IF/宮城県選抜参加03


「……斎藤コーチが体調不良のため、急遽ここから合同練習試合を行います!」

見られている。

それはもう。穴が開くほどに。

コートの向こうから私をじっと見てくるその視線にさっと反らす。それでも尚突き刺さる視線が真っ直ぐ過ぎて、背中に寒いものが伝った。こんな視線を送ってくる人間なんて1人しかいない。
性能の落ちないただ1人の天然煽りマシーン・ウシワカ。言葉無くとも煽ってくるのか、恐ろしいやつだ。……わかってる現実逃避だって、……国見君、そんな哀れむような目で見ないで……。

だから。

「苗字、お前は今日は向こう側入れ」

鷲匠監督にそう言われて思わず声が裏返った。どうしてそうなったんですか、監督。

「お前さんのレベルならこっちの方がいいだろ」
「(バレてる……)……は、はい」

ぼそり、と小さく呟かれたその言葉にぎくり、と肩が震えた。ちょっと物足りないと思っていたのがばれてしまった、と焦る。流石白鳥沢の監督なだけある、と思って足を運ぶ。行きたいような、行きたくないような。

3年チームに合流すると、案の定牛島さんが目を爛々とさせた。だから怖いんだってば……!
迷うことなく私の元に来た牛島さんはじっと私を見下ろしてきた。

「苗字と同じチームは久しぶりだな」
「だって牛島さんいつも対戦したがるじゃないですか……しかもポジション被ってるし、試合ならまだしも練習だとバランス崩れますよ」

白鳥沢は牛島さんの攻撃を軸に据えたチーム編成になっている。だから私みたいな中途半端な攻撃が一枚入ったところで微妙じゃないですか。それも牛島さんは分かってたと思っていたんだけど。

「いや、お前のそのオールラウンドの動きは勉強になる。頼んだぞ」

牛島さんはそう言うと、ポン、と肩を叩いてきた。勉強になるって言われても、私の方が経験も実力も全然下のはずなんですけど。きっと牛島さんなりの褒め言葉なんだろう、有りがたく貰っておこう。
どうも、と返してミーティングに向かう。いずれにせよOBを入れた即席チームだからいいか、牛島さん以外でも色々試せるでしょ。

「(流石及川さんと岩泉さんの弟子……すげえな名前さん……)」
「(御愁傷様です先輩……)」
「(牛島さんに頼んだぞって言われてる!苗字先輩ずりぃ!)」
「(牛島さんに言われるなんてすげえ名前さん!)」
「っち!」
「(ツッキーの舌打ち迫力あんな!?)」

そんな眼差しが1年生達から向けられていたことは知らない。





バァン、と音が立ててボールが突き刺さった。ぴー、と笛が鳴った。試合終了だ。流れる汗を拭ってはあ、と息を整える。うん、まずまずダネ。とは思いつつも、やっぱり1年の伸びしろはすんごいよね。貪欲でちょっとだけ嫌になる。なんていうか常に腹を空かせている妖怪みたいで。

まあ、そんな妖怪はここにもいるんだけどね。その妖怪2人はコートの脇でスクイズを飲みながら話をしている。名前ちゃんの若利くんへの反抗期は終わったらしい。時々嫌そうにしながらも前みたいな拒絶反応は出てないし。

今なんか他の人が入ってこれないくらいの雰囲気出してるし、いったいどうしちゃったのよ。これは聞き出すしかないんじゃない?と思ってふらふら近づく。なんてからかってやろうかな、と思っていたのに。

「その時ってどうしてるんですか、牛島さんの場合」
「その場合か、俺も余り経験したことはないが、そうだな」
「なっ!」
「えっ!?」
「……チッ」

なんと若利くんはおもむろに名前ちゃんの体を掴んだ。なにがって、名前ちゃんが何も拒否しなかったことにだ。これには俺もビックリ。ほんとどうしちゃったの。なんか工とか烏野のメガネくんとかは動揺したりキレてるけど。なに、メガネくんは名前ちゃんにお熱なの??モテモテかよ。

