幸運値EXの私には他人のステータスが見える

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昔から運が良かった。

それに気付いたのは物心ついたときのこと。友達との会話で、皆が犯罪巻き込まれあるあるをこぼし始めるなか、私だけはあるあるがあるあるでないことが判明した。

いやそんな、爆弾事件に巻き込まれるとか、近所で殺人事件とか。ないからそんなの。はっきりという私に、友達は皆絶句をしていた。なんだ、いつからこんな日本は物騒になったんだ。

全員が愕然とする中で、私の手を取った友達は言った。そしてこの一言が私のこれからの私の人生、だけでなく他人の人生をもを大きく左右する一言になろうとは、全く想像もしなかったのである。





「ご利益ちゃーん!」
「私ご利益って名前じゃないんだけど…」
「ごめんごめん名前怒んないでって!にしても久しぶりじゃん?中学以来だよね!?まさかここで会うと思わなかったわ」
「私もびっくりしてる。まさか警察学校で会うなんて」

すこしくしゃりと顔を歪めると、ばつが悪そうな顔で小学校の友達は謝ってきた。小学校からの付き合いの彼女とは形だけの謝罪のやりとりをして、お互い抱き合った。三軒隣から同じ町内の別の場所に引っ越して以来、ちょっとした感動の再会である。そういえば彼女の家は警察一家だったんだっけ。

これからよろしく!と笑う彼女に私もつられるように笑った。知ってる人がいると心強い。不安だらけだったこの警校生活も少し楽しみになってきた。

「で、名前の幸運まだ続いてるわけ?」
「うん……そうなんだよね……。なんでなんだろ」
「まあまあ、喜びなさいよ!悪いことじゃないんだし!」
「そんなことないって……ご利益あるんじゃないかって気づいたら私物はないし、なんか宗教みたいになるし……」
「ああ〜、そこらへんは相変わらずなのね……」

そう。私はとてつもない幸運体質らしい。
そのせいか、米花町出身だというのに犯罪らしい犯罪に巻き込まれたことがない。小学校の同級生に話し、それが異常なことだと知った。とても不本意な渾名と引き換えに。

「いやそれにしてもご利益ちゃんとはよく言ったもんだわ」
「到底人に付ける渾名じゃないよね。言ったの君だけど」
「てへっ」
「うわ、いらっとした」

そう、私に不本意な渾名をつけたのは彼女である。私は未だに納得してない。そして彼女によって発見された幸福のお裾分け、という能力のせいで、私の生活は一変したのだ。

その名の通り、私は自分の幸福を人にちょっとだけお裾分けができる。人の運気を一気に底上げするものではなく、本当にちょっとだけ運気をあげるのだ。

宝くじで5000円貰えた。階段から落ちたけどちょっと捻っただけで済んだ。テストで貼ったヤマがちょっとだけ当たった。そのくらいである。決して人の命をどうこうできる程のものではないが、それでも無いよりは、というくらいの後押し。それを私は人に与えられるらしい。

少しでも私の幸運を人に分けられるのであれば、それは悲痛な目にあった人だったらいい。この力を何かに役立てたくて、そう思って警察を目指した。目指すは生活安全課か、交番のお巡りさんである。公安部や警備部やら交通部志望ではない、ないったらない!

なにはともあれ、初心忘れるべからず。その思いを胸に掲げて、私は警察学校の校長へ敬礼をした。私の警察人生のはじまりだ!



