強い呪霊じゃないけど、それでも分かる。
いや確かに俺2級呪霊くらい釣られてくんねーかな〜とは思ったけどホントに来るなんて思わないじゃん!フラグ!?俺自分でフラグ立ててた!?
あわわと焦る俺の後ろからさらに気配がして振り向く。真一郎さんなんで来ちゃったの!?

「樹!どうした……って、おまえ……圭介か?」
「なんで来たの!?大人しく書いてって言ったじゃん!」
「だめだ、一虎!この人は――!」
「は!?一虎くん!?」

不審そうな顔をした真一郎さん越しに小柄な体が映った。マジかよ!闇に溶け込むようにして現れた一虎くんの手には、物騒なものが憑りついている。くそ、ここにも呪霊かよ!!振りかぶったそれが落ちてくると同時に、反射的に真一郎さんの胸倉を掴んで引き倒す。

俺の頭を掠めた刃先が、真一郎さんの頭にも当たる嫌な音がした。ぎりぎりで交わしたと思ったけど完全には避けきれなかったらしい。俺の頭にぶつかった後だからそんなにひどくはなさそう。まあ俺は結構な衝撃来たけど!いってーーーよ馬鹿!

でも今は一虎よりも、バックヤードの入口で手招きをする呪霊の方が問題だ。ギリ2級に上がらない3級とみた。変な術式を繰り出される前に祓うしかねえだろ、と思って場地に真一郎さんを預けてそのまま突っ走る。ついでに一虎くんから物騒なものを奪って呪力を纏わせた。

でかい選定ばさみみたいな工具を振り回せば一発きっかり入って呪霊は祓うことが出来た。あ、あぶねーーーー!変な反撃される前でよかったーーー!
いくら3級だろうと流石に中坊2人と気絶した大人を庇って戦えるほどの余裕はなかったからマジでセーフだった。
まあ何はともあれ、一件落……。

「一虎!やめろ!」
「俺、は俺のせいじゃ、俺のせいじゃない、俺は悪くない違うおれじゃないおれじゃないおれじゃない」

いっけん、らくちゃ……らくちゃく……。
殺さなきゃ、見られたから、とブツブツ言っている一虎くんと真一郎さんを守るように立つ場地を見て、俺は思わず頭を抱えた。ぬる、と指先に濡れた感覚にふ、と力が抜けそうになる。
いや確かに俺は頑丈な方だと思うけどさ〜〜〜!ドッキドキの呪霊襲撃からこのカオスな修羅場はお呼びじゃねーーんだよ!なにこれ泣いていい??精神の抉り方がすげえんだけど!

やめて、ほんとに。
そう思いながらとりあえず救急車!と叫んだ俺は偉いと思う。マジで誰か褒めて!!