25


委員会の都合で朝練に出れなかった。どうしてよりによって今日なんだと思った。今日は大事な日なのに、と思っても現実は変わらない。

仕事が終わって教室に向かうと廊下の奥から田中の声が聞こえてきた。相変わらず大げさなやつ、といつもならそれで終わるけど、今日はそうじゃなかった。戻ってきた。やっと。

私も田中の声の方に走って行く。
いる。
待ち望んでいた、その背中が見える。

「にしのや…!」

田中や縁下に囲まれてる中、私の声に西谷が振り返った。西谷はけじめだと言って頑なに私たちに会うことを避けていたから。だからこうしてちゃんと話すのは久々になる。春休みもあったから、尚更だ。
西谷は少し驚いたような顔をして、それからいつもの安心できる、満面の笑みを浮かべた。

「待たせて悪かったな、名前。戻ったぜ!」

お帰り、西谷。

ねえ、頑張ったよ、私も田中も。

縁下や成田や木下だって。凄い1年も入ったし、及川さんは居なかったけどあの青城にも勝ったんだよ。縁下達が居なくなったときもしんどかったけど、西谷がいないのは、もっとしんどかった。

西谷が居ない間に、少しでも私は強くなれただろうか。もう、泣かないと決めたあの日から私は進めただろうか。西谷に寄りかかるのはやめると決めた日から、私は1人で歩けているだろうか。

1人でちゃんと立とう、と思っていたのに気付けば西谷の姿を探してしまって嫌気が差すこともあった。それでも。
田中や青城の人たちに支えられて、私は私の精一杯で立って、ここにいる。それだけは私が自信を持って言えることだった。

「なんつーか、名前は雰囲気変わったな!」
「…そうかな?変わってないと思うけど…」
「んー、分かんねえけど!…名前は強くなったんだな!」

誰よりも強いと思っていた西谷にそう言われて、心が温かくなる。そうかな、私、強くなれたかな。西谷がそう言ってくれるなら、間違いないのかな。
いまいち実感は湧かない。でもね、西谷、私が確信をもっていえるのはね。

「私だけじゃない。チームが強くなったんだよ!」

そう言うと西谷はそりゃ、楽しみだな、とにか、と笑った。



ただ、あの日から。
私たちは旭さんの背中を見ていない。







「ノヤ、あいつ、強くなったと思うか?」

名前は移動教室だ、と言って早々に教室に戻っていった。そんな背中を見送りながら、ノヤに問いかける。俺の中にあったいつまでも完成しないパズルの最後のひとつは、これで埋まるんだろうか。

ノヤが停学と部停になって、呆然とする名前に一方的にキレた。あまりに名前が地雷踏んでくるから。後から思えば、ダセエな、としか思えなかったが、そんときは俺もいっぱいいっぱいで。

絶対戻ってくる、と言いながらも不安になっていたのを、名前に当たって誤魔化していた。我ながら最低で、男らしくなかったと思う。

そんときから、名前は少し変わったように思う。
ノヤっていう名前の絶対的な存在が居なくなって、不安を隠しながらも、ノヤや旭さんが戻ってくることを信じた。大好きな練習を後回しにしてまで、チームの為に自分にできることを探す名前に、俺らが気づかない訳がねえ。

俺らが強くなるために走り回る名前の負担を減らせないか。俺らも手伝った方がいいんじゃないか、と縁下たちとも話し合った。

けど、結局俺らに出来ることは強くなることしかないんだ。名前がそれを望んでいたから。

だから、名前に任せることにした。頑張れ、負けるなと心の中で応援し、俺たちも負けるな、と自分たちに言い聞かせて、この1ヶ月、練習に明け暮れた。

そこにノヤは居なかった。

一番名前の近くで、名前を支えていたノヤは、その成長を傍で見ていることが出来なかったけど。ノヤがいなかったら多分アイツはここまで強くならなかった。

「ああ…なんとなくだけど、今までの名前じゃねえよ」

ノヤのその一言で、最後のひとつがはまる。やっぱり、そうだよな。アイツは変わったよな。だったら。

正直、ノヤが名前をどう見てるのかよくわかんねえ。
俺にとって名前は大事な仲間で、ライバルで、目標で、妹のような、姉のような存在だ。

好きだ。チームメイトとして、共にバレーをするものとして。プレーも、スタイルも。

だが、アイツのプレーは俺のそれと違う。認めたくねえが、どうしても届かないそれ。最近、名前を遠く感じるときがある。その度に、ああ、こいつは強くなったんだ、と思った。俺だけじゃない。縁下たちもだ。

なあ、名前。俺たちはお前が思ってる以上に、お前のこと分かってんだぞ。

だから、ノヤ。俺らも。


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