気付いたら推しと同じ世界にいたのでモブとして救済しようと思っていたら既に手段が断たれていた件について2

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なんだかんだ退院までに3日掛かった。
これまで集めた情報によると、私は帰宅途中に轢き逃げにあったらしい。なんですって。

幸い怪我は大したことないものの、打ち所が悪かったせいで記憶が飛んでしまった。他人はおろか、自分に関することすら朧気にしか覚えていない。ということにしておいた。
正しくは、覚えているのはコナンの世界のことと僅かな(主にオタク的な)自分に関することだけである。おい私どんだけコナン好きなんだよ。どうかしてるぜ。

落ち着いたら余りにも「」な自分の現状にメンタル激落ちするのでは?と思っていたが、全くそんなことはなかった。
なんも覚えてないせいか、ショックの受けようがないからだろう。開き直りともいう。はあ、まあ、言われてみればないっすね、記憶。ぐらいのものである。我ながら図太い神経だ。恐ろしい。

ケータイも事故の拍子に壊れたらしく、データのサルベージも不可能。たぶん色々入っていたと思う。ネタとか。お気に入りサイトとか。無いけど喪失感。
いや、サルベージされなくて良かったとは思うが。もし推しに見られたら爆死する。笑えないやつだこれ。やめよう。

それはそうと、せっかくコナンワールドに突入したのだ。最推しである警察学校組を救済しようと決めた。
歴史修正者?知らない子ですね??推しが幸せに生きてくれるよう尽力するのがオタクとしての使命だと思うの。これだけは譲れねえな!そうだよな!?ハム太郎!?へけェェェそうなのだァァァ!!

問題はどこでどうやって救済するかである。これには正確な時期の把握と、綿密な作戦立案が必要。つまりは情報と時間である。
作戦の立案はね??支部とかでたくさん予習()したからいいんだけどね。時期の把握が難しいのである。まさか萩原研二に「あなた時限爆弾解体作業中に爆弾の横で悠長に煙草吸ったことあります??」なんて聞ける訳がない。あまりにも具体的すぎて私ならドン引く。

不自然にならないようにどう聞き出すか。しっかり考えていかないと墓穴掘りまくる自信がある。なにしろ強くてニューゲーム!なヒロインではないのだ。私にあるのは、大して良くないオツムの夢女(履修済)、というボスの一言でカッ消されそうな事実のみである。とにかく考える時間が欲しい。

なのに!!!どうしてそんなに構ってくるのかなあ!?

叫びの原因は恐れ多くも我が推し達だった。なぜか松田陣平と萩原研二が入れ替わり立ち替わりつきっきりでお世話をしてくるのである。
そしてそこに伊達航が加わった。伊達航は噂に違わぬ兄貴っぷりでした。いや本当に。ナタリーさんは良い旦那を貰えてうらやましいですな〜!推しカプよ幸せ掴んでくれ〜!いやむしろ私が掴ませてやるぜ〜!

話が逸れた。なにが言いたいのかと言うと、食事の世話・雑談の合間に診察、事情聴取、退院後の説明、リハビリ、検査検査検査事情聴取検査……。しかも全てに誰かが同席。はい、控えめに言っても時間ないですね。誰だ時間は作り出すとか言ったやつ。
そうこうしてるうちに萩原研二と松田陣平とは普通に話せるような仲になってしまった。いやそれは本当にこの世の全てに大地讚唱するべきなんだが。
そう、それこそタメ語で話せる仲になったんだが、頭撫でてくるわ手ぇ握ってくるわ、なんかスキンシップ多くないですか??
リップサービス過多で私を殺す気ですか??事件の重要参考人なのでとりあえず優しくしてるだけだよね??もしかして……トゥンク……なんて、見守る系夢女は勘違いなんてしませんからね??

