極彩色ポップティーン


インターハイ予選当日。

春高程は大きくないけど、それでも大きな体育館には沢山の人、人、人。色とりどりのジャージが目に入って思わず視線がうろうろする。そんなキョドる私に、心配そうに赤葦さんが声を掛けてきた。

「大丈夫?みょうじ」
「だ、大丈夫です!」

赤葦さんにそう返すと赤葦さんはくすり、と笑った。相変わらず静かに笑うひと。ざわめく会場でもはっきり聞こえる赤葦さんの声に、少しだけ安心した。

いけない。私が部員に気を遣ってもらってどうする…!ちら、と赤葦さんを見上げるとその目はもうまっすぐ会場を見つめていて。その眼差しが余りにも真剣だったから、つい息を呑んだ。

そうだ、私にとっては初めてでも、赤葦さんたちにとっては最後のインターハイ。浮かれてる場合じゃ、ない。
不甲斐ない自分に嫌気がさして。ぱしん、と両頬を叩く。横で赤葦さんがぎょっと私を見たのを感じるけど、今はスルー。ふう、と深く息を吐く。うん、気合入った。

「行きましょう!」

緊張している1年もいる。私ぐらいは普段通りで居なくちゃ。そう思ってみんなに笑顔を向けた。隣でふっと笑う声が聞こえたような気がしたけど、どうやら気のせいみたいだ。

「よーお!梟谷の皆さんよ」

聞いたことのある声が聞こえて、振り向くと赤いジャージが目に飛び込んできた。音駒高校の面々だ。茜もいて滅茶苦茶手を振っている。

「なまえー!久しぶり!元気にやってる!?」
「茜!元気だよ〜!虎さんもお久しぶりです!」
「おお!なまえちゃん!元気そうでなによりだな!」

そう言って私も手を振り返す。山本兄妹は昔からよく私と遊んでくれた人たちだから会うと安心する。虎さんはもうお兄ちゃんって感じだし。わいわいする私たちの横で、プリン頭の人が赤葦さんと話している。どうやら同じ3年生みたいだ。

「意外とわかりやすいね、赤葦」
「…なんのことかな」
「まあ、いいけど」

そんな会話をしていた赤葦さんは私の肩を掴んでぐい、と引き寄せる。あんまりライバルの高校と仲良くするなってことだよね…。またやってしまった。周り見えなくなる癖ほんと嫌だ。

「今年は厄介な黒尾さんいないから好き放題やらせてもらうよ」
「そっちこそ木兎さんいなくなって落ちた攻撃力でうちに勝てると思わないでね」

すごい、ライバル同士って感じの会話だ…!感動していると、ほら行くよみょうじと急かされた。そうだ、私も茜も、友達だけどここでは敵同士。
木兎さんが背負ってきた梟谷は、そうやすやすと負けないんだから…!


□■□


「おーい、赤葦!応援に来たよ〜」
「白福さん、雀田さん、木葉さん、小見さん。お疲れ様です」

チィース!と他の部員に習って挨拶をする。ひらひらと手を振る4人はどうやら先輩らしい。女の先輩ってことはマネージャーさん、だよね!?

「お疲れ!今年はどう〜?」
「今のところ調子は悪くないです」
「相変わらず冷静だなぁ、オイ」

よく見ると去年3年生だった先輩たちだ。何度も試合を見たからわかる。去年のレギュラーの人たち。すごい、大学生って感じのキラキラ感…!はっ、見とれている場合じゃない…!

お、御礼を!御礼を伝えなければ!あのノートの!
あの、と声を掛けるときょとんと振り向く先輩たち。美人さんが2人も…!声を掛けたことで、他の先輩にも注目されてちょっとだけたじろぐ。

「ね、この子ってもしかして!」
「は、初めまして!みょうじなまえです!去年は練習試合のときにありがとうございました!無事に入学して、マネージャーやらせていただいてます!あと、ノートも!凄く丁寧で!ありがとうございました!」
「良かった!来るか分からなかったけど作っておいて!うちらの3年間まとめ切ったわ〜」

けらけら笑ってくれる人はやっぱりマネの先輩だった。白福さんと雀田さんというお二人は嬉しそうにノートを作ったいきさつを話してくれる。もう一生付いていきます…!

「でた!あの時の子!いきなり赤葦が連れてくるからビビったよな」
「マネージャーなれて良かったな、赤葦無表情だけど大丈夫か〜?」
「全然!いつも頼もしくて優しくて、本当に尊敬してます!」

そう言うと小見先輩が赤葦さんを小突いた。赤葦さんは目を見開いて固まっている。え、そんな、引かれた。まさか。だとしたらショックだ。

「やだー、高1ってこんなに可愛いかったけ!?」
「皆さん、みょうじにあんまり食いつかないでください」
「ええ〜、いいじゃん〜。赤葦ばっかりズルい〜」
「しっかし、今日木兎は来れなくなちまったから残念だな」

「ぼっ、木兎さん、来れないんですか!?…いや、あの、その…」

思った以上に声が大きくなって視線を集めた。ああああしま、しまった…。またやってしまった…。赤葦さんの顔を見るのが怖い。どどどうしよう。部活中はその話しないって約束したのに。
そうしたら木葉先輩がごめんなあ、と謝った。

「残念だよな。なまえちゃん木兎追っかけて入ったもんな」
「は、はい!いえ!」
「どっちだよ」

話を振られてもはいともいいえとも言えなくて言葉に詰まった結果、どっちも返答してしまった。いやだ、普通に恥ずかしい…。

「みょうじ返事可笑しいから。先輩たち、もうそろそろアップなので失礼します。みょうじ、試合の様子見てきてくれる?」
「は、はい!すいません先輩方、失礼します!」

またね、と手を振ってくれる先輩たちに、ぺこりと頭を下げて体育館に向かう。
木兎さん来れないのは、残念だけど。仕方ない。そんなことより、赤葦さんの最後のインターハイ。絶対、全国行かなきゃ。音駒も井闥山も全部倒して。

「へ〜〜〜え」
「ほ〜〜〜お」
「? 何だおまえら」
「はあ…(なんか面倒なことになった)」


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