***



学校にも慣れて来て、友達も出来た頃から良く聞く話があった。隣の教場にとんでもないイケメンが、しかも複数いる、という話だった。
へえ、そうなの。と軽く流す私に、クラスメイトたちは興味ないの!?と声を荒げた。そんなこと言われても警校は恋愛禁止だし、と言うと屁理屈こねない!と怒られた挙げ句、一辺でいいから見に行こ!と強制的に引き摺られて、私はのこのこと隣の教場を覗きにきてしまった。

イケメンに興味が無いわけじゃないけど、別に積極的に見に行くほどじゃない。本人たちもいい気分ではないだろうと思う。そんなことより私は、この後に控えている全く覚えられない刑法の小テストの方が大事だ。だから、一応付き合いでチラッと見て帰ろうと思っていた。

彼ら5人を見るまでは。

隣の教場に武道のクラスで仲良くなった友人がいるので、その子に話をしに行く体でチラっと見るだけ、というのが友人の言い分だ。絶対嘘である。面食いの彼女がそれだけで終わらせる筈もないし、あわよくばお近づきになるために話しかけに行ったりするんだろう。肉食系女子の彼女は時々びっくりするぐらいの行動力を見せる。巻き込まれるのも面倒なので、なるべく目立たないようにしたいと思いつつ、彼女に続いて隣の教場を覗き込んだ。

っっっっはああああ!?!?!?

「はっ!?!?え!?……はあっ!?」
「ど、どうしたの?」

なっ、なっ、なっ、なにあの5人ーーー!!!!!

なんで!?なんでそんなに、幸福値が低いのーーー!?!?

特にあの金髪の輝きオーラがすごい人!!!マ、マイナスってどういうこと!?しかも桁が違う!? か、彼の人生に一体なにが!?

ちら、と覗いた教場にはもう一瞬で視線を持っていく5人がいた。す、すごい…まじでイケメンだ、これは確かに一度見とけと言われるのも納得である。
しかしながら、私が注目したのはそこじゃない。私の目が捉えたのは、彼らの頭の上に浮かぶ、あり得ないほど低い数字である。

突然だが、私には、友達の彼女にも話をしていない、もうひとつの秘密がある。

それは、他人の幸福値がステータスのように、数字で見えること。
ある日初めて巻き込まれたとも言える、本当にちょっとした事件をきっかけに、人の頭の上に数値が見えるようになった。ちょっと分かんないと思うけど、私にも分かんない。でも事実なんだよ…。

事件のあと、人の頭の上になにかぼんやりとしたものが見え、それが日に日にくっきり見えていくようになり、数字だと認識したときには、もう視界に入る人すべての頭の上にはそれが見えていた。
その数値は、日によって減ったり増えたりするけど、その人とっての平均みたいなものがあって、ある場合を除いて大きく変動することはない。そのある場合というのが、事故や事件など、不運や不幸に見舞われたときなのである。

それが幸運値だと気がついたのは、横断歩道で信号待ちをしていた時のこと。急に目の前のサラリーマンの頭上の数値が点滅し、急降下していくのが見えた。
ほんの2、3秒で0間際まで下がって行った数値に、え、どういうこと?と思った次の瞬間、サラリーマンは暴走したバイクと衝突した。言葉が出なかった。私の人生の中でも、ショッキングな出来事上位にランクインする出来事だった。

だけどそれ以上に驚いたのは、大丈夫ですか!と駆け寄ってハンカチやタオルで応急処置をしているとき。私が意識確認をしたり、話しかけたり、なにかすればするほど、頭の上の数値が上昇していくのだ。

えええ、なにこれ、とぽかんとしていると気絶していたその人が意識を取り戻して「あれ…あんまりいたくない…」と呟いた。そんなわけあるか、と救急車に乗せたが、後日警察を経由して本当に大したことなくてその日の内に退院したと聞いた。まさか、とは思ったあと、止めを指したのは担当したお巡りさんだった。「彼は幸運だったよ、なんせあと10cm立ってる場所がずれていたら死んでたらしいからね。処置が的確で、体を動かさなかったことも大きな要因だった。君も応急処置ありがとう」と言われた私は悟ったのだ。

あの数字はあの人の幸運値だったのだと。

それから色々とわかったことがある。
私には幸運値が見えること。不慮の事故などで亡くなるかもしれない人は皆一様に幸運値が低いこと。幸運値をあげると不幸から回避がしやすいこと。亡くなる=幸運値0ではないこと。私が触ったり何か物をあげるとその人の幸運値がベースアップすることだ。

