ノマドくんと隣人のハゲとロボ

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俺があの馬鹿みてえに思春期延長させてる魔法使いから異世界に飛ばされて数年。世界を股にかけるノマド生活を送っていたが、とうとう海賊蔓延る世界から脱出することに成功した。本当に長い期間だった。禁じられた呪文の100や200は打ち込まないと気がすまない。
唯一惜しいのはあのコックのメシが食えなくなることくらいだ。が、幸いにもノマド的な働き方ができる俺だ。ランチにイタリアでパスタを食って、ディナーにメキシコでタコスを食ってもいい。魔法界に戻ればどうとでもなる。ノマドで仕事をするということはそういうことだ。

そういや、あのタコヤキっつーのはあの世界だけの食いもんなんだろうか。最初はタコなんつーゲテモノ食わせんだと思ったが、なんだかんだあれが一番美味かった。くそ、レシピぐらい聞いときゃよかった。話が逸れた。

まあ、とにかくようやくこれで懐かしのバタービールにもありつけるわけだ。懐かしい味と魔法族のクソ同胞共が俺を待っている――はずだった。





「オイオイ……またかよ……」

呆れてものも言えねえ。
ただでさえ廃墟染みた町にある俺の部屋は長期案件から帰ってみりゃ、それはもう粉々にされていた。失礼、少々控えめな表現だった。跡形もない。ジェームズ・ボンドだってここまでど派手にはやらないはずだ。
しかもこの感じだと昨日今日で壊れたわけじゃなさそうだ。留守中は任せろとか言ってたあいつはどこで何をしてるんだ。まさかのうのうと部屋にいるわけじゃねえよな……!

チッ、と舌打ちを零してそのまま隣の部屋へ向かう。ドアノブを回すとガチン、と固まった。流石にゴーストタウンとはいえ鍵くらいは掛けているか、と舌打ちをもう一度こぼした。俺の前じゃ意味ねえってわかってるくせに小癪な。
杖を出して解錠呪文を唱えればチェーンロックも解錠された。そのままズカズカと室内に入る。日本は土足禁止だとか言われてるがそんなこと、今の俺には関係がない。

「おいクソハゲ、俺の部屋がねえんだけど」
「げっ……!……よ〜、名前。……おかえり」

乾いた笑いと引きつった表情が俺を迎えた。目の前にはジャージを来たハゲと平べったい鍋があった。皿と箸は少なくともここで生活してる人間以上の数が並んでいる。

「おやおやおやこりゃたまげた。自信満々に留守中は任せろと言った男がこの有様で、平気なツラしてパーティしてるとは。俺には到底想像が付かなかった。俺の負けだよバッドガイ。で?原因はなんだ?ピーターラビットがロケットランチャーでも武装してきたか?それともモリアーティ教授が墓から蘇ったか?是非、魔法使いのくせに、想像力の乏しい俺に教えてほしいんだが――」
「めちゃくちゃ皮肉るな」
「光栄だ。イギリス人のアフタヌーンにはスコーンとクロテッドクリーム、それと皮肉が欠かせなくてな。で?俺の、部屋は、どうした」

区切り区切り言うと、ハゲ、サイタマは俺の部屋の方に視線を送った。お世辞にも直ったといえない馬鹿でかい穴が空いてる壁だ。そしてその壁の向こう、俺の部屋の床は全抜けしている。
帰って来てドアを開けた瞬間の俺の絶望がわかるか?

「あ〜〜いや、その、……がいっぱいとび出て来てな、……お前の部屋から」
「へえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜なんだって??」
「くっ……スマセン!今日の鍋にご招待させていただきます!」

長い相槌を打てばサイタマの顔を流れる冷や汗の量は、ドッと増えた。ほんとわかりやすいやつだ。
大方怪人に襲撃されたのは事実だろうが、戦ってるうちに俺の家を壊したんだろう。それくらいはわかる。プロテゴマキシマは掛けていたがそれを上回るとなると、原因なんかこいつくらいしか思い浮かばない。1人ドラゴンめ。とにかく、俺の家を戦場にするのだけはやめろ。

「は〜〜、くそ、こっちは疲れてるっつーのに……『レパロ』」

懐から出した杖を振ると、壊れた壁が巻き戻し映像みたいに綺麗に戻っていく。サイタマは「相変わらずすげーな」と呑気に直っていく壁を眺めていた。こいつが魔法族ならこいつにやらせるが、マグルのこいつでは修理に何か月掛かるかわからないのでしょうがない。修復されていく壁を放置してサイタマの冷蔵庫を漁ると丁度ラガーが出てきて迷いなくプルタブを開ける。

「おまえよりよって一番いいやつを……発泡酒にしろよ」と言われたが無視した。うるせーな、いつもウィスキー飲ましてやってんだから文句言うんじゃねえよ。
どか、と床に座る。日本人はなんで床に座んだろうな、腰痛めそうだ。やたら低いテーブルに乗った平べったいなんも入らなさそうな鍋と2人分の小さい皿が並んでいた。
俺がしばらく留守の間にサイタマには友達が出来たらしい。こいつ、感性はまともだけど時々無意識に人煽るからな。友達もいないと思ったが……いたのか。

「パーティねえ……つーか何パーティだよ。俺はタコヤキでもいいぞ」
「名前、ホントたこ焼き好きだよな……今日は、スキヤキだ」
「SUKIYAKI……聞いたことないな……」
「フッフッフ……」

SUKIYAKI……もう一度テーブルを見れば茶色いスープの入った鍋と黄色いたれの入った皿。なんだ、付けて食うのか、全然わかんねえ。……これ、卵か?えっ、ポーチドエッグでもねえ卵を生で食うの?は?オムレツとかスコッチエッグとかあるだろうがよ、卵の食い方なんか。なんでわざわざ生選んだ?腹壊したらどうすんだよ。

「おい、これ生の卵……」
「しかもだな、今日は……」

うげ、と顔をしかめるとサイタマは不敵に笑った。知らねえ料理出してきて俺をおちょくるんじゃねえよ。頭光らすぞ、と頭頂部を見ればごほん、と咳ばらいをして、ひきつった口元を穏やかにさせて。冷蔵庫へ向かっていった。いつもだったらキレんのに、やけに機嫌いいな、こいつ。

「見ろ、名前。ジェノスが持ってきた松阪牛だ!」
「いやジェノス誰だ――」

サイタマがどうやら高級らしい冷蔵庫から出した肉を掲げた瞬間、とんでもないスピードで部屋に何かが突っ込んで来た。粉々に破壊された瓦礫と衝撃波が容赦なく襲ってきて、文字通り俺とサイタマは吹き飛んだ。肉と鍋を巻き添えにして。

「未登録の生体反応を感知!サイタマ先生ご無事ですか!?!?おのれ侵入者め!排除する!」
「ボンバーダ・マキシマ!!」

おいハゲサイタマ!俺の部屋吹き飛ばした犯人こいつだろ!?

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