そして今日。俺ら迎えに行けないから別の奴ら寄越すな、と頭を撫でてくる松田陣平とそれにおい、と言いながら相方を肘でつつく萩原研二のじゃれあいに魂が震えて、肝心なところを聞き逃した私に全責任があります。尊くてよく聞こえなかったと意味不明な供述を繰り返しておりはいすいません黙ります。

それは私が、二人から時間まで病室で待っているように言われ、待機していたときに起きた。
せっかくなので暇潰しで萩原さんに渡されたファッション紙を開きつつ迎えとやらを待つ。雑誌は、「事故った時の服は血とかでぼろぼろになっちゃったから、もう着れないんだ。参考までに選んでね、見繕ってくるよ」とノンブレスで言い切られて渡されたものだ。
嬉々として俺の好みはね、と私の好みも尊重しつつ自分好みに寄せてくる萩原さんと、これ一択、絶対似合うからと太鼓判をおしてくる松田さんに挟まれた私の心境を述べよ。正解は、それはお互いの服でやってください、である。
結果として、松田さんチョイスのスカートに、萩原さんチョイスのニットである。イケメンで性格もよくてセンスも良いってただの神様じゃないですか〜!?なんて悶えていたとき。

――コンコン

正直上の空だったこともあって、軽いノックの音にはーい、と声を返す。家じゃないんだぞ私。そう思ってガラリ、と開けられたドアを見て私は固まった。

天使の輪が見えるほどの艶々の黒髪。灰色の瞳。可愛らしい猫目と凛とした雰囲気。あごひげありかなしかの議論は未だに途絶えないが、私はありよりのあり。すらりとしているのに、肩幅はがっしりとした体躯。極めつけはネイビーのスーツ。

きらきら輝く麗しのご尊顔。太陽を詰め込んだようなさらさらの御髪。褐色の肌は健康的かつ溌剌した印象を与えるだけでなく、彼の持つエキゾチックな雰囲気をさらに増幅させる。瞳はさらながら青い海を取り込んだエーゲ海の(以下略)

「アッ……ヒョォッ……」

オタク、語彙失いがち。

あああああ目が、目がああああ!!!
推しが!!!動いてる!!!しかもスーツ!!
こんな美の暴力なんて!!聞いてないよ!

お分かりだろうか、80億の男とその幼馴染である。
じゃーん。真打ち登場ってね!私の大太刀助けてえええ。大阪城で私の語彙力拾ってきて…ダメな主でごめんね…。

「はじめまして、になってしまうのか。なんだか名前相手に不思議だな……俺は降谷零。今日は松田と萩原に言われて迎えに来たよ」
「俺は諸伏景光。改めてよろしくな、名前。退院の手続きはもう済んだか?」

そんな困ったような顔で笑わないで下さい。供給過多で死んでしまいます。無理……ほんと……ハァ……無理……。

これで警察学校組をコンプリートしてしまった私はこの後一体どうしたらいいのでしょうか。どこに納税すればいいの?誰か教えてください。





「す、すいません……送って貰ってしまって……」
「気にするな、いつもと変わらないから安心してくれ」
「連絡貰ってすぐに来たかったんだけど仕事が立て込んでてさ、今日まで来れなくてごめんな」
「それにしても轢き逃げだなんて酷い目にあったな、本当に大丈夫か?名前はいつも肝心なことは黙ってるだろ?これでも心配してるんだ、なんかあったらすぐ言えよ」
「ひゃい……」
「はは、噛むなよ」

オタク語彙失いがち(2度目)

ということで今私はあの!新宿330 と 73-10ナンバーのRX-7に乗っているのである!!!うおおおこれがあのモノレールを駆け抜けた車ですね!?このフロントガラスがあの3発で叩き割れるというあの!!僕の!恋人は!!この国さ!!!雄み溢れるう〜〜!!!あああああ心がぴょんぴょんするんじゃあ〜!!!

おわかりいただけただろうか。

私はこの興奮を隠して車に乗っているのである。噛むことのひとつやふたつ許してほしい。しかも、しかもである。なんで諸伏景光は私の手を握ってるの??待って??おかしくない??これ脈で嘘ついてないか確認するやつでしょ??私ぴくしぶで見たもん。私いま貴方たちのせいで心臓ばくばくなんで何聞いても無駄ですけど??だから離してもらって良いですか???軽率に触れないで頂きたい。溶けてしまいます。

「手がどうかしたか?」
「いや、その……」
「外の景色とか覚えてないか?ほら、あそこの喫茶店、よく行ったろ?」

あああああそこはァ〜〜!!!!!
喫茶ポアロって!!ポアロってねえみなさん!ポアロって書いてある!!!マジで!?!?ほんとにポアロ!?!?………ポアロだ!!!ちらっと梓さんいた!!!

というかそこの方は元職場じゃないですかこんな普通に近く通って大丈夫なんですか!?!?2階の幼馴染宅に合法的に同棲している少年に見られたらまずいんじゃないですかね!?!?
まって。推しと行く聖地巡礼とかどんなご褒美……!わが人生に一辺の悔いなし!!第三部・完!苗字名前先生の次回作にご期待ください――

変わらずにっこにっこと窓の外を指差す諸伏景光……ウッ圧倒的光属性…!と、とけてまう……!辛うじて首をふるふると横に降ると、そっか、と眉を下げてへにゃりと笑った。あっ……心臓止まる……。これがハニトラ……じゅごい……。

その後も二人と私の体調を気遣いながらも色々な思い出の場所を回った。デパート、公園、映画館、ゲーセン、警視庁、警察庁、エトセトラエトセトラ……。唐突にトロピカルランドや杯戸ショッピングモールを挟んでくるので本当に油断ならない。
警視庁や警察庁は通りすぎるだけだったが、それでも風見さん居ないかな!?とガン見してしまった私は悪くないはずだ。みんなも見るよね!?

時々降りて歩き、説明を受け、首を降る。それの繰り返しである。米花町回りきったのでは?と思うくらいには歩いた。控えめに言っても最高である。私が首をふる度にちょっとしゅんとする彼らには大変申し訳なく思う。

思って、そして、ぴしり、と体が固まった。

あ、あれ?
待って、そういえばなんで諸伏景光は外を出歩けるんだ??
変装とかないの?いや、その猫目は本当にね、本当に可愛らしくて好きなんだけどいいの??組織に狙われてないの??翠川唯とか緋色光にならなくていいの?大丈夫?? 公式が恵んでくださる前までは私も支部で唯川と名乗らせていましたすいません。

そんなこと、聞いたらとんでもないというか、その場合は良くて監視対象認定、悪くて軟禁エンドのマジもんの地雷案件なのでこれ以上は聞けない。
つまり会話から察するしかない。なのに!それっぽい話題を避けまくっているせいで私も核心に迫れない!!だってボロ出そうで怖いんだもん!!!

しかも何の配慮か、以前の私がどういう人間だったか、という話は全く出てこない。轢き逃げ犯の捜査進捗のことはもういいんで。それより君たちのこと話してお願い。仕事の愚痴でもいいから。私それでご飯3杯いけるから。嘘です私のこともっと話して。

それすら無く淡々と続いていく会話。これが公安の話術……なんなのカリスマ美容師なの……?萩原研二、松田陣平ともに、観察力も推理力カンストしてそうだ。ちょっとの綻びで全て芋づる式にばれていきそう。本当警察学校組は優秀過ぎて怖い。流石日本の宝。ほとぼりがさめたらお礼にお歳暮送りますね。

私が妄想している間に、家に着いたらしい。車が止まると同時に降谷零が運転席を離れて、後部座席のドアを開けた。流れるような動きだった。これは降谷零というより安室透では??いつから彼を降谷だと錯覚していた?なの??難易度高くない??
車のドアを自分で開けないのはタクシーしかないような模範解答のような一般人の人生である。エスコートなんて頭の片隅にもなかった。ぽかんとしてしまった私を見て、降谷零がふっ、と笑って手を差し出した。

「お手をどうぞ?」

―――はっ!?

はあああ〜!?!?!?なにそれサービス過剰すぎませんか??お手をどうぞって??どうぞって??なんなのこの溢れ出るバーボン感。バーボンは性的過ぎるのでやめてください!まだこの話はR18タグを付ける訳にはいかないんです!なんていうレアスチル??もう心のアルバムに保存しましたからね
!ちゃんと3カメのアングルで取りましたからね!?1カメ2カメ3カメェ!ほんとに!!顔が!!良い!!絶対分かってやってるでしょ!この!小悪魔め!!いやその小悪魔っぷり流石だぜそこにシビれる憧れるぅ!!!これは!!ちゃんと御所に、御所にしまいしまいしないと!!!国宝ですぞ!!

「ほら、ゼロが呼んでるぞ」

っっっっあ!?!?