ちなみに気になる私の幸運値は、鏡で確認したらピカピカ光るEXの文字。どういう意味なのこれ…。

なにはともあれ、そういう能力を持って人生を過ごして来たのだけれど、今まで誰しも一定以上は幸運値があって、値が低すぎる人を見たことはなかった。不幸な目に合う人間だって、不幸に直面するそのときに、一時的に下がるだけで幸運値は基本的に大きく変化はしない。それをどうこう出来るのが私なのだが…。とにかく幸運値の低すぎる人も、それどころかマイナスの値なんて見たことがなかった、のに!

なんであんなイケメン達が揃いも揃って幸運値低いの!?

イケメンはみんな悲惨な過去とか運命を背負ってないといけないの!?どういうことなの!?特に金髪の人は!?マイナスって!一体!?なに!?

みんなこの先の人生に一体どんな試練が待ち構えていると言うの!?!?みんな死んじゃうなんて言わないよね??いくら警察官だからってそんなに死亡率高くないよね??

こ、こうしちゃいられない……これは、今こそ!私の幸運値EXを存分に使う時!!

そう思った私はひとまず自分の教場へ帰り、次の休みを外で過ごす外出許可申請書を書き殴ったのだった。





イケメン軍団、降谷君と愉快な仲間達の幸運値を上げる、という目標が設定されてから2週間。

さて、一体どうしようか、と頭を抱えた私は一先ず地元の良く行く神社で御守りを買った。なんとかという凄い刀が奉られているらしい。嬉しそうにとんでもなく綺麗な和風装束の人が色々教えてくれたけど、なんかのイベントだったんだろうか。そういえばあの人達幸運値見えなかったような……まあ、いいか。

綺麗なお兄さんのアドバイスと、なんとなくの直感で買った、交通安全・成功成就・旅行安全・厄よけ祈願・安全祈願の5つの御守り。もちろん、伊達くん、松田くん、諸伏くん、降谷くん、萩原くんの分だ。
問題は、これを何て言って渡そうかというところである。勢いで買ってしまったはいいが、その後のことを全く考えていなかったので、頭を抱えてしまった。いや本当に何て言って渡そう。

貴方の幸運値低いのでこのアイテムで運気上げてください?

だめだ宗教の香りしかしない。だれか助けて。
そうは思っても誰も助けてくれないので、めそめそしながらもしばらくチャンスを伺った。元々そんなに頭もよくないので、結局強行突破しか手段が選べなかったのは、絶対に内緒だ。

渡すタイミングを見計らって声を掛けようとしても掛けられない日々が続いた。
もちろんその御守りたちは、いつ渡してもいいように肌身離さず持っている。しかしこの5人、本当に仲良しなのである。ちょっと御守りを渡すにはしんどい親密さである。俺らの世界に入ってくんじゃねーよ感がすごい。むり。というか仲良し過ぎない?いや、いいんですけどね。

その親密さ故に「実はデキているんじゃ……」と女子たちが噂し、夜な夜な熱い討論がされているという……。なんの討論分からないけど、けいれい?まつはぎ?とかなんとかいう謎の暗号はたまに聞こえてくる。きっとあれは集会の合図なはず。集会に参加資格のないらしい私にはよく分からない……みんな仲良くしよ……ハブはよくないよ……。

とにかく、5人纏まってるところに突っ込んで行けるほどの度胸は私にはないし、そんなことすれば過激派女子達からの報復が怖い。実はこれは難易度かなり高いのでは、と頭を抱える毎日を過ごしていたある日のこと。

廊下ですれ違った彼らの話がたまたま聞こえてきた。今日は皆質問や課題があるらしく、ばらばらに過ごすらしい。やっとである。これは最初で最後のチャンス!絶対逃すまい、と私はガッツポーズをして今日の放課後を待ったのだった。

友達にはどうした、と凄く心配されたが、なんでもない、と誤魔化した。

苗字名前、心を鬼にしていざ神妙に参ります!


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