「腰はこう捻る、そうするともっとパワーが出せるようになるはずだ」
「なるほど……」

肩、肘、腕、とうとう腰にまで若利くんの手が触れる。普通同世代の異性にあそこまで体触られたらちょっとは恥じらってもいいと思うんだけどそんな様子全くないね?名前ちゃんが赤面のひとつやふたつしてくれたらすんごい面白いことになるのにナァ……。

「……やっぱ苗字って牛島さんに負けず劣らずバレー馬鹿ですよね」
「賢二郎も言うようになったな、天童、ほどほどにな」
「おい天童そっとしといてやれよ」

獅音くん、英太くん、俺のことなんだと思ってんの。こんな面白いことほっとけるわけないでしょ。

「やだ若利くんったらダイタン!」

あれあれ名前ちゃん顔赤くなったんだけどこれは予想外に面白くなるのでは?ちょっと、殴らないで英太くん。悪かったから。ごめんってば名前ちゃん。






「そういや、影山。苗字さんっていつから東京なんだ?」

ブロッコリー2号とストレッチをしてたらたまたま苗字先輩の話になった。やっぱ森然でも苗字先輩は時々話題になるらしい。梟谷と音駒は仲良いから分かるけど森然で出てるとは思わなかった。

苗字先輩が烏野を去るまであと僅かだ。すげえ中途半端な時期だし、正直、春高後でもいいんじゃねえか、とは思う。でも、チームとしてはあの高いレベルのプレーは近くに欲しいとも思うから、向こうの監督が呼び寄せたくなるのもわかる。

「あー、あの人は」
「おい、いま苗字って言ったか」

なんて、思っていたら全然違う声で苗字先輩の名前が呼ばれた。すぐ後ろ、俺らを見下ろして眉間に皺を寄せるその人には少しだけいつもと違った驚いたみたいな表情があった。

「……ハイ、言いましたけど、あの」

なんで佐久早さんが苗字先輩??

「は?苗字って烏野にいんの?女子の烏野ってそんなに強いのかよ」
「いや、マネージャーッスけど……」
「は……?マネージャー?あいつが?」
「え、なに、苗字ってマネージャーやってんの?選手じゃねえの!?」

今度は古森さんが寄ってきて苗字先輩の名前を出した。すげえ、やっぱ全中出てただけあるな、あの人。こんな強え人たちに知れ渡ってるのか。
それともただの友達なのか、と思ってたけどなんとなくピンと来た。

ああ、苗字先輩のスパイク、少しだけ、この人に似てんのか。

「はあ、あの、苗字先輩って」
「ああ、俺ら選抜とかで一緒になったりしてんの。練習とかもしてたし。同じ東京だから大会とかでもよく会ってたんだけど、急に姿見なくなってさ」

辞めたのかと思ってたわ、とけらけら笑いながら古森さんがそう言うとちっ、と盛大な舌打ちが聞こえてきた。佐久早さんだ。なんでこの人こんなキレてんだ?

「なんだよ、ソレ……ふざけんなよあいつ……」
「仲、いいんすか?」
「……苗字が勝手に自主練に」
「名前アイツ烏野なん!?飛雄くん!」

そう言って割り込んで来たのは宮さんだ。苗字先輩の名前を出した途端、すげえ勢いで絡まれている。すげえな、苗字先輩。

宮さんも苗字先輩と知り合いなのか?なんつーか、こう…日向みたいな顔をしている。ぱああ、と今までとは全然違う表情の宮さんにちょっとびびった。

「はあ、でも、もう少ししたら前いたとこ戻るっつってました」
「まじか!なんやあいつなんも言わんで…!見つけたんなら言わんかい…!」

ギリギリ、と拳を握り締めて悔しそうにする宮さんの言うアイツって誰なんだろうか。あの人、知り合い多いからまた誰か知らない人なんだろうか。

「?……どういう?」
「ああ、俺のイトコが名前ちゃんとコンビ組んでてな、何回か一緒に練習させてもろてな……さよか」

そう言って、宮さんがにや、と笑った。


「……見つけたんなら、ええわ」


逃げた方がいいっす、苗字先輩。





ぞくぅっ!

「苗字!お前何で今飛ばなかったんだよ!!」
「ごごごごめん、白布君……!何か突然狙いを定められたかのような悪寒が……!」
「はあ?ワケわかんないこと言ってんなよ。次同じことしたらもう上げねえ」
「ごめんなさい……」




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -