きっとどこか似たもの同士


「あの、バレー部の方ですよね…?」

そう呼び止められて振り向くと、いつだったか牛島さんが連れてきた女子がそこにいた。

うちの練習に混じっても遜色のないレベルの技術をもっていたからよく覚えている。
あの時は牛島さんとこの人以外は蚊帳の外だったこともあって、黙って見てるしか無かった。それでも、あの走り去った時の悔しそうな横顔はまだ記憶に新しい。

一緒にいた瀬見さんが、少し驚いたようにその子を見ていた。ちゃんと正式な手続きを踏んで来ている以上無下に追い返せない。ましてや、牛島さんの特別っぽい人だ。じゃなきゃあの人あんな恥ずかしいこと言わないだろうし。

まあ、この人は牛島さんのこと嫌いっぽいけど。牛島さんはそんなことないって言い張ってるけど。結局どっちなんだ。まあ、でも牛島さんに連れられてきたんだから、今日も牛島さんを呼べばいいだろう。

「はあ、バレー部の川西っすけど…ええと、あんたはたしか、」
「苗字名前です…あの、今日は白布くんか天童さんいますか…?」

そう言って苗字さんが指名したのは圧倒的に付き合いの浅い天童さんと賢二郎だった。牛島さん、やっぱり嫌われてませんか?





「お久しぶりです、天童さん、白布くん。あ、白布くん、ごめんね、白布くんのタオル紛れてたみたい。洗ってお返しするね」
「まァじで名前ちゃんじゃん!若利くんなら職員室で先生に捕まっててしばらく来ないよ?」
「いや、いいです。別に牛島さんに会いに来た訳じゃないですから」
「ばっさり切りすぎだろお前…」

ばっさりと牛島さんを切り捨てた苗字はこの間のお詫び、と称してそこそこのお菓子を持ってきてくれた。そしてついでに持っていってしまった俺のタオルもきちんと洗濯して持って来てくれた。律儀なやつ。

受け取ったタオルからはふわり、とした柔らかい匂いがして、柄にもなくどきりとした。おいこんなとこで女子感出してくんなよ。

「なんだ、そんなもの持ってこなくても誰も気にしてなかったのに」
「いいんです!私も久々に高いレベルの練習させて貰えましたし。迷惑かけたのは間違いないので」
「まあ、そこまで言うなら貰っておくけど…あんまり気にすんなよ?若利も好き勝手言ってたし、なんならビンタのひとつやふたつやっといてもいいんだぜ」

獅音さんと隼人さんがそう言うと、苗字はちょっと困ったように笑った。なんつーか、ほんとお前変なとこで煮え切らないやつだな。嫌いなら来なきゃいいのに。

「…あながち間違いじゃないんです、牛島さんの言うことも。でも、まだ認めたくないって思っている自分もいて…、つい。子供みたいですいません」
「まあ、若利の言葉は真っ直ぐすぎる時があるからな…苗字の名前は伏せて貰っておくよ。ありがとうな」
「こちらこそ、ありがとうございます」

牛島さんが来るまでの少しの間だけ、苗字からいろんな話を聞いた。皆が気にしている牛島さんとの関係については、苗字が気まずそうに話すと、天童さんや獅音さんがあちゃあと顔を覆った。瀬見さんがぽん、と苗字の肩を叩いて申し訳なさそうに謝った。

俺も牛島さんのことは尊敬してますけど、気になってる女子にそれを言ったらだめじゃないですか、と流石に呆れてしまった。

あのときは知らなかった苗字のことが少しずつ分かって、少しだけやっぱり白鳥沢に来ないかな、と思ってしまったのは。俺の心にだけ留めておこう。





しばらくして牛島さんが部活に来た。
苗字さんはとっくに帰っていて、牛島さんがお菓子に気付いたら俺らの中で事前に決めた内容でさりげなく話を反らそうと思っていたのに。

「なんだ?誰からの――」
「若利?これか?父兄からの差し入」
「苗字が来たのか」

気付かれないようにしようとして、獅音さんが適当な理由を伝える前に牛島さんが断言した。う、うそだろ。なんでわかったんだよこの人。ちょっと引いたといったら堅二郎は怒るだろうか。

「ど、どうして…」
「…俺の一番好きな菓子だ。あまり甘いものは好まないが…これだけは好きだと苗字に言ったことがある」
「若利くんの名前ちゃんセンサー半端ねえ!若利くんの想像の通り!名前ちゃんがお詫びにって〜」
「天童さんバラすの早すぎですよ…」
「だって太一ィ、黙っててもしょうがないじゃん?」

呆れた俺がそう言うと、ほい、と天童さんは牛島さんにお菓子を渡した。それををじっと見る牛島さん。真剣すぎませんか。

「そうか…何か言っていたか?」
「ん〜?特には?」

天童さんは流れるように嘘をつく。本当は苗字さんから色々聞いたけど。黙っておこう。馴れ初めとか。牛島さんが苗字のこと好きで空回ってちょっと残念な話とか。部活での牛島さんと違いすぎて賢二郎がめちゃくちゃうろたえた話とか。

「そうか、ならいい」
「いいの?若利くん名前ちゃんにお熱じゃん」

本当に天童さんははっきり言うなあ、と呆れてしまった。3年も瀬見さんを筆頭にそんな雰囲気が流れているから、きっとみんな思ってんだろうな。

「こうして何かしらの行動を起こして、あいつが俺に何も言わず黙っているのならば。苗字は前に進んでいるということだ」
「詳しいんですね、苗字のこと」
「ああ…ずっと、見てきたからな」

ふ、と笑う牛島さんは今まで見たことがないくらいに優しい顔をしていた。ランニング行くぞ、という牛島さんは颯爽と部室を出て行く。残された俺達は呆然とするしかない。

「俺、牛島さんってもっと一直線なのかと思ってました」

ぽつり、と呟いた賢二郎の言葉が部室に落ちた。こくり、と俺も頷く。

「まあ、一直線は変わんないだろうな…天然なのは否めないが、ぐいぐい行くようで相手のことはちゃんと考える奴だからな」
「そう、ですかね」
「じゃなかったら、俺らだって主将にしてないぞ?」
「それも、そうですね」

出ていった牛島さんの背中を追うべく俺も外周用のシューズを取り出す。バレーでも何でも超人的な先輩の意外な姿に、少しだけ安心したと言ったら怒られるだろうか。




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