もう一人のボクが暴れているせいでフリーズした私の耳元に、手を握っていたはずの諸伏景光が影を落とした。と同時に囁くような低い声。もちろん色気1000%である。あぐぅ……腰にくるお声……流石……CV●川……!!!声が良すぎて体が跳ねたのは人生初体験である。
ほんとに!!恐ろしい方だ!!!というかそのちょっといたずら成功しましたみたいな顔なんなの??ちょっとあざとすぎて意味わかんないんですけど??この顔は警察学校組で皆でゲームしたときとかにちゃっかり1人勝ちして「悪いな〜」とかいうときの顔でしょ!?
なにそれ可愛すぎるわ。可愛すぎてキレそう。このあざとい顔はちゃんと神宮に奉納しないと!!ここに!!社を建てねば!!!

推しを無視するわけにもいかず、震えながら降谷零の手をとった。腰が抜けて立てなかった。うそだろ。
結局私は小鹿よろしく足腰が死んでたため、降谷零に支えてもらい、諸伏景光に荷物を運んで貰うという事態に発展した。ごめんな、と苦笑する諸伏景光。

くそ!!!声が!!!良い!!もちろん顔も!!いい!!私の推しは今日も最高なんだ!!!




やっと落ち着いた私は、彼らに案内されるまま全く見覚えのない自分の家らしきドアに着いて鍵を開けた。鍵の場所や家に入ってからの動作なんかは体が覚えていたらしい。習慣て怖いね。
そこまではいいんだけど……なんでこの二人も一緒に入ってきてくつろいでるの??
いや荷物運んでくれたのは有難いんだけどね??こんな美しい二人に私の部屋見せるとはなんの罪だよ、私がセクハラしてる気分だ。しょっぱい。どうか成人指定の本が分かりやすく置いてありませんように…!

普段の私なら部屋に2人がいる〜〜!!と心臓がふるえるぞハート!燃えつきるほどヒート!状態なのだが、特に鋭い2人にはバレてはならないという緊張感でどうにかなりそうである。
早く私がどんな人間だったのか、貴方たちとの関係を聞かせてください。それを踏まえて早急に救済計画を立てなければ!モブとしての救済は出来ないことがわかったが!!私は!君たちが助かるまで!救済を!やめない!!

沈黙が痛すぎるのでとりあえず情報収集も兼ねてテレビを付けた。冷蔵庫の確認がてら二人に飲み物のリクエストを聞いてみる。
あ、でも公安は飲めないんだ「「ありがとう」」あれれー?おかしいなー?飲めないんじゃないの……?
知り合いはいいの??支部の妄想は所詮妄想だったのか……!?そんな……!!いいんだ……これがありのままだというなら私はどんな神々だって受け入れる所存。

ここかな、と戸棚を開けるときちんと目当てのものが入っていて本当にビビる。体が勝手に動くのだから凄い。本当に記憶がないのは対人関係と私の過去だけなんだな、それなんて世界からの修正力?
なんか飲み物のバラエティーは凄かった。コーヒー、ココア、紅茶、煎茶、緑茶、キャラメルラテ。漫喫か。コップもなぜか5個以上。給湯室かよ。そんなにいるか??1人で住むにしては家もやや広いし、一体私は何の仕事してたんだか。誰かとルームシェアでもしてたのかな。わっかんないなーー。手詰まりだよパトラッシュ……。

お待たせしました、と持っていくとテレビに映った人物を見て私は度肝を抜かれた。

「く、工藤新一……!?」
「名前!? 思い出したのか!?他には!?なにか思い出しあだぁ!」
「落ち着けってゼロ、怖がるだろ?工藤新一は知ってるのか?」
「あ、いえ……あー、その雑誌で……」

とっさに嘘付いてしまったが大丈夫か?
そうか、工藤新一がテレビに出てるってことは原作前、コナン時空に突入する前ってことか。ということは萩原さんのイベントが……?あれ、待って計算合わなくない?いや、そもそも警官学校組の設定自体がご都合主義的な所はあるけども!

「高校生探偵のブランドも今年までだろ、確か来年から大学生だったはずだ。くそ、ちょっと顔が良くて若いからって……俺の方が優良物件だろうが」
「え」
「一時期活動休止してたけど戻ってきたよな。ゼロ本音出てるぞー気持ちは分かるけど」
「は」

ということは工藤新一は18歳……?あれ……?17歳じゃないの……?
なんとなく感じていた違和感がようやく繋がり始めた。公安組に連絡をとる萩原研二。ブラックスーツではない松田陣平。左手薬指に指輪をした伊達航。外を歩ける諸伏景光。安室透を名乗らない降谷零。18歳の工藤新一。

これってつまり。

「救済済み……?」


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