彼方の宝石


木兎さんの話をすると、赤葦さんの表情は豊かになる。

赤葦さんを見ていたらそう気付いた。
木兎さんの話をすると赤葦さんの雰囲気は柔らかくなる。笑顔が増える。笑顔、困った顔、呆れた顔。色んな表情がみれた。

木兎さんの背中とプレーに元気付けられてきたし、そこ抜けに明るい声と背中のおかげで私はここにいる。そんな感謝と強い想いも相まって、嬉しくて、つい調子に乗って木兎さんの話ばっかりしてしまった。……途中完全にやらかしたけど。

そんな木兎さんの話ばかりをして迎えた夏。
インターハイ予選で木兎さんが来れないと知った私の反応を見て、白福先輩と雀田先輩たちが声を掛けて来てくれた。実際、木兎さんが来れないのはショックだった。またタイミングを逃した。

御礼を言いたいのに木兎さんには全然会えなくて、インハイ予選なら、と思って意気込んでいたらそれも空振りに終わった。もう手紙でも書こうかな、と思いもした。いや、でもやっぱり言葉で伝えないと。

合宿に差し入れを持って来てくれた2人に色々聞かれて返していくうちに、先輩たちの顔がどんどんにやけていく。え、あの、先輩?と聞いても先輩たちからの答えは出てこない。そんなおかしいこと言ったかな。

「それってさあ、なまえちゃん、木兎じゃなくて、赤葦のことが好きなんじゃない?」
「赤葦のトスと木兎のスパイク。どっち見ちゃう?それでわかると思うよ〜」

雀田先輩と白福先輩にそう言われて、どきり、と心臓が音を立てた。好きって。どっち、ってそんな。どっちも私にとっては、ここまで引っ張ってきてくれた大切な人だ。そんな風に見てないし、そんな、答えなんて出ないよ、と思ったけど答えはその日中にあっけなく出た。

私、ずっと赤葦さんのこと目で追ってる……。

自分でもビックリした。無意識過ぎて。しかも何かにつけて赤葦さんのことを考えている。
部活のとき、食事のとき、寝る間際。今まで何を考えていたのか分からないくらい赤葦さんで頭がいっぱいになっている。
そもそも私がこんなにも木兎さんの話をし始めたのは、赤葦さんの笑顔が見たいな、って思ったからであって。

そんな。まさか。

私の中のきらきらと輝く星はずっと赤葦さんのものだったと気づいてしまった。
笑っていて欲しい。ずっと見ていたい。木兎さんじゃなくて、私のこと見て欲しい。

なんて奴だろうか私、恩人に対してそんなことを思うなんて。罰当たりだ。でも、気づいてしまったらもう止められかった。どうしよう、と動揺を隠すので精一杯だった。

赤葦さんのことを好きだと自覚してからも、赤葦さんとの話題は木兎さんばかりだった。
だって、緊張して、赤葦さんのこと聞けなかったから。このヘタレ、と毒づいても変わらない。赤葦さんの笑顔が見たくて木兎さんの話はやめられなかった。ごめんなさい木兎さん。

完全に自分で自分の首を絞めている。木兎さんの話ばっかりした過去の自分を呪った。
本当になにしてるの私。ベッドで頭を抱えて、茜に相談したりなんかした。好きにしろ、みたいな目で見られたけど。

そんなある日。

赤葦さんと一緒に行けた夏祭り。
ぱちん、と副主将にウインクをされてなんとなく察した。えええいつの間に。すぐにでも追い掛けて糾弾したかったけど、折角の機会だからと少しだけ勇気を出して裾なんか握ったりしてみた。どきどきして、心臓破裂するかと思った。のに。

久々に現れた彼は私の心を掻き乱すには十分で。
誘われたけど、本当は行かないつもりだった。でも、無理矢理笑う姿を見たらちゃんと伝えないといけないって思った。きっと、まだ罪悪感の渦の中にいるから。

私はもう、彼が好きだった前までの私じゃない。
もう、過去に構っている暇なんてない。私は私のために、もう歩き出してるから。大丈夫。もう気にしなくていいんだよ。
そう伝えると彼は敵わねえ、と笑って爆弾を落としてきた。

「みょうじは変わったな、あの人のおかげっていうか……好きなんだろ、あの人のこと」

ば、バレてる……!!
なん、なんで、と動揺したけど、私はその想いを無いことにはできない。素直に認めた。

夏祭りでは赤葦さんには少しだけきつい言葉を貰ったけど、それでも私は言葉に、声にすることをやめない。声で伝わらないなら行動で。伝えようとすることを諦めたら、きっと前までの私に戻ってしまうから。

そして、今、思考の海に沈んでいるこの人は、前までの私に似ている。自分なんて、と諦める理由を無理矢理こじつけていたあの頃の私に。

ねえ、好きですよ。赤葦さん。
貴方に引っ張られて、憧れて、追い求めてここまで来ました。貴方がいなければ、私はここまで変われなかった。

いつのまにか、私の中は赤葦さんでいっぱいだった。木兎さんへの憧れも感謝も忘れた訳じゃない。でも、赤葦さんは私の中で紛れもなく特別な人。いつの間にか、私の世界の中心になってしまった人。

だから、今度は私が伝えたい。
私がたったひとり、特別に想っている貴方が。


自分のことを『なんか』なんてカワイソウに扱わないで。


様子のおかしかった赤葦さんが、いつもの真っ直ぐした目で私を射抜いてくる。ああ、もう大丈夫だな、と思った。

「俺のこと、見ていて。木兎さんじゃなくて、俺のこと」

ねえ、赤葦さん。私、貴方のことずっと見てましたよ。木兎さん関係なく、眩しくて、コートの中できらきら輝く貴方を。

「頑張って!」

ありったけの力を込めて叫んだ言葉が、どうか貴方の力になれていますように。



ピー、と笛の音が鳴った。30-29。接戦の末、私たちは次の試合に駒を進めた。
整列して、お礼を言えば皆がベンチに戻ってくる。みんなにヒヤヒヤさせんな、と肩を叩かれて苦笑する姿は私の好きなそれで。

「みょうじ、勝ったよ」

あまりにも嬉しそうに笑う貴方に、私も思わず笑みがこぼれた。

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