もしも青城でマネをしていたら


「お疲れ様です」
「お疲れー」
「おっ名前ちゃんにまっつん!午後練行こうよ〜」
「そりゃいきますけど…みんなで何話してたんです?」

部室に入ってきた名前先輩と松川さんが首を傾げる。せっかく纏まり掛けてたのにそれ聞いちゃいますか、先輩。

「あー、金田一がアダ名付けてほしいんだと」
「らっきょヘッドは!嫌っす!」
「らっきょヘッド?」
「烏野の10番が金田一のことをそう呼んだんですけど、なかなか的を得ていると思いません?」

そう言うと松川さんと名前先輩は金田一をまじまじと見た。

「まあ、たしかに。らっきょだなあ、どっちかっていうと白菜とかかもしんないけど」
「その下りさっきやったわ」
「まじか」

そう話す花巻さんと松川さんに金田一がまたショックを受けて、今度は名前先輩の方を向く。

「名前さん!なんかないっすか!?俺にふさわしいアメリカンかヨーロピアンなアダ名!」
「諦めろって金田一〜、ハンガーが似合いすぎるのは俺の特権だって!な!身の丈にあったアダ名じゃないと大変だぞ〜?」

ハンガーも正直どうかと思いますけど、と言わんばかりの名前先輩の呆れた視線が及川さんに刺ってるけど、黙殺されたらしい。岩泉さんが諦めろ、と言わんばかりにかぶりをふった。

「金田一のアダ名ねえ…」
「松川なんかあんのか?」
「うーん…ないな。いんじゃね?らっきょヘッドで」
「松川さん!!」

もう松川さんはこの話題に飽きたらしい。テキトーに話を進め初めた。是非そうしてください。

「名前ちゃんはなんか思い付くものない?」
「金田一のアダ名ですか…?うーん」
「ほら、やっぱりらっきょヘッドだって!」
「あんまりっすよ!!」

金田一うるせー、と思っていると、名前先輩が思い付いた、と言って、金田一がまじっすか!と食いついた。犬かよ。なんか嫌な予感する。この人マジで無自覚にやらかすからな。そう思っていたら、名前先輩がとびきりの爆弾を落とした。

「勇ちゃん」
「は?」

すっげえ低い声でましたけど及川さん。
それ聞いたら普段きゃーきゃー言ってる女子たち全員逃げ出すレベルじゃないですか。そんなこともお構い無しに、名前先輩は続ける。誰かこの人止めてくれ。

「金田一勇太郎じゃないですか。勇ちゃんでいいんじゃないすか?っていうか、金田一長いと思ってたんで、そう呼んでもいい?」
「!! もちろ」
「はーい!ちょっと待ってちょっと待って。なんで金田一が下の名前がベースのあだ名で呼ばれて、名前との信頼関係がダイヤモンドのごとき俺や岩ちゃんが名字にさん付けなの!?」
「だって先輩じゃないですか…」

もちろん!と全力でOKをしかけた金田一が急に吹き飛ばされた。物理的に。まあ、相手は言わずとも分かる。及川さんだ。名前先輩の視界から金田一を無理矢理弾き出したこの人も結構ゴリラだよな、と思う。我儘を言う及川さんに正論で返す名前先輩。先輩は間違ってないけどたぶんタイミングが悪いです。

「じゃあ!名前は今、この時から俺を徹って呼ぶこと!!絶対だから!」
「徹、さんですか?それとも徹くん?」
「…………徹くんで」
「おいキモいぞ」
「男の赤い顔なんか需要ねえよ」
「母ちゃんの腹からやり直せ〜」

赤くなった及川さんはなんていうか、まあ、女子が見たらきゃーきゃー言うんだろう。男にとってはなにも美味しくない。まあ、それは先輩たちが代弁してくれた訳だけど。

この人変なとこで純情だよな。名前先輩は変なとこ距離感間違うし。普通なんの疑いもなく下の名前呼びますかね。まあ、名前先輩なら呼びますよね。知ってます。

「キモ…っ!?じゃあお前らも呼ばれてみなよ!名前ちゃん!第一印象で!マッキーでもまっつんでもなんでもいいから呼んでやってよ!」
「はあ、え、えーと、一さん?貴大さん、一静くん」

バン、バン、バン。
西部劇ばりに名前先輩が撃ち込む。この人たちチョロすぎねえ?と思っても喋らないのが吉。ことの成り行きを見守っておく。なんだかんだこの人たちはこれでもう満足してくれたらしいので、金田一にテキトーにあだ名付けて早く話終わってくれないかな、と思う。

「……おう」
「……あー、なんつーか」
「……悪かった及川」
「でしょ!?わかるでしょ!?岩ちゃんもマッキーもまっつんもキモい顔してるんですけど!?」
「キモいっていうんじゃねーよ!」

いつものように名前先輩を置き去りにしてぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた3年を横に、名前先輩の方へ近づく。国見ちゃん、どうしたの、と首を傾げる名前先輩。
どうしようもなく、バレーに純粋で、距離感のおかしい先輩。名前先輩の側は、心地良くて好きだ。例え俺が可愛い後輩としか見られていなくても。

「もう面倒なんで、名前先輩、今まで通り名字呼びでお願いします」
「金田一で?」
「はい、あいつの命のためにも」

大げさだな、と言うこの人の笑顔が見れるなら、側にいるのは及川さんでも岩泉さんでも誰でもいい。松川さんだって、花巻さんだって、俺はいい。…金田一はムカつくから保留だけど。

だから、初めて会ったときのような、あんな表情はもう2度とさせませんよ、名前先輩。

「うん、わかった。国見ちゃんは?」
「そのままでお願いします」




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