金平糖をちりばめる


赤葦主将。赤葦先輩。赤葦さん。
みょうじさん。みょうじ。

俺の呼び方が、先輩から赤葦さん、に変わった。そして俺の呼び方もみょうじさんからみょうじに。
呼び方も、話し方もずいぶんと気を許したものになった。大きな進歩だと思う。
あの話の後。俺が勝手に置いていた距離を詰めれば、みょうじはなんてことはないかわいい後輩の1人だったと言うわけだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだ、俺。

「お疲れ様です、赤葦さん!お届け物です!」
「お疲れ。どうしたの?」
「監督から書類預かってきました。どうぞ」
「ありがとう」

距離が縮まったこともあって、みょうじは以前にも増して俺のクラスを訪れるようになった。俺の後ろを付いてくるみょうじを見て、クラスはついにひよこ派と子犬派に別れた。そして餌付けをする人間が隣のクラスまで増えつつある。勝手に俺の後輩を餌付けしないでほしい。

仲良くなった俺たちに一番安心したのは他の3年だった。微妙な距離感に心配していたらしい。本来なら赤葦はもっと世話焼きなのに頑張って距離開けちゃって、とゲラゲラ笑う副主将に肩パンをお見舞いしてやった。ざまあみろ。

「嫉妬か〜赤葦〜!子犬ちゃんクラスのペット枠になりつつあるもんな!」
「は?そんなわけないだろ。つーかみょうじに変なこと吹き込むなよ」
「お菓子あげるぐらい許せよ!保護者か!我が子が可愛いってか!オレだって可愛い後輩欲しい!」
「あーかわいいかわいい」

そんな訳で、俺はみょうじをなんだかんだ可愛く思っている。
部活中はきちんと今のチームに向き合ってサポートをしてくれて、終わったらやって来て一通り木兎さんの話。俺のする木兎さんの話で笑ったりちょっと残念そうにするみょうじの、ころころ変わる表情を見るのが最近のブームだ。もっと色んな表情が見たい。

今日は、どんな木兎さんの話をすれば、みょうじは笑ってくれるだろうか。


■□■


「あ、お疲れ様です、赤葦さん」
「みょうじ、まだ残ってたの?もう結構遅い時間だけど」

部活の自主練が終わって部室に戻ると、新人戦の下調べをしていたというみょうじが残っていた。眉間にしわを寄せた俺を見て、ごめんなさいと謝る。どうしてもここまではやりたくて、と申し訳なさそうに笑った。やりすぎた、という自覚はあるらしい。

「もう今日はおしまい、帰るよ」
「はあい、赤葦さん先に着替えどうぞ。タオルも使ってくださいね!」

俺の着替えに気を使って、部室を出て行ったみょうじ。止める間もなく出て行ってしまった。自主練後の汗冷えをしないよう、ご丁寧に俺にタオルまで渡してである。流石、出来るマネージャーだ。

本当によく出来た子だと思った。出来すぎてちょっと心配になる。最初の頃みたいに無理していなければいいいけど。

いつだったか監督にみょうじが出来すぎて怖いと話したら、俺はお前に対してそう思っていたと言われて衝撃を受けた。俺も去年こういう風に見られていたのかと思うとちょっと居心地が悪くなる。なるほど、通りで木葉さんや烏野の菅原さんとか夜久さんが声を掛けてきてくれたわけだ。

なら、俺もみょうじに沢山声を掛けてやろうと勝手に決めて部室を出た。気にかけてくれることは素直に嬉しかったからきっとみょうじなら、喜んでくれるだろう。喜んでくれるといい。

「お待たせ。帰ろうか」
「はい!」

みょうじとは途中まで路線が一緒だから、必然的に駅まで一緒になる。薄暗くなった道を歩いていくと部活の話もそこそこに木兎さんの話だ。木兎さんがどれだけ格好良くて強いかを教えてくれる。まあその試合俺出てたけどね。

「他の、もっとうまい奴だったら、もっとよかったのに、って思ったよ。そのとき」
「赤葦さんのトスだから、木兎さんも安心して打てるんですよ。きっとそうです!」

とそう言って笑顔で言ってくるみょうじが眩しくて、少し照れる。そんなきらきらした笑顔、なんかこう。邪気が払われるというか。いや、別によこしまな心はないけど。

「木兎さん、どうしてますかね。新しいチーム、馴染めてますかね」
「どうだろうね、まあ、先輩には好かれそうだし大丈夫じゃないかな」
「そういえば、去年の春高の木兎さんって、噂のしょぼくれモードだったんですよね?」

また話し始めたみょうじはその時の木兎さんがどうだったかを聞いてくる。おかげで俺とみょうじの話は9割方木兎さんの話だ。
木兎さんを呼ぶみょうじの顔はいつだって、太陽のような笑顔。いいな。

「…今年のインハイは去年以上に音駒も、井闥山も曲者揃いだ。がんばろうね」
「佐久早さんも古森さんいますもんね。音駒もきっと強くなってるんだろうな…!」
「孤爪の話じゃ灰羽もかなりマシになってきたらしいし、夜久さんも黒尾さんもいないけど厄介さは増してるだろうね」
「うちだって赤葦さんいるから厄介度マシマシですよ!」
「なにそれ」

くふくふと楽しそうに笑うみょうじ。なにがそんなに楽しいかわからないけど、みょうじが楽しそうだからそれが俺にも移って2人で笑う。
5駅も進めば、もうみょうじの乗り換え駅だ。アナウンスが流れて、扉が開いた。

「じゃあお疲れ様でした!」
「気を付けてね」
「ありがとうございます、先輩もお気をつけて!」

電車が出発して、にこにこ手を振って降りて行ったみょうじの姿が見えなくなった。なんだか体から力が抜ける。座席に座って、膝に乗せたエナメルバックに顔を伏せた。中から汗の匂い。普通に汗臭くて気分が下がった。


なんか、俺、最近おかしくないか?

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -