気付いたら推しと同じ世界にいたのでモブとして救済しようと思ったら既に手段が断たれていた件について

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ふっ、と気づいたときはあれ、ここどこだろう、という他に何かがおかしいという違和感があった。

「知らない天井だ…」

つい口から出た言葉に確信する。あっ私意外と元気だわ。いやそれにしてもここどこだ。回りを見ると病院っぽいので慌てず騒がずナースコールである。飛んできた医者に全身の違和感について聞かれ、ついでに色々聞かれた。

いや本当に申し訳ないんですが、まっっっったく記憶無いんですよね。なんでここにいるのかも分かんないですけど。いや、あるんですよ?あるんだけど絶対答えちゃいけない記憶だよねこれ。まさか言えるだろうか、この世界『名探偵コナン』の世界ですよなどど。
お医者さんのネームプレートに記載されていた病院名見てびびったよね。なんでよりによって米花中央病院なわけ…おかしくない…?というかなんで私ここにいるの…?

今連絡の付く方呼びましたので、と言われても誰が来るんだ一体。状況が分からないままお医者さんは飛び出て行ってしまった。なんたる放置プレイだろうか。解せぬ。
私の記憶は幽かにあるものの、果たしてこれはどちらの記憶なんだろうか。覚えているのは、名前と名探偵コナンのこと。家族もおそらく卒業したであろう学校も友達も何も思い出せない。やべーなこれなんてボーンシリーズ?

家族って言わなかったということは、家族に連絡が取れなかったんだろうな。それはこっちも一緒か。果たしてこっちの『私』は一体どんな人間だったのか。頭の中を探っても何も出てこない。あまりにこの世界の私と価値観違ったらどうしよう、ハードモード過ぎる。誰か助けて…ふえぇイージーモードで生きたいのにコナン時空が許してくれないよぉ…。…やっぱり私シリアス無理だわ。

ぼーっと外を見ても夜のせいで暗くて全く分からない。今がどの時期なんだろうか…。執行されてドハマりした私としては、せっかくなので80億の男も見たいし、ポアロでカラスミパスタ食べたいし、工藤邸でゴミ出しするFBIだって見たい。見たいもんばっかなんだよ!!ファンなんてそんなもんだろ!!そっと推し達の幸せな日常を垣間見ればそれだけで生きてく糧になるんだよ!

ファン論はさておき。頭を過ったのは、タイミングによれば私の最推し達の運命に干渉することも出来るのでは??ということ。そう、私の最推し、警察学校組の運命に。あの美の神とも言える降谷零と同期にして心の友たるあの5人である。惜しいひとを亡くしたとかいうレベルではなく、日本の経済活動に大きな打撃を与え、GDPが大きく下がる要因にもなるあの5人である。そんな私の最推し達を、早い段階であれば救済できるのでは?真っ先に考え付いたのはそこだ。

今がどの時期なのか分からないが、私には原作既知と妄想補完というアドバンテージがある。支部の巡回で予習済()の私としてはこのチャンスをみすみす逃す術はない。私の推したちはもっと幸せになるべきなんだ!(集中線)

さて、救済はいい。国会でも全会一致で可決されたから問題ない。だが、どうやって、だ。
下手に原作に関わって影響が出ることは避けたい。原作の流れが変わった時点であまり頭の宜しくない私には代案など難しいだろう。でも彼らが死ぬのも嫌。どうしたものか。

そうだ、関わらないように救済すればいいのでは?ここは魔界都市米花町。おそらく人口の3%くらいは殺し屋と名高いだろうし、巻き込まれる人も多いはず。そんな中でたった4件、運悪く事件に巻き込まれてもモブ枠として終わるはず。
その4件が全て彼らの救済であればいいのだ!そもそも爆弾犯の片割れは死ななかったし、階段を駆け上がる音はしなかったし、過労死寸前なトラック運転手はサービスエリアでおねんねである。そうと!決まったら!!私は私のための推し救済計画を立案する!!

推しは見てるだけで幸せなんです!!!そのなんでもない笑顔とじゃれあいがは最早神の与えたもうた奇跡。ありがとうございます!!ご馳走さまです!!!
確かに私は雑食ですけど一番好きなのは男同士の友情なんですよ!!そこにヒロインはいらねえんですよ!!(これは夢小説です)せいぜい枠の外で指加えて見てるのが正しい推し活なんだ!!(これは夢小説です)
だから私は推したちとは接点なく!優しいお巡りさんと善良な一般人との関係性を維持しつつ!彼らを救済するのだ!!イィィィヨッシャアアアアア!!!頑張っちゃうもんねえええええ!!!

と、思っていたら。
ばたばたと廊下から大きな音が聞こえてきた。ああ、そういえば病院だったっけここ。だれか運ばれてきたのかな、と耳を済ます。そういえば誰に連絡したんだろうか。手元にケータイは見当たらないからケータイから連絡のつく友人か、職場か。いや誰が来ても困るんだよね…『私』がとんでもねえクズだったらどうしよう。

ドアの外から名前を呼ばれると同時にガタァン!と思いっきり扉が開かれた。おいおい雑にもほどがあるしちょっと今から作戦立てるんだから静かに…し…て…。

「よかった…!目、覚めたって聞いて!すぐに駆けつけたんだ…!傷は?痛くない?大丈夫!?」
「えっ…」

ぱっちりおめめに男にしてはちょっと長めなさらさらの黒髪。如何にも走ってきました、みたいな額に滲んだ汗と荒い息。へにゃりと下がった眉とほっとしたような顔。控えめに言ってもイケメンですね。

アッここ夢だわ。なーんだ、夢か。道理でこんなレアスチル脳内に保管出来たわけだよ。いやあ、はは、は。

待ってこのまま現実逃避したい、したいんだけど。ちょっとね、これはね。急遽対策チームが必要だと思うんだ。だって心の準備が何一つ出来てないの。だからね、おかしくない?

なんでここにケンジ・ハギワラが…?

「本当に大丈夫…?轢き逃げにあったんだ、頭を強く打ったらしくて2,3日目覚めなくて…。なにか覚えてない?」
「えっ」
「こら。突然起き上がるなって、万全じゃないんだから、な?」

は〜〜!?!?!?こらって優しく諭してくるのなんなんですか?私のこと殺しに掛かってません??しかも、な?って??それ顔がいいから出来るやつ〜!!ウインク付きだったら私は多分心臓発作(死因:イケメンの過剰摂取)でこのまま眠るように息を引き取るにちがいない。そもそもこの世界のイケメンも美女も軽率にウインクしすぎである。やめてください。死んでしまいます。

あっ!?!?ちょっと頭撫でるとか!頭撫でるとか!?!?あー!!困りますお客様!!というか私車に跳ねられたんですね!?!?犯人絶対捕まえるから安心してね?って蕩けるような笑みなんですけどなんなんですか〜〜??そういうのは松田と降谷が小競り合いしてるのを景光と見て浮かべる笑みなんじゃないんですか??それを至近距離で拝めるとか本当になんてご褒美スチルなの。いくら??いくら課金したらいいの??

「もうすぐ松田が来るから、安心してよ」
「エッ」

さっきから私母音しか出て来てなくてIQ激落ちしてるんですけどどうしてくれるんですか。いやもともとそんなにないけど。というか松田ってもしかしてもなくてあの松田であってますか??あのサングラス外すとかわいいおめめが出現して女子達のギャップを煽りまくるあの松田陣平様ですか??

「まつだ…?」
「え…?ちょっと、まさか…」
「いや、あの…」

さーっと顔色が悪くなるケンジ・ハギワラ。あ、やばいこれ記憶ないの気付かれたやつ。どどどどうしよう、エッ、とまつだ、しか発してないのに分かるのヤバくない?やっぱ現役の警官取り調べ上手すぎてやばたにえん。公安はこれの上をいくだと??もはや人間ではなく神なのでは??

