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「名前はなんか変わったな!」
そう言って少し後悔した。言ってしまった。少しだけ、声が上擦った。
名前は変わった。1ヶ月部活を離れていた俺だから分かることだと思う。久しぶりに見た名前は、纏っている雰囲気が違った。
自分のこともチームのことも。最後の一歩が信じられなくて、少しでも揺らぐと崩れてしまいそうな名前はもうどこにもいない。
ただ、まっすぐ前を見る名前がそこにはいた。
もう前までの名前じゃない。
こんな、名前が見たいと思っていたのに。
いざ名前が俺なしでも立っているのを見ると、少しだけ悔しく感じた。俺がいなきゃなんて言わないし、本当なら喜ぶべきなのも分かってる。
それでも、誰の支えもなく立ってしまった名前から、あの西谷と呼ぶ声が聞こえないのは、少しだけ嫌だった。俺と龍だけが聞ける、特別な声。
こんなこと言える訳がない。
これは俺がずっと、できることなら死ぬまで心の奥にしまっておくべき想いだ。
「西谷」
やわらかく呼ばれてはっとする。名前はどうした、と言わんばかりに俺を見てる。真っ直ぐで、ガラスみたいなきらきらとした目。きれいだ、と思った。
「どしたの?行こうよ、部活」
名前があまりにも純粋に笑うから。名前がそう望んでいるのなら、俺はこの汚い感情も、どろどろした子供のような独占欲も、全部仕舞い込む。
この、ガラス玉みたいな名前の目がずっと綺麗で、俺が憧れたバレーをしてくれるなら。
俺はそれだけでいい。
そう思っていたんだ。
「名前ちゃん、音駒にこない?夜久も研磨も居るし結構レベル高いぜ、うち」
その言葉を、聞くまでは。