おいでませ、夢の舞台03


扉を開けたら懐かしい金髪ともじゃもじゃの髪。なんだ、黒染めとか坊主にしてたら面白かったのに。そんなことを思っても、3ヶ月前、白鳥沢戦の時に見た姿と変わらないことにちょっとだけ安心した。

お久しぶりです、挨拶をすればタブレットを見ていた武ちゃんと繋兄の2人がそれまでの難しい顔をゆるめた。

「ああ、苗字さん!お久しぶりです!明けましておめでとうございます」
「武ちゃん先生!明けましておめでとうございます!」
「おお、よく来たな。明けましておめでとう、調子どーだ」
「ばっちし!んで、どしたの」

挨拶もそこそこ、差し出された座布団に座ると繋兄と武ちゃんから色々な近況を聞かされる。ほへー、話には聞いてたけど色々あったね、と言うとお前もあっただろ、と呆れられた。

学校が変わって、春高出場を決めて、また世代の代表に選んで貰って。ぱっと見たら華やかに見えるかもしれない。でも、やれる努力を全部詰め込んできたこの半年は忙しくて充実もしていた。
そんな話をすると2人は私を見て安心したように笑った。ご心配おかけしてすいません、と私も笑う。

「こんなに遅くなるならソッチ持ってきゃ良かったな。まあいいや、たっつぁんからお前にだとよ、ほれ」
「なにこれ?」

ぽい、と渡されたCDROMには名前用とデカデカと書かれていて、思わず首を傾げた。良いもの、と言われてもピンとこなかった私に、繋兄がふふんと誇らしそうに笑った。

「俺SUGEEE動画!だ!元は烏野用に作ったんだけどよ、たっつぁんがお前らの話聞いてえらく感動してな、お前の分も作ってくれたんだと」
「ほえー、まじか。ありがとうって言わなきゃ。大会来てくれるかな?」
「勿論来るっつってたぞ。お前もなんか用事あったんだろ?」
「ああ、うん。私なりに纏めてきたんだけどさあ、はいこれ」

渡したルーズリーフにはびっしりと文字で埋め尽くされていて、それを見た繋兄が目を見開いた。対戦校以外にもアップの注意点、配置図、場所取りのコツ。これまで何度も出場している春高のことを、先輩たちに聞いてまとめてきた。役立てばいいんだけど。

「個人的に気を付けた方がいいなって思ったことと、稲荷崎の選手データだよ」
「おお…!さんきゅな。助かるわ。つうかよく調べたな」
「まあね。決定戦、侑は居たけど治いなかったでしょ?少しでも参考になればと思って。とは言っても昔の印象と人から聞いた話だからどこまで合ってるかわかんないけど」
「おま、…知り合いなのか!?稲荷崎の双子と!」

驚いたように言う繋兄にこくり、と頷く。そう、実は話題の宮ツインズとは会ったことがある。かなり前にはなるし、流石に連絡先交換するほどの仲じゃなかったから、向こうが覚えてるかは分からないけど。

「昔JOCで会ったしたことあって。もう私の記憶とは違うと思うけど…性格的なとことか参考になるかなって。あんまりアテにしないで欲しいんだけど…あとうちのセッターが従兄弟らしくて色々聞いてきた」

どうする、聞く?と言う前に、繋兄はがっと私の肩を掴んだ。

「聞かせろ…!」

あっ、これ繋兄結構焦ってたやつだな?皆に言えないけど、治の情報少ないんだね。侑ばっかで。県代表戦は治出てなかったし。

どうぞ、とお茶を用意してくれた武ちゃんと繋兄で話を進める。大地さんとか影山を呼ぶ気配はない。皆にはとことん明日の椿原に集中してもらう感じかな。私もそれがいいと思う。まず、と言って始めた話は長丁場になりそうだった。





「わ、もうこんな時間。やば、戻んないと」
「うお、ほんとだ。大丈夫か?門限あるだろお前んとこ」

時計を見れば結構な時間が経っていて驚いた。確かに寮は門限があるけど、今日は親戚の家に泊まらせて貰っているので安心だ。

「大丈夫!今日は親戚の家泊まるし、そもそも既に門限越えてるから平気!」

ばちーん、とウインクをかましたら案の定繋兄から拳が降ってきた。痛い、と抗議しても甘んじて受けるしかない。何故ならさっきから武ちゃんの暗い目が私を捉えて離さないからだ。いや〜、熱烈な視線。…暗いけど。

「ったく、最初に言えよお前…おいまさか1人で帰る気か!?」
「だめ!です!女子生徒がこんな遅くにひとりで出歩くなんて言語道断です!田中くーん!?西谷くーん!?集合ー!」
「せ、先生…?その2人で大丈夫か!?縁下つけようぜ!?な!?」
「流石、信頼の無さ…」

乾いた笑いはバタバタと転がり込んできた2人に掻き消された。バターン!と豪快に扉を開けて入ってきた2人は相変わらず騒がしくて耳を塞ぐ。

「名前じゃねーか!!水くせえな!来るなら言えよ!」
「元気か!?つーかお前また身長伸びたか!?つーか上手くなって貫禄増したか!?」
「おっ!言えてるぜノヤっさん!!つーか◯×Ωθ★♪ー!」
「×△&☆$@#!!」
「いやもうなに言ってるかわかんないわ」

呆れたような繋兄と苦笑する武ちゃん、喚く田中と飛び跳ねる西谷。いつもながら酷いな、と思っていると2人の後ろから黒い影がぬっと現れた。

「静かにしろって言ったよな…?お前ら…」
「ひっ、だ、大地さん…お久しぶりです…」
「おう、苗字元気そうだな!ちょっと待っててくれな」

なにかと思ったらまさかの大地さんだった。しかもいつもの恐ろしい笑顔。はい…と返事をすればにこ、と笑った。大地さん、めがわらってないです。

結局、大地さんは何を喋ってるかわからない2人の首根っこを掴んで、ずるずるとロビーの方へ引き摺っていった。あの2人はもう少し緊張した方がいい。世界の平和のために。

「おっ!苗字ちゃん!ホントに来てたんだな!おっきくなったか〜?」
「親戚かよ、スガ。苗字さん、元気そうでよかったよ〜」
「スガさん!旭さん!お久しぶりです、調子どうです?」
「ははっ!変わらずだべ!苗字ちゃんは?」
「ばっちしです。旭さんは相変わらず震えてますか?」
「震えてないよ!…震えそうだけど…」
「旭ノミかよ心臓〜、うける」

今度はスガさんと、旭さんが大地さんと入れ違いで入ってきた。プチ同窓会みたいになってきたので私たちも繋兄たちの部屋を出て大地さんの後を追う。
ロビーで正座をさせている大地さんと、その横にいる縁下。やっぱり次期主将は貫禄違いますね、とスガさんと旭さんと笑った。

安心したのは、みんなだけじゃなくて私も同じ。やっぱり来てよかった、とひっそり息をこぼした。


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