私の狼狽えっぷりを肯定と取ったらしいケンジ・ハギワラは、すとーーーんと突然表情を落としました。まる。

エッ???待って唐突すぎる。つうか表情ないのも麗しいな。表情豊かな人が急に表情無くすと美しさが誇張されませんか??されるでしょ??今私はその美しさを目の前にしている訳ですが、これは美術館に銅像として飾るべきでは??いやそれよりもバレたんだよ記憶あやふやなの。おいどうするんだよ。

などと考えていたら再び廊下から誰が来る気配と、ノックした瞬間に開け放たれる扉。いやケンジ・ハギワラといい開けるの早いし返事してから開けてくれ…よ…。

「おい!目ェ覚ましたって本当か!」
「松田、ど、どうしよう」
「は!?なんでお前が泣いて…」
「ぅぅう"!こい"づ!!ぎお"ぐがな"い"!!!!」
「は…」

ケンジ・ハギワラ、全力の濁音である。許されるのは幼女くらいだと思っていたが、まさか成人男性の全力にきゅんとしてしまうとは不覚が過ぎる。その声で松田呼びって。というか泣いてるって。ああ〜〜心がぴょんぴょんするんじゃ〜!!

もうお分かりだろう。扉を開けたのは天然ふわふわの黒髪にぱっちりおめめ。これまた全力で来ましたと言わんばかりの額ににじむ汗、弾む肩。黒いスーツではなくジーンズとシャツという私服。

うそだろ、おい。冗談やめろよ。と震えた声でベッドに座る私の手を握って来たのはどこからどう見ても松田陣平ですね。眼福。しかもくしゃりと顔をしかめた悲痛の表情。まってこれは今すぐ模写して美術館に寄贈すべきでは??

萩原がトチって死んでしまったとき松田陣平はこんな表情してたんでしょ??こんな風にそのイケメェンな顔を歪めて「…萩原」って空になった萩原のデスクを見ていたんでしょ!?ああああこれは私ではなく本来親友に向ける顔でしょなんで私なの!?ねえなんで私なの!?いや殉職はさせねえよ?させねえけどそれとこれとは話がちがくてだな。

はっ、私が透過すればいいのでは??そしたらその悲痛なご尊顔を受け止めるのはケンジ・ハギワラしかいないじゃないですか。そうだ、決めた透明になろう。今が発動するときだ私の個性!!!私の!オリジンは!!いまこの瞬間に自覚したから!!!唸れ個性!!このカオスな空間から脱する術を教えてください!

「え、えっと…松田…さん?その、えーと」
「な、…まじかよ…」
「わ、私…どういう」

関係だったんでしょうか。

なんてことは松田さんの抜け落ちた表情を見た私に続けられる訳もなく。チキンだって言ってくれて構わない。だっておまえ!この表情を見てどうやって言えるの!?本日2度目のすとーーーんって急に無表情になるやつ!?ヤバくない!?控えめに言っても好き!顔がいい!はい頭を沸いてますね。知ってます。

手を握る松田さんの力が急に強くなった、あ、痛いってばよ…あれ夢じゃない…?内なる私のテンションと部屋の空気との温度差が酷い。これが噂のグッピーが死ぬやつですね。はいはい、現実逃避現実逃避。

ええ〜〜〜どうしたらいいのこのシリアスな展開〜〜!!!いやでも本当に記憶ないし、持ってる情報少なすぎるし!というか、私と貴方たちの関係ってなんなの!?つーかさりげなく私というモブによる華麗なる救済計画が既に破綻したのでは!?元々知り合いだったなんて聞いてないんですけど!?

あっあっあっ!?まって萩原さん、どこかに連絡取ってますけどそれあれですよね!?公安組ですかね!?!?それはまずいよ〜〜会いたいけど〜会ったらすぐ見破られて公安お得意の監視がつくのでは?いや私流石にそれは嫌だわ、お願い誰か助けて〜〜